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第10話: レアドロップしたい。

 ミリアの必殺技により俺の絶体絶命はなんとか回避された。

 もしあんな必殺技が俺にもあったならば、立派に独り立ちできる気がする。

 なんとしても必殺技をマスターしたいところである。



「わーい、わーい、ついにやったわ!」


 クエスト成功でミリアはものすごく喜んでいる。

 それも、両手をあげての力いっぱいのジャンプである。

 このクエストに対する思いの強さを感じた。

 

 最初はミリアの行動に無謀さを感じ逃げ出したい気分だったが、今のミリアを見ていると俺もなにか成し遂げたという感覚で満ちていた。

 このクエストをやってよかったと心から思った。



<<ミリアさん、クエストクリアおめでとうございます>>

<<それでは、報酬を抽選します。ドゥルルルルルル~、ダン!>>



 抽選なのかよ、貰えるものはその都度違うのか……?


 この時のミリアは希望に満ち溢れたいい顔をしていた。

 しかし抽選が確定しドロップアイテムを受け取ると、ミリアは浮かない顔に変わっていた。

 

「ミリアどうした?」

「こんなはずじゃ...」


 ドロップした物は小さいアイテムである。

 このクエストのクリアが目的ではなく報酬が目的であったのならば、少なくともエクスカリバー以上の価値のあるものを期待していたに違いない。


 話によるとこのクエストには願いが叶うと言う伝説があったようだ。

 俺も神社で願いを叶えてくれとなんどもお願いしたが、そういうものはそうそう叶うものではない。


ド素人(・・・)を連れてクリアするとレアドロップ間違い無し! と言われていたのに……」


 なんだと~!?

 さらっと、ディスられたような気がする……。

 ――それで俺をクエストに誘ったのか!


 リスクが伴えばそれだけ見返りも大きいということか。


「まあ、抽選なら数うてば当たるさ。またチャレンジすればいいさ」

「だめなの、このクエストは1回限りなの……。一生のうちに一度限りなのよ」


 そう言ったミリアは崩れ落ち、女の子座りでうなだれている。

 想像以上の落ち込みようである。


 何故そこまで落ち込んでいるのか、この時はわからなかった。

 それを知ったのは後のことである。


 それは、ミリアの父は若くして事業に成功し、資産家へと成り上がったやり手の経営マンだった。しかし不幸なことに火事に見舞われ、多額の借金を抱えることとなったようである。

 そんな父を助けようとミリアは頑張っているようだ。


 それを知っていたら対応は違っていただろう……。


 そんなこととも知らずに俺は報酬のエクスカリバーのことばかり考えていた。

 このままでは、俺のものになるはずのエクスカリバーが危うい……。

 など、そんなことばかり考えていた。



「ちょっとそれ見せて」


 俺はミリアのアイテムを手に取りどのようなアイテムなのかを確認する。

 そのアイテムは花柄のかわいいヘアピンのようである。

 確かにエクスカリバーに比べればとても高そうには思えない。

 明らかにただの可愛いアイテムである。


「これは、ヘヤピンだよね?」

「……」


 ミリアは元気がなく、うつむいたまま反応がない。


「もしかするとすっごい高価なアイテムかも知れないぞ!」

「……そんなはず無いわ」


 だよな。

 どうみても高く売れそうにもないし。

 これはまずいぞ。


「ミリア! このヘアピンすっごく可愛いぞ~、ほら花柄!! これなら女子力アップ、間違いなし!!」

「……」


 俺は何を言っているんだ、苦しい言い訳だ。

 もうどうにでもなれ。


「ミリアに似合いそうだな~」


 俺はミリアの髪にそのヘアピンをつけてあげた。


「お~、ミリア似合うじゃん」

「そ、そう?」


「うん、可愛いよ」




 あれ? 俺、変なこと言った?

 なんだこの()は?

 時が止まっているようだ。


 褒めて、元気づけて、ご機嫌取って、エクスカリバーゲットしようなんて思ったが、逆に変な空気になってしまった。

 ここは話をそらして逃げよう。


「ところで、あの必殺技すごかったな~。あんなの見たこと無いぜ」

「……」


 もう……、俺は何をやっているんだろう……。

 どうしたもんか……。


 そんなとき、俺は、閃いてしまったのだ!!


「ミリア、俺を殴ってくれ!」


 自分でもバカなこと言ってしまったと思う。

 しかしこれを行うことで色々な問題が一気に解決するのではないかという、直感が働き思わず言ってしまったのだ。


 今直面している問題は3つある。

 1つ目には、俺はエクスカリバーが欲しい!

 クエスト失敗で俺の報酬が無くなってしまってはまずい。


 2つ目には、落ち込んでいるミリアだ。

 これをなんとか元気づけてあげたい。

 そうなれば、俺のもとにエクスカリバーがやってくるに違いない!

 なんと一石二鳥である。


 更に3つ目は、俺も必殺技を習得したい!

 戦闘中の時は必死で、あまり見れなかった。

 これを間近で体感できたらきっと俺も習得出来るかもしれない!

 一石三鳥ではないか!


 3つが同時に叶ってしまうかもしれないという、素晴らしいアイデアを思いついたのだ。


「突然変なこと言い出して……、リュージくん頭おかしいわ……、どっか打ったの? もしかしてさっきの戦闘で?」

「俺はいつも通りだよ。いつも通りの俺さ」


「そうね! 元から変な人だったわよね」

「おいおい、ちょっとまてまて!」


「で、本当に殴っていいの?」

「いいぞ! そのかわりグーじゃなくてパーな。痛いからな」


「それってビンタってこと?」

「そう、そして魔力も込めてくれ。あの必殺技をもう一度見たいんだ」


「あぁ~そういう事なのね」

「やれば、むしゃくしゃも吹き飛ぶぜ!」


「アンタも吹き飛ぶわね」

「来るとわかっていればきっと大丈夫さ。闘魂注入(・・・・)だ! 思いっきりやってくれ!」


「あんたってドMね」

荒療治(あらりょうじ)だがこれが一番早い!」


 ミリアは拳を握りしめ、魔力を込め始める。


「まてまて!! グーじゃないぞ! パー(・・)だ。闘魂はパー(・・)だ!」

「わかったわよ。こんなことやったこと無いから」


 ミリアは拳を広げ構える。

 徐々に光が集まりミリアの右手を覆い始める。

 素手なのに武器を持っているかのような威圧感である。


 次の瞬間ミリアの右手が俺の頬めがけて飛んできた。


 『バチーン!』


 魔力がこもったビンタが俺の頬に炸裂した。

 日はまだ明るく太陽がでている中、俺には星が見えた。


 とても女の子のビンタとは思えないぐらい強烈なものだ。

 もし格闘家が本気をだしたらこんな感じなのだろうか?


「満足した?」

「いや」


 こんなはずじゃなかった。

 だって、よくあるじゃないか!


 相手の技を食らって自分のものにするとか、相手の魔力を食らうと自分が覚醒するとか、アニメならそれで一気にパワーアップするのが常識なんだ。

 俺はそれを狙ったのに……『痛いだけだった。』

 

 現実はそんなに甘くない。

 そんなのはアニメの世界だけのようだ。


「わかったわ! じゃもう一回ね! これ気分爽快(そうかい)だわ! フフッ」

「まてまて――ミリアもう十分だ、これ以上は――」


 『ぱちん』 あれ? 痛くない。


「魔力がきれちゃった。力が出ない……」


 ミリアは崩れ落ちるかのように俺に寄りかかる。

 強そうなミリアは消え、今は普通の女の子のようだ。



「ちょっと何するのよ」

「歩けないんだろう?」


 クエストを終えミリアをおんぶして帰路についた。

 竹槍を抱えてここまで来たんだ、あれに比べればミリアを抱えて帰るぐらい全然平気である。


 それにまだ、俺の足腰はピンピンしている。

 痛いのはほっぺだけだからな。


 それにしてもいい匂いがするな。

 しかし背中に当たる重みが感じられないのは、ガッカリだ。


「重くないの?」


 えっ!? この質問って正解あるの?

 待て待て、胸のこと聞いているわけではないのだ、冷静に「軽いよ」と答えれば済むだけのことだ……てか、「うん」で済むことじゃないか、何悩んでたんだ。


 と、余計なこと考えているうちに返事するタイミングを逃してしまった。

 いまさら「軽いよ」なんて言っても不自然すぎる。


「何黙ってんのよ!」

「あ、ごめんごめん、別のこと考えてたんだ」


 あ、危なかった。

 なんとか逃れたぞ。


「はぁ~、あなたにも、クエストにも、ガッカリだわ」


 そりゃどうも、ガッカリ仲間っすね。


「そうだ! クエスト! 俺が受ければいいじゃん! そう、これを考えていたんだよミリア」

「弱いし、冒険者カードも無いくせに?? いつになることやら……」


「すぐ強くなる自信があるんだ」

「あなたが? その自信はどこからくるの?」


 こうみえても、前世のゲームならドラゴン倒しまくりのトッププレイヤーだったんだ。ゲームのようなこの世界なら、あっという間にLVアップして、あっという間に大金を……!


「いっぱい稼いで、すぐに大富豪だぜ!」

「武器も買えなくて、竹槍を振り回してるのに??」


 鼻で笑うような態度でディスりよって。

 冒険始めたばかりなんだから仕方ない。

 誰だってゲームは初期装備で一から始めるんだ。


 この世界ではほぼゼロ状態だが、ハンデとしてはちょうど良い!


「ところで、俺の成功報酬(エクスカリバー)は貰えるんだよね……?」

「どうしようかな~」


「おいおいおいおい、クエストクリアで成功報酬(エクスカリバー)貰えるんじゃなかったのかー!」

「冗談よ。ちゃんとあげるわよ」


 とんだ茶番である。

 でもミリアは大損しているからな。

 気は使うが、マナーとして押し問答ぐらいしなくちゃな。


「でもミリアは大損じゃないか、こんなんじゃ貰えないよ」

「そうね! じゃ返してもらうわ」


 えっー! (俺のエクスカリバー)

 こういうのって、「それは約束なんだから受け取って」とか、なんだかんだ言って、貰えるパターンじゃないのか!?


「どうしたのリュージ君。ちゃんとおんぶしてよ!」

「は、はい……」


「ほしいの?」

「……は、はい……ほしいです……」


 欲しいに決まってるじゃないか!

 伝説の武器をもらえるチャンスだったのに……。


「そう~ね。しかたないわね。それじゃワタシと組まない?」

「えっ?」


「一緒に冒険してあげてもいいわよ。私強いし、美人だし」


 だから美人は余計ですって!


「欲しくないの??」

「欲しいです!」


「じゃ、決まりね! よろしくね!」


 あれ~、何がどうしてこうなった?

 でもエクスカリバーはゲットできた、これが元サヤってやつ?


 なんか……騙されたような……まぁいっか。


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