第16話: 魔法を覚えたい。
俺は今、訓練場にいる。
マリアのヒーリングで体は癒えたが、もう一度あの必殺技を試す気にはなれなかった。何故ならコントロールの苦手な俺には全くうまくいく気がしないからである。正直に言うとマジでビビっている。
「ねえマリア、マリアはさっきの俺を見てたよね? 爆発までの瞬間どんな風に魔力が見えたか教えてくれないか?」
「そうですね。説明するのは難しいですが、イメージで言えば、細い瓶に巨大なバケツで一生懸命水を注いでる感じでした。魔力がいっぱいこぼれていました」
俺はそんな無謀なことしてるのか。
そんなちっちゃい瓶に水注いだら、腕がプルプルしそうだな……うまくいくわけがない。
水で例えるマリアのイメージはとてもわかりやすい。
そういえば、電気の説明も水の流れで例えると分かりやすかったよな。
ハッ!? もしかして――!
魔力が電気特性によく似ているとしたら……整理してみよう。
《 問1.俺の魔力は多い 》
これは魔力量として扱おう。
電池で言えば、単三電池が普通だとすると、俺の魔力は単一電池と言ったところか。大きい電池ほど電力量は多く、長時間持たせることが可能になる。
《 問2.魔力コントロールが出来ない 》
仮に俺が300ボルトとしよう……。
100ボルトの家電をコンセントに挿しても、動かなのは当然のことだ。
海外に行くと、持っていった家電が動かない場合があるのと一緒だな。
右手に魔力を集中させようと思ったのがそもそも間違いだった。
電圧が合わないのに、電流まで絡んでくるともうハチャメチャである。
《 問3.俺の手が焦げた 》
決定的なのはこれだ!
理科の実験でやったことがある。
電池を直列で増やせば、豆電球は明るくなる。
しかし、増やしすぎると豆電球は焼ききれる。
もし雷が落ちて家電に入れば、その中は真っ黒焦げだ!
これと同じ様なことが起きたのかもしれない。
《 これを踏まえて解決策を考える 》
1: 電圧を落とす。
上の例なら100ボルトに下げるということだ。
2: 過電流にならないように抵抗をつける。
一気に魔力を送り込まないように気をつけないと。
電子部品じゃないんだから、これを体で調整するなんて無理だ!
……コントロールが苦手な俺に、そんなマネ出来るのか?
まてよ、コントロールなんてしなくてもいい方法あるかもしれない!
特定の場所に集中するから難しいのだ! 何も考えず体全体に魔力を送ってしまえばいいんじゃないのか?
そうなるとたくさんの魔力は必要となってしまうが、そのまま身体強化に繋がるはずだ。
更に体全体からの魔力放出がうまく行けば、自然に電圧降下も起こりちょうどいい魔力が作れるかもしれない。これは可能性を感じる。
まず武器のことは忘れよう! 魔法武器との相性などは後回しだ。
とにかく己の魔力に集中してみよう。
「リュージさん、どうかしましたか?」
やってみるか! まるで『電気ウナギ』みたいだ。
力んで魔力放出しすぎるのだけは注意しよう、全身真っ黒焦げなんて事だけは避けたいからな。……無心になろう。
あれ、名前呼ばれてた気がするが……。
ダメだダメだ、今は集中するのだ。
体の力を抜き力まずゆっくりと……全身から放電でもしてるかのように、ごく自然にだ……。
……これは! いけるぞ!
――全身が軽く、――そして力強く、――感じられる!
「わー! きれい!」
マリア? マリアにはこれがどう見えているのだ?
俺には何かに包まれている感じはわかっても、具体的になにかとは言えない。
しいて言えば陽炎のようなものだろうか?
「とても鮮やかな色をしています。そして穏やか。川のせせらぎのようです」
「これだよこれ。マリアわかったよ! マリアは最高だ!」
興奮した俺はマリアに抱きつき、ジャイアントスイングさせていた。
「そんな、リュージさん、……『ぐるぐる』激しすぎます――目が回りますー」
「ああ、ごめんごめん。でもあまりにも嬉しくて。これもマリアのおかげなんだ! これから全てが、うまくいく気がする」
「私は何もしていませんよ」
なにを言うのだ、マリアが居なかったら俺は今頃大変なことになっていた。
そしてこれにたどり着く前に、きっと俺は天使に会いにあの世へ逝っていた。
イヤ俺は既に天使に逢っているかもしれない!?
「説明は難しいが、とにかくマリアのおかげなんだ。感謝しきれない、どんな事でもするよ。なんでも言ってくれ」
「それじゃさっきのをもう一度お願いします」
マリアは恥じらいながらお願いしてくる。
「え? お安い御用だ、もっと『ぐるぐる』して欲しいんだね?」
「ち、違います! そっちじゃなくて全身オーラみたいなやつのほうです」
なんだ、勘違いしてしまった。
清純で可愛い子がそんな変なこと言うわけがないよね。
「わかった! 見ててくれよ」
俺はさっきの要領で魔力を放出し始める。
感覚をもう掴んだのか、2回目はスムーズに出来てしまった。
「さ、触ってもいいですか?」
「いいよ。でもまだ慣れてないし、何が起こるかわからないから気をつけてくれよ」
マリアは恐る恐る、そっと俺の体に手を添えてきた。
そんなに珍しいものなのか? まあ、俺もこんなのは初めてだが。
「わー、こんなの初めて、私ドキドキしています」
「俺だって初めてさ、ドキドキしてるよ」
おし、まだまだ行けそうだ。もうちょっとパワーを上げちゃうぞ!
この技は冷静さが必要だ。興奮するな俺! 冷静にだ!
「リュージさんすごい、ここ、すごく硬いです。どんどん硬くなってます!」
マリアはときめいた顔をして、上目遣いで実況してくる。そんなマリアを見ていると俺は徐々に冷静さを失う、更に困ったことにマリアの言葉は俺の精神へと直接攻撃を行なっているようだ。
「あっ!」 『ぱーん』 魔力がハジけた!
へんな妄想が邪魔をし、集中を切らした俺は失敗していた。
なんて子だ、純粋すぎる。
好奇心旺盛なのはいいが、――これは罪だ!
「えー、もう、これで終わりなの?」
――どうにかなりそうだ。頼むからその上目遣いは止めてくれ!
俺の魔力が覚醒する前に、別のものが覚醒しそうだ。
「マ、マリアくん、ちょっとまって、なんでもするとは言ったけど、イヤなんでもはするんだけど、イヤだからじゃなくて」
「ん?」
うわ、自分でも何を言っているのかわからない。
「大丈夫だ。もう一回やるよ。でもね、手で触るのはキケンなんだ。本当にキケンなんだ。――あ、そうだ! その杖で叩いてみよう。強化してる俺の肉体ならおそらく大丈夫。好きなだけ叩いてくれ!」
「――えっ、いいんですか? やってみたーい」
杖で叩かれるぐらいなら平気だろう。
これで俺の防御力の検証ができそうだ。
再度俺は、全身へと魔力放出をし始めた。
「おーし、マリアいいぞー!」
『バシ、バシ』……『バシ、バシ、バシ、バシ』
「キャハハ、おもしろいー」 『バシバシバシバシ』
おいおい、手加減ということを知らないのか! しかし無邪気で可愛いな。
殴られている感触は分るが痛みは無い。焦らずにずっと続けてみよう。
この状態維持を持続させる練習には丁度よい。
「フフ、お前の力はそんなものか!」
ついつい口が滑ってしまった。俺は己の防御力の強さにいい気になっている。なぜならやっと自分の技らしきものを発見したのだから。
俺は強い!
マリアは一旦攻撃を止め、目をキラキラさせて俺に見惚れている。すると何かを見つけたようで真剣な顔で観察している。
魔力が見えるマリアには一体どんな風に見えているのでしょうか?
俺の魔力は普通とちがうみたいだから見たこともない魔力にワクワクさせているのでしょうか?
杖を構えて何かを狙っているようです。
次の瞬間マリアの強烈な突きが炸裂した!
「えぃ!」
しかも、杖の細いほうでね!
『ちーん!』
強烈な痛みがマッハで俺の脳に伝わってきた。
一体何が起きたか、その時はわからなかった。
気づくと俺は四つん這いになって、もがいでいた……。
「わーい、成功したー。楽しいー。魔力の弱いところがあったので、どうしても狙いたくなりました。揺らぎの隙間を、ピンポイントで突いたんですよ~!」
「……」
俺は何も反応出来ない……。この痛みはきっとわかってくれない!
「あれ、そんなに痛かったです?」
「ダメだ、そっとしておいてくれ、悶絶しそうだ……」
「あわあわあわ、私なんてことしてしまったのでしょう。今すぐ治療しますので、そこを見せてください」
「そこはダメ! だめだよ~……」
……《気絶2回目》