第18話: 呪いを克服したい。
学園生活初日は、天国と地獄を行き来する激動の一日であった。
爆発で死に掛け、カカト落としで死にかけ、鉄壁スカートで死にかけた。
イヤ、あれはご褒美だったのかな!?
そんな中でもマリアちゃんに出会えたことは天国であった。
今まで感じたこともないくらい気持ちい事をしてくれたし、身体強化も習得できた。これも全てマリアちゃんのおかげなのである。
そして今俺は、その身体強化に磨きをかけるため状態維持を練習している。
身体強化は激しい筋トレとかではなく全身から魔力を徐々に出すだけの単純なものである。大切なのは冷静を保ちつつ自然体で居ることが重要なのだ。
さて身体強化を維持する修行を兼ねて、今日こそは庭の竹を片付けるぞ……
「あ、居た居た、リュージくーん。 昨日はごめんなさ~い」
彼女は今日も元気に手を振りながら、軽やかなステップで向かってきた。
庭の竹はまだ散らかっており、そんな『4:1:2.5』のスカートにニーソ姿で転んでしまったら危ない……。
あれ、また『呪い』が再発してしまったか?
「ミリア危ない、止まるんだ!!」
「大丈夫よ、私はそんなドジじゃないから」
万が一、そんな姿でラッキースケベが起きてしまったらヤバイ気がする。俺の性命に関わる……そんな気がした。
ミリアが危険地帯に入る前に、俺は慌てて出迎えに行った。
「リュージくん、ちゃんと足元見ないと危ないわよ」
「ハハハ、俺がそんなドジ踏むわけ……」
――『ズドン!』 俺は竹に足を滑らせ華麗に転んでしまった。
視界に入ってきたのはミリアのローアングル……(攻撃力が上がってます!)
「ほら危ないって言ったのに、大丈夫?」
数学は不思議である……。ミリアが近づきどんなに拡大されても『4:1:2.5』の比率は崩れない!
危険なポジションから脱出するために俺は素早く立ち上がる。
「大丈夫、なんともないよ。ミリア今日はどうしたの?」
「今日は試験の日程を知らせに来たの。って、リュージ鼻血が出てるわ」
なんてことだ、なんで鼻血がでているんだ。
身体強化でダメージは無いはずだ……。
「だ、大丈夫だよ。これぐらいなんとも無いよ、空見てれば治るから」
「そうなの? ……えーと、試験は3日後よ。それとね、試験勉強しないと行けないから過去問題集を持ってきてあげたわ」
あぁ、勉強か……。勉強は嫌いだけれどもせっかくのご行為だからしっかりやらないといけないな。
「それは、助かる! ミリアありがとう」
「それじゃ、今から勉強始めましょうか! 3日しかないからね、徹底的にやるわよ!」
「え、今から? そ、そんな、ミリアにそこまでしてもらわなくても……」
「何言ってるのよ、早く冒険者カードを手に入れてもらって、入学金分を働いてもらわないと!」
無料じゃなかったのかよ!!
でも変に反論するのは止めておこう、怒らせたら何が起こるかわからん。
「鼻血とまった? じゃ、あのケーキの喫茶店で勉強会しましょう」
「うん、じゃ行こうか」
「よーし、れっつごー!」
ミリアは元気に歩きだした。
「ちょっとまった、ミリア先行かないで、頼むから俺の後ろへ……」
昨日から呪いが発動しているようで、ミリアを見ていると危険を感じる。
それがたとえ後ろ姿でも……。
◇
俺は異世界を甘く見ていた。
前世では考えられない『呪い』がここにはある。
そうこう考えている間に喫茶店についていた。
喫茶店の中はファミレスみたいな作りで落ち着いた空間である。
やっと、ホッとする安らぎの時が訪れたのである。
何故かと言うと……!
対面に座るミリアはテーブルという鉄壁防御に『絶対領域』を遮られ攻撃力を失っていたからである。
やはり、『呪い』の原因はあれだと、俺は確信した!
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「私はケーキセットください」
「あ、俺はコーヒーで」
「かしこまりました。ご主人様」
ハッ! 気がつけばウエイトレスはメイド姿であった。
前から喫茶店にきているにもかかわらず気づかなかった。今考えればここはまるで秋葉原? のようである。三次元には興味無いから行ったことはないが、異世界ではメイドカフェが標準だったようだ!?
「はい、これが過去問題集ね、合格点数は公表されていないけれど90点ぐらいが目安みたい」
「90点か、意外と厳しいな」
「それと実地試験があるわ」
「へー、でどんな実地試験なのかな?」
「う~ん、的を時間内で射抜く形式が多く採用されてるみたい」
「そうかー」
俺は過去問題集に目を通した。
問題の形式はマルバツ形式で回答する単純な物で、しかも、一般常識と、RPGの基礎知識問題ばかりだ。
となると、実地試験のほうを気にしたほうが良さそうだが、まあ全身強化の修行をこなせば、おそらく余裕で通過できるだろう。
柄にもなく俺は真剣に問題をとき、しばらくの時が流れる……。
「んー! ここのケーキは本当に美味しいわ――ねえ聞いてる?」
「うん」
聞こえているけど、一生懸命勉強しているから話しかけないでほしいよ。
「え、もうそんなに進んだの? まさかテキトウじゃないでしょうね?」
「そんなことはしないよ、分るところだけやって、後は開けてる」
「へぇ、ほとんど回答してるわね、意外だわ」
一般常識はともかくRPG問題は10年以上のゲーム経験があるのだ!
ほとんどの問題は俺にとって簡単なのである。
「ん、これは?」
『魔封石は魔力を抑える効果がある。マルかバツか』
たぶんマルなんだろうな。ちょっとまてよ……、これはもしかして!?
「ミリア、魔封石について教えて欲しい」
「魔封石? ああ、盾などによく使われてるけど、魔法強化の恩恵が得られないので使ってる人は少ないわね。全く魔力を使わない人は、防具から何から魔封石製品で揃える事もありますが……」
「もしミリアがこの防具を装備したら、あの必殺技は打てなくなるのか?」
「う~ん、試したことは無いけど難しいわ。盾ぐらいだったら、なんとか右手一本で出来るかもしれないけど、火力が出せるかは自信ないわ」
「さすがミリア、いいこと教えてくれた」
『魔封石』を電子部品のコンデンサ代わりとして扱えば……。電圧を抵抗調整するかのように、魔力を弱らせる事だって可能かもしれない。うまく行けばコントロールができなかった武器や、もしかしたら魔力弾だって作れる可能性がでてきたぞ。
「ミリア、あの装備屋に魔封石の製品はあるかな?」
「あると思うわ、というかあなたの買った、パ、パンツ魔封石入りでしょ……?」
あ、そうでした……、使えないと思って捨てちまった。
俺の全身強化を貫いたマリアちゃんの突きは、弱い部分を突いたといっていた。これは封印石が抵抗として使える紛れもない証拠である。
「そっか、じゃこのあと装備屋に付き合って欲しい」
「かまわないけど、まずは問題といてね。わからない事はこのミリア先生が何でも教えてあげるわ!」
「はいはい、せんせい」
俺は早く装備屋に行きたくなってしまったので、さっさと勉強終わらせようとするが、気づけばミリアは俺の隣に座ってきていた……。
「あ、気にしないで進めて、進めて」
「……」
見られていると気が散ってしょうがない。
「ふふ~ん、教えて欲しい?」
いやいや、教えたくてしょうがないって顔してますが……。
まあ、ここは言う通りにしたほうがいいだろう。
「じゃ、これを……」
「仕方ないわね! ちょっと見せて」
ミリアは耳をかきあげながら覗き込むように肩を寄せてくる。
うなじを見ているとちょっとドキドキしそうなので目線を下にずらすも、今度は禁断の絶対領域が攻撃を仕掛けてくる。
またしても『呪い』が発動しているのか!?
目線のやり場に困った俺は……。
「外はいい天気だな~」
「どこ見てんの、集中しなさい! えーとね、これは……マルよ……たぶん」
ミリア先生――、今たぶんって言ったよね?
すると店のドアが開き、そこにはマリアちゃんの姿があった。
「ミリアお姉さま、遅れてごめんなさい」
「あ、マリア遅かったわね、こっちこっち、座って」
マリアちゃんは対面におしとやかに座った。
マリアちゃんを見ていると落ち着くのはなぜだろう……、安心感がある。
「授業が長引いちゃって……」
「こんにちは、マリアちゃん」
「あれ? リュージさんどうしたんですか? すごく魔力が乱れています。この色は、すごく禍々しい感じです」
「え……」
ヤマシイ事は考えてない! 断じてそんなことは……。
「何でしょうこれは、ちょっとよく見させてください」
そう言ったマリアちゃんはメガネをかけだした。
「萌え~」 俺は無意識に声が出ていた。
ハッ……これは! ……『めがねっ娘!』 じゃないか。
すると突然目線の先から『どんがら、がっしゃーん』大きな音がする。
「きゃー、――転んじゃった!」
メイド服のウエイトレスが転んだぞ!
なんか、お約束的な微笑ましい光景だ……。
あれだ、『萌え~』だな~。
俺は無意識に前世の究極フレーズを口にしていた。今まで意識してなかったが、この異世界は前世とは一味違うリアル萌え空間で溢れていた。
「燃えってなんですか? 何か燃えてます?」
「あ、何でもない」
「あれれれ、魔力が穏やかになってます。しかも透き通るように」
「マリアちゃんの治療のおかげだよ。君は神ヒーラーだ」
「え? 私はまだ何も……」
フフフ、そうか~、そういうことか!
「ちょっと瞑想に入るから、みんな静かにしていてくれ」
俺は瞑想に入り、俺の中の俺と俺は向き合った。
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世紀の一戦: メガネっ娘 VS 絶対領域
赤コーナー~~、前世界チャンピオン~~。萌え所属~~、メガネっ娘~~!
対して、
青コーナー~~、異世界挑戦者~~。エロ所属~~、絶対領域~~!
ファイト~~!!
異種格闘技の激しい戦いです。しかしメガネっ娘が優勢か~~。
おーっと、ここで青コーナからタオルが投げ込まれました。
赤コーナー萌え所属メガネっ娘の勝利で~す!
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フフッ、結果はやる前からわかっていた。
俺の中の俺は、俺に負けて俺が勝利した。
「ほら、それじゃマリア今からスタートね!」
何を言っているんだ???
瞑想を終えた俺は静かに目を開け、勝利者のメガネっ娘を見つめる。
勝利に思わずニヤけてしまう俺。でもなぜかマリアちゃんまでニヤけている……?。
まあいいか……、次は敗者の絶対領域を見つめる。
うん、克服している!
思わずニヤけてしまったが……、なんでミリアまでニヤけているのだ??
……まあいいか。
「ミリア、俺は生まれ変わったよ! 今の俺は見違えてるだろ!」
「バカ! こっち見ないで!」
ミリアは両手で俺の顔をはさみこみ、強引にマリアの方に向ける。
「にゃにするんだゃよミリア~」
ミリアの手が圧迫してきてうまくしゃべれない。
「キャハハハハ! お姉さまずるいですよ!! それは反則です!!」
「いいじゃない、私の勝ちだからね!」
何がそんなにおかしいのだ? 君たち!
悟りをひらき呪いを克服した俺は生まれ変わったのだ。
さぞかしいい顔つきしているに違いない!
「おし、ミリア、マリア、これから装備屋に行こう!」
「わかったわw、その前にその顔なんとかしてw!」
瞑想している間に俺の顔に落書きをしていたのだった……。
『おのれ~~~!!』
後で自分の顔を見たら……不覚にも笑ってしまった。