第15話: 天使に会いたい。
(俺、死んだのか?)
(そうか、死んでしまったか……、天国は気持ちいいな……。)
(なんかこう……、マッサージをされている気分だ……。)
なんと言っても、枕が柔らかいのがたまらない!
俺の天国のイメージは、肉体は無く魂だけの世界ではないかと思っていたが、どうやら肉体的なものが存在するようだ。手も動かせれば柔らかいという感触も感じられる。
そして揉んでみると膝枕みたいで気持ちいい。
「キャ――、気が付きましたか? その右手も直しますから、じっとしててくださいね」
天国の感想は――。
聴覚……優しそうな天使の声が聞こえる。
視覚……その天使は清楚なカワイイ美少女に見える。
触覚……揉んでみたら柔らかさを感じる。
嗅覚……なん~か、いい匂いする。
味覚……あま~い、感じがする……さすがにそれは気のせいか!?
あれ! 俺生きてたのか!
体の痛みは徐々に消えてゆき、俺の五感がしっかりと感じられるようになってきている。――これは! 『ヒーリング』なのか!?
やさしい何かが俺を包み込み、それに反応するかのように俺の細胞たちが活発に動いている気がする。
「その手を離して下さい。今度はそのヤンチャな手を直しますね」
指示も聞かずに勝手に動く俺のヤンチャな右手を、彼女はあたたかい光で包んでくる。
驚いたのは俺の右手の変わりようで、自分の手とは思えないぐらい真っ黒に焼け焦げていた。先ほどの必殺技を試した時に失敗してこうなってしまったのだと俺は認識した。
しかしこの制限速度も守らず、俺の体の中を駆け回っているものはなんだ?
これが魔力なのか?
「すごいです! あなたの魔力は真っ赤に染まって通常の3倍で動いてます」
赤いのは3倍早いということはよく知っている。世の中の常識である。
しかしお前らはしゃぎすぎだぞ、絶対事故るぞ! と思ったが、お行儀の良い暴走族のように走り回り、俺の体を修復してる。
もしかして、この子が俺の魔力をコントロールしているのか!
「傷口は塞がりましたが、まだじっとしていたほうがいいです」
「ありがとう。それじゃ、もう少しこのままで……いいかな?」
「はい!」
この子はもしかして、さっき柱に隠れてた女の子だろうか?
天使、天使だ!
どっかのドヤ顔女とは大違いだ。
ところでこの子……、片目が色違いだな。
「もしかして、この目のことですか?」
「あ、ごめんね、気になっちゃって」
彼女の目が気になってしまい、じっと目を見つめていると心を読まれたみたいに答えてくる。
「生まれつきなんです。これのせいで嫌な思いをすることありますが、逆にいいこともいっぱいあります。私がヒーリング得意なのはこれのおかげでもあります」
「と言うと?」
「見えるんです……魔力が」
魔力が見えるのか!
俺もそうな感じはあったが、それはただ光っているだけなのか光っているように感じるだけなのか、ぼやっとしたものである。たぶんこの子にはくっきりとした映像で見えているに違いない。
「すごい、すごいじゃないか」
「本人の治癒能力を高めて傷を癒やすには、魔力のコントロールが重要になります。魔力の弱い私でも、こういうのには向いているようです」
「なるほど、じゃ、俺には絶対無理だなw」
「ですねw」
えー、そこは「出来るようになりますよ、頑張ってください!」などと言ってくれないのか...
まあでもいいや。……今俺は幸せな気分なのだ。……時を止まれ!
「あなたを見てるとドキドキするの! こんな気持ち……初めて……」
「え! 俺?」 (こ、これは! もしかして……恋!?)
「うん、こい……! 濃いの! あなたの魔力はとても濃いわ!」
うわー、そう言うことか、ドキドキしちまった。
前世記憶を辿っても、俺の人生は恋愛など皆無である。
ゲームばかりしていて、俺の嫁は二次元だけだ!
恋愛無縁のこの俺に、もしこんなに可愛い子が告白してきてしまったらどうなってしまうのだろう……。なんてね――、そんなわけない。
そうかー、魔力のことだったのね、俺の魔力が特殊なのは自覚しているが。
「そんなことまで解るんだね」
「うん。あなたはまるで、巨大な風船をパンパンに膨らませて、今にでも破裂しそうな感じです。……破裂したらどうなるんでしょう? ドキドキ!」
「それはご遠慮願いたいねw」
やはり俺の魔力は特殊のようだ、まるで歩く爆弾みたいじゃないか。
「つ……つついていいですか? 針で刺すかのように!」
彼女の目がキラッと光った。嘘じゃない、俺には確かに閃光が見えたんだ!
欲望を抑えきれず今にでも犯罪をおかしそうな目をしている。
「おい、ちょっとまて、落ち着くんだ。興奮するんじゃない!」
慌てた俺は、『祝福の膝枕』を放棄していた。
おとなしそうな感じの子なのに、このような側面を持っているのか……、この子は危険だ、危険すぎる。
「あ~ぁ。そんなに急に動いたら危ないです。何もしないから、じっとしててください。痛くしませんから~」
いやいや! それは何かしようとしてる目だ! 俺にはわかる!
てか痛くしないって、やっぱり何かしようとしてるだろ。
「わかった、わかったよ、もう大丈夫だから。――えっと君の名は――?」
「あ、わたしはマリアです」
聖女のような名前だ……。
「マリア、いい名前だね! ありがとうマリア」