第12話: 防具に思えない。
さて、連れてきてもらったはいいがここには見覚えがある。
嫌な予感はしていたが、やっぱりボッタクリの装備屋であった。
「そこの装備屋高くないか? クエストで貰った報酬はあるけど、何も買えないんじゃない?」
「大丈夫よ」
あー、不安だ。
おれはミリアの後についていき、恐る恐る店に入る。
「こんにちわ、ドルネコさん」
「あ、これはこれは、ミリアお嬢様。今日はどのようなご用件で?」
装備屋のおっちゃんは、ゴマすりのような仕草で手をこすり合わせミリアに話しかけている。様子を見ていると、どうやらミリアはここの常連さんのようである。
「防具を買いに来たの」
「左様で御座いやすか」
「裏の防具を見せてもらっていいかしら?」
「どうぞ、こちらへ。新しい物も入荷しております」
ミリアは目をキラキラさせながら奥へと進んでいく、俺は後を追うようについていった。最初来たときは1部屋しか無いのかと思っていたが、奥のカーテンを開けるともう一回り大きい部屋があったのである。
そこにはガラッと変わった商品が並んでおり、大半は女性物で占めているようだ。気になるのは生地などで作られた防具ばかりでとても硬そうにはみえない。まるでオシャレな洋服屋のようである。
一言で言うならば……どう見てもコスプレショップだよ!
「ミリア、これも防具なのか?」
「うん、魔法の加護を受けている防具なの、とても軽くて防御力もあるわ。もちろん鉄など防具に魔法の加護があれば防御力だけは最強だけれども、重さを考えると甲乙つけがたいわね」
なるほど。移動のことも考えたらこちらの方がよいかもしれない。
まてよ、魔法の防具ということはめちゃめちゃ高いのでは!?
クエストで報酬は得たけれども、またこの前みたいなことになるのではないだろうか?
「ドルネコさん試着室お借りするわね」
「どうぞお使いくざさいやんす」
試着室で着替えたミリアはカーテンを開けて出てくると、「ねえ、どうかな?」と俺に聞いてくる。
どうかな?とは何に対していっているのだろうか?
硬さなど見た目ではわからないし……。
「うん、いいと思う」
何がいいのかわからんが、これならどう転んでも問題はない。
「う~ん、じゃ次」
なんですかこれ、ファッションショーですか?
それで俺は審査員かなんかなんでしょうか?
「どう?」
うおぉー! きっ――際どい……。そのスカート丈はなんなんだ!
ちょっとでも動いたら危ないぞ!
そう言えば思い出した。なに色なんだろ。もぉ~~
「あとちょっとだ……めっ! ダメだよ。イヤ似合うんだけど……」
あまりにもの短さに俺の目線は一瞬釘付けになっていたが、我に返り目線をそらして耐えた。するとミリアは『ドヤ顔』をしている。
絶対俺をもてあそんでるだろ……、この誘惑的ドヤ顔女め!
「ふ~ん、なるほどね。 じゃ次」
まだ続くのかよ……。
さっきのスカート……、どんなに動いても見えなかった。あれは紛れもない伝説の『鉄壁スカート』だ。俺はアニメを通じてその魔法防具の存在を知っている。
「これどうかな?」
「うん、すごく良いと思うよ」
やっとまともなコスプレ衣装がでてきた。
「ありがとう。……でもね、こっちも可愛いのよね~」
そして俺はやっと開放された。さて、どんな防具にしようかな?
しかしこの店は高いからな……とは言ってもせっかく連れてきてくれたのだし、何か買わないと……。
節約したいから……、そうだパンツを買おう! これなら安いだろう。
「……ところで、リュージくん決まった?」
「俺は、このパンツを! おっちゃん幾ら?」
「イヤだ……もぅ……あなたって人は……」
あちゃー、レディーの前でやらかしてしまった……。
「お、これはダンナ、お目が高いでやんすな。それは特殊素材で作られていて5000ゼルでいかがでやすか?」
店主は相変わらず手をこすり合わせ、不気味な笑顔をしている。
予想はしていたが、パンツで5000ゼルはちょっと高い!
また、「このパンツは名刀でっせ」なんて言い出したりしないよな? 例えばドラゴンを一振りで気絶させることが出来るとかか?
そんなパンツがあったら意味不明だし、明らかにチートの枠を超えているだろ! まあ、とにかくこの店は高すぎてダメだ。
「それはですな、魔力を抑える効果があって、精力増強とかいう噂もありやす」
なんとそんな効果が……!! と感心している場合じゃない。
このおっちゃん怪しいと思ったが、置いてあるものも怪しすぎる。
俺はミリアの様子が気になり目を合わせる。……視線が冷たい。
「ミリア違う、深い意味は無い!! 俺はただパンツがほしいだけで……偶然なんだ……」
「もう、ドルネコさん5000ゼルは高すぎるでしょ! ぼったくりはダメよ」
ふぅ、冷や汗かいた……どうしてこうなるんだ……?
店主は頭をポリポリかきながら即答してくる。
「――は、はい、すんません1000ゼルで……」
最初の値段は何だったのだ……、やっぱり俺はぼったくりにあっている。
「う~ん、それでも高いわよ! その代わり、私の買う洋服を値引してね♪」
「うー、お嬢さんには、かないませぬわ……」
ミリアは買い物上手だな。見習わなくてはいけない。
値段が貼ってないと言うことは、交渉が重要なんだ!
ミリアの交渉術は巧みで俺のパンツを餌にミリアの服が安くなっている!?
ん? なんか不自然な交渉があったような……。
ミリアの洋服代の一部を俺が払うことになるのか?
ま、いいか、特殊防具が安く手に入るんだし……(パンツだが)
ところでミリアは? ……悩んでいるようだ。
「うーん、どっちがよいかしら。ねえ――どっちがいいと思う?」
キター、究極の選択ってやつか!?
きっとどちらが可愛いかだよな?
それってミリアに似合う方を答えれば良いのか? それとも俺の好みを聞いているのだろうか? 防具の硬さで無いことは確かだろう。
そうだ、いい回答を思いついたぞ!
「どっちもいいと思うよ」
「えー、どっちか選んで~~」
作戦失敗である。うーん、俺の好みでいえば……。
「そうだな~、こっちかな?」
「……ふ~ん、でもね……やっぱりこっちにするわ」
俺の投票券は、一票に満たないのか...!?
「それでドルネコさん、例のもの入荷した?」
「入荷しておりやす。今日お持ち帰りしやすか?」
「はい、リュージくんお願い、運ぶの手伝ってね」
荷物運びとなった俺はいっぱい荷物を抱えて店を後にした。
なんで俺はこんなに荷物を持たされているのだろう。そうか冒険者カードを餌に俺をこき使う気だな。……ハメられた。
目標のために今は、耐えるのだ。
「ところでそのコスプレ――いや魔法防具は頑丈なのか?」
「え、これ? これはそれほど頑丈ではないわ」
やはりただのショッピングだったのね……。