第13話: 魔法学校行きたくない。
「それで次はどこいくの?」
「魔法学校に行くわ、ついてきて」
この大荷物を魔法学校に配達するのか……。
まさか俺を魔法学校に入学させる気じゃあるまいな?
おれは学校に行きたいんじゃなくて『冒険がしたい』のだ。ちゃんと分かってくれているのか?
ミリアは冒険者カードを「すぐ手に入れる方法がある」と言っていた。だから魔法学校で何年も勉強させると言うことはないはず……。
ともかく冒険者カードはクエストはもちろんのこと、ダンジョンで狩りをするときも使うらしいので、冒険をする上ではどうしても必須なアイテムになってくる。 手っ取り早く入手する方法があるのであれば、これをのがす手はない!
「そろそろ教えてくれよ」
「何を?」
「冒険者カードを手に入れる方法だよ」
「フフ、仕方ないわね。一発試験を受けてもらうわ」
なんと、自動車免許みたいだな。
そんな方法があったなら早く教えてほしかった。
「おおお、やる、それやるよ!」
「一発で受かる人はなかなか居ないけれども、3回もやれば受かるわ」
なるほどそういう事か、3回ぐらいで取れるならいいかもしれない。
何年も勉強させられて『冒険はおあずけ』なんて辛すぎるからな。
◇
魔法学校についた俺達は、ミリアの案内で理事長室に入った。
「荷物運んでくれてありがとう、そこに置いてちょうだい」
「え? ここに置くの? というか勝手に入ってきて大丈夫?」
「何言ってるの、私はここの理事長なのよ! あれ、言わなかったっけ?」
「えっー!?」
そう言ったミリアは奥の立派な椅子に足を組んで腰かけた。
ただ者ではないと思っていたが、そんなお偉いさんだとは思わなかった。
「学校で使っている装備はあそこから買っているのよ」
「――それで装備屋のおっちゃんが低姿勢なのか!」
そういえば、父には多額の借金があると言っていたが、魔法学校の理事長ならお金持ちじゃないのか? もしかしたら、俺には想像できないぐらいの借金があって、返せないほどたくさんあるということなのだろうか?
これについては深入りしないでおこう……。
「そこに座って。 ハイ、これにサインしてね」
応接セットの椅子に腰掛けると、ミリアは書類をテーブルに広げて俺にペンを渡してくる。
「ここにサインすればいいのかな?」
「うん」
「ところでミリアは一発試験で冒険者カードを取得したのか?」
「え、私? 私は特別よ♪ 理事長だし、強いし、美人だからね、特権ってやつだわ」
だから美人はよけいだって!
ちょっとまて、理事長の特権って職権乱用じゃないのか?
「俺も特別に……なんとかしてくれないかな?」
「それはダメよ、不正はよくないわ!」
おいおい、自分のことは棚に上げといて、よくそんなことが言えるものだ。
まあそんな焦らなくてもいいか……。
そうだ、その前に魔法習得しよう!
そうでないと、『魔法が使えない冒険者』などと呼ばれてしまうからな。
「サインしたよ」
「どれどれ……いいわ。 それじゃ次一発試験の申込書にもサインして」
「えっ? じゃ今サインしたのは何?」
「それは入学書」
なんだとー。よく読まずにサインしてしまった……。
「冒険者組合と、うちの学校は提携を結んでるの。うちの生徒になれば、試験官を呼んで一発試験を受けることが可能になるわ。だから一時的にでも入学してもらいます」
「なるほど、ミリア頭いいな! 俺ミリアをみなおしたよ」
「まあねっ!」
なるほど一発試験のためだけに仮入学する感じでいいんだな。勉強の成績もなにも気にする必要がないし、その間に魔法習得だけに力を注げるな。
サインを終えると、後ろからほんのり甘い花の香りが俺をかすめる。
その甘い香りはミリアが手にしている紅茶の香りであった。
「またそうやって、後ろからこっそり差し出すの止めてくれよ!」
「フフッ、ハイどうぞ。私からの入学祝いよ」
ミリアは紅茶のウエルカムドリンクで俺を迎え入れてくれた。
ミリアの言うとおりにしていると、ろくでもない事ばかり起こると思っていたが、この時のミリアは優しくとても頼もしく感じたよ。俺は褒めちぎったよ!
そしたら調子に乗りやがって、「これからはミリア先生と呼んでね」とかいい出したから……、さすがにそれは拒んだね!
「おいしい?」
「うん」
「でしょ! その紅茶はね貴重で高いのよ」
「そうなのか、「また報酬から引いておくね。」とか言ったりしないよな?」
「まさか! そんな細かい事でケチケチしないわ」
そうだよな。俺だって紅茶ぐらいでそんなケチケチしないさ。
「ところでリュージくん。――入学金の事なんだけど……」
「ギクッ」
なんと巧妙な罠を仕掛けてくるのだ、俺はうかつだった。
まんまとサインしちまったじゃねーか……
「俺にお金なんて……」
「それは困ったわね……」
背後から指先が蛇のように忍び寄ってくる。
動けない……。俺は睨まれた蛙だ。
首を這う蛇のようなミリアの指先は俺の顎を軽く持ち上げ――耳元では囁きが……
「それじゃ、体で払ってもらおうかしら……」
蛇に睨まれた蛙は『ゴックン』と息を呑んだ。
そ、それはどういう意味なんでしょう……。
「荷物運びに掃除に洗濯。……あと~付き人もやってもらおうかしら」
「おわた……」
もはや奴隷……。【俺の冒険は終わりを告げたのである...】
「冗談よ、冗談! 無料にしてあげるから、これからはミリア先生と呼んでね」
「はっはい、喜んで……ミリア……せんせい」
「よろしい!」