リベンジライフ
あなたには死ぬほど後悔したことはありますか?
恥ずかしい話だが、俺は50歳になり始めて妻のありがたさを知った。
僕が死ぬほど後悔した話というのは、もっと妻の優里を幸せにしてあげたかった後悔だ。
優里は本当に僕に尽くしてくれた。
本当に良い妻だった。しかし、僕はそんな優里をずっと苦しめた。
僕は経済的に頼りなく、イライラしては優里に当たり散らした。
しかし優里は文句1つ言わず働き、どうしようもない僕を支え続けてくれた。
しかし
妻は先月、買い物に出かけたっきり帰ってきていない。
交通事故だった。
妻は猛スピードで突っ込んできたトラックに轢かれその原型を留めていなかった。
新聞やテレビで報道されるほどの事故だった。
私の親族や家族にとっては人生に一度のレベルの衝撃を与えた事件がものの5分ほど読み上げられる。
頭では「仕方ない」納得するが心はざわついた。
恐らく今、僕はどうかしている。
何かに当たらずにはいられない。些細なことでも許せない思いが無限に込み上げてくる。
そんな僕を心配してか息子と娘は毎週顔を見せてくれた。
そんな日がしばらく続き
ある時ふと掃除をしようと思い立ち妻の部屋に入った。
そして妻の部屋をおもむろに掃除した。
すると妻の本棚からアルバムがでてきた。
何となくそれを広げると、、、
記念日や誕生日、僕が渡したプレゼントを持って凄く嬉しそうな笑顔をする優里が映っていた。
あいつ、、、そういえばこまめに写真撮ってたな、、、
などと考えていると不思議と涙が溢れた。
そして、アルバムの最後に手紙が入っていた
なんだか悪い気もしたが覗かせてもらうことにした。
手紙には
誓約書!!!
とイカツイ言葉が可愛げな文字で書かれていた。
見てみると
私は夫の夢を奪った。
だから夫がその夢を仮に叶えていたとしても、その時よりも今幸せにする義務がある!
生涯これを忘れてはいけない!
でも夫の野球選手でカッコイイ姿みたかったな。
と書かれていた。
僕は野球選手になりたかった夢があった。
ドラフト候補にも入ったこともあった。
しかし高校卒業後すぐに今の妻との間に子供ができた。
夢を諦めて土木関係の仕事に就き、夜も昼も死にものぐるいで働いた。
その事を気にしていたのか。。。
でも、正直にいうと自信が無かった。自分の力に。野球選手としてやっていく自信がもてなかった。
だから俺は子供を言い訳に逃げただけだった。
妻はそれを一生背負っていたことに何だかやるせない気持ちになった。
野球選手のカッコいい姿か、、、
色んな思いをしまい込んで妻の部屋の掃除を再開した。すると更に手入れされた野球道具がでてきた。
あいつ、、、こんなものまで。
手にとってスパイクやバットを持って見た。
埃も被ってなくまるで現役の続きだった。
掃除を終え部屋を出る
僕はその晩。人目につかない時間にランニングを始めた。
どうしたいとかは考えてなく、体を動かさずにはいられない衝動に駆られたからだ。
そしてランニングの距離は次第に伸び、
妻が死んで半年経った頃には10キロを走るようになった。
それに合わせて腕立て、腹筋、背筋、スクワット、もやりだしてみた。
老いしげっていた体は見る見るうちに元気を取り戻した。
妻の仏壇に手を合わせることが日課として体に馴染んだ頃、若者には負けないと自信すら持てる体を手に入れていた。
恥ずかしい思いを噛み殺し50歳から草野球チームに入れてもらった。
チームのみんなは若くて動きも素早かったが持ち前の負けん気でそれにも対抗してやった。
そして草野球チームの間で少し有名になった頃
ある決意をした。
妻に俺の野球選手の姿を見せよう!
とにかく片っ端からプロ野球のトライアウトに申し込んだ。
年齢制限で断られたり、時にはふざけてるのか?と怒られたりもした。
しかし、トライアウトが行われるたび電話して頼み込んだ。
そして55歳の時。
ある球団が参加を許してくれた。
トライアウトに着くと自分の倍以上体が大きい選手がゴロゴロ存在した。
その見えない圧力に負けないように強い気持ちを維持した。
最初のテスト50メートル走が終わり、遠投、
フリーバッティング、ノック
全ての行程が終わり一次試験の結果を待った。
当然だがそこに自分の番号はなかった。
僕はグランドに頭を深々と下げそのグランドを後にした。
帰り道、、、
悔し涙が流れ
自分は本気でなりたかったんだと気付いた。
僕は大金を出し専属ジムに通った。
最初は半笑いでトレーニングメニューを渡してくるお兄ちゃんにメニューを突き返し
プロアスリート用のメニューにしてください!
と強く言った
最初は凄くやばい客を相手にしてしまった!という思いからギョッとしていたトレーナーだったが1ヶ月もすると熱意が伝わり僕を尊敬し同じ目標を追いかけてくれるようになった。
娘と息子も妻がなくなってから激変した僕をみて本気で心配していた。
しかし、そんなことには構わず男として、、、妻の為に、、
夢を追いかけた。
自分もいつか死んで妻と天国で一緒になった時。妻に生きていた頃の人生で後悔を持って欲しくなかったからだ。
馬鹿げた理由な気もしたが僕は本気だった。
しかし、幾度となく、、、幾度となく試験は落とされた。
僕はそれでも諦めなかった。
頭は下げれるだけ下げた。
道は走れるだけ走り
体が許す限り筋肉を鍛えた。
しかし、現実は甘くはなかった。
月日がたち60歳を迎えようとする体は限界を超え心臓の病気にかかってしまった。
医者には激しい運動は禁止され、娘と息子には勝手にジムを解約されてしまった。
しかし、体の調子が良くなるとすぐに退院し走った。
今の僕には心臓のことより衰える体の方が恐怖だった。
不思議とトレーニングをしていると
夢に命をかける
ということにこの年ながら高揚感を覚える自分がいた。
トライアウトも何度も何度も
初詣では毎年、プロ選手になれますように!
と神様を驚かすようなお願いをし続けた。
しかし、思いとは裏腹に病は悪化した。
ランニング中だった。
心臓からは激痛が走りランニングの足を止めさせた。
その時に僕には不思議とわかった
これが最後の瞬間なのだと。。。
もう一呼吸、、、息を吸うと命がなくなる気がしたので僕は胸をギュッと握りしめて息を止め空を見た。
優里、、、ごめんな。最後までカッコいい姿見せれなくて。
そして息を吸い込み、、、その場に倒れた。
、、、
、、、
あれから、、、どれほど時間がだったのだろう、、、目が覚めた。
僕を呼ぶ声が聞こえた。
起きろ!おい!起きろおおおおおお!!!
ガツンと頭に衝撃が走った。
見ると高校生達に囲まれ、その高校生達はみんなこっちを見て笑っていた。
お前は本当に舐めたやつだな。
先生のような人がこっちを見て怒っていた
え?
その時キーンコーンカーンコーン
と鐘が鳴り生徒達は立ち上がり出した
先生はその騒音に負けない声をだし、
予習しておくんだぞ!!!
と言った
訳がわからないままその日の日付を見ると
40年以上も時間が戻っていた。
これは、、、高校時代!?
僕は、ハッとして隣のクラスに優里がいたことを思い出し自分の教室を飛び出し隣のクラスに入った
しかし、そこにはいるはずの優里の姿はなかった。
どういうことだ、、、
近くにいた友達に声をかけ、優里はいるか?
時いたが
そんな奴いたか?
と返された。
ありえないことだ。何故なら優里とそいつは幼馴染だったはずだからだ。
からかうなよ!!
と怒った口調で言うと
お前こそなんだよ!突然!
と返された。
僕は本気だと感じた。
訳が分からなくなりその日は早退をした。
家に帰ると母親がいた。
どうしたの?
と訪ねられ
頭が痛い
と言うと
仮病使ってんじゃないわよ!と頭を叩かれた。
親に怒られることに途方も無い懐かし差を感じたがそんなことよりも優里の家に走って向かった
しかし、そこには家が無く空き地になっていた
僕は絶望した。。。
こんな訳の分からない世界に放り込まれるなら、、、優里のいる天国に行きたかった。
家に帰った僕は部屋にこもった。
そして翌日学校へ
授業が終わり仕方なく部活に顔をだす
しかし、僕は更に不可解なことに気付いた。
それはみんなの動きが異常に遅いことだ。
野球で甲子園常連校のうちは強豪選手が集まっていた。
確か昔この時期自分は必至になってみんなの動きについて行っていたはずだが、、、
その日は最後の夏の大会に向けた選手を選ぶ大事な紅白戦があった
僕は三打席連続でホームランを放った。
あまりの激変ぶりに監督を含めチームメンバーが戸惑っていたほどだ。
そして夏の大会が始まった。
予選でも僕の不思議な能力は輝きを見せた。
打ちに打ち、文字通り僕を止めれる投手は同じ県にいなかった。
軽く予選を突破し甲子園行きを決めた。
その時の打率は9割を越えホームランは予選大会の記録を大きく越え歴代1位となった。
夏の甲子園でも最注目選手としてテレビに取り上げられた。
そして僕は甲子園でも五打席連続ホームランを放ち、、、
シンデレラボーイと化した。
1ヶ月前まではその辺の高校生が今では日本人で名を知らない人はいないほどの有名人となっていた。
そしてその時はきた。
甲子園優勝まであとワンアウト。
最後の打者はボールを打ち上げボールは僕の元に。
それをしっかりキャッチし全員でピッチャーに駆け寄った。
その時、、、
応援席に優里の姿があったような気がした。
すぐに整列を呼びかけ選手同士挨拶、保護者に、応援席に挨拶をした。
そして、監督に
すいません!!先に帰っててください!
と言い戸惑う監督を振り切り優里を見たような気がした応援席に向かって走った
人をかき分けガムシャらに走った
するとそこには優里がいた
観客達は突然のことにパニックになった。
優里!!優里!!!
と声をかけた
優里は
え?
と驚いた顔をしていた。
しかし、僕は観客のパニックに揉みくちゃにされ更には騒動を抑えにきた警備員によって身柄を拘束され連れ出された。
そのあとは、甲子園連盟のお偉いさん達に厳重注意され、監督にもブチギレられたがそれでも僕は一瞬だけ見た優里しか考えられなかった。
僕は結局優里とは再び会うことなくその夏を終えた。
夏が終わり再び学校が始まる。
いつも通り家を出て電車に乗る
しかし、電車に乗ると他校の生徒が僕に群がってきた。
中には手紙を渡してくる女子高生や、電車の迷惑も顧みず写真をスマホで一緒に撮ろう!と騒ぎ立てる人達もいた。
僕は電車内で揉みくちゃにされ駅に降りた。
面倒を避けるため全力で走り学校に駆け込んだ。
しかし、学校でも生徒達が僕に群がってきた。
すぐに校門前はパニックになり先生達が駆けつけた。
そして僕はしばらくの間、職員室の待合室で授業をされることになった。
普通の高校生なら浮かれることなのだろうか、、、
しかし、実際僕はすでに60を迎えるはずだったおじさんなのだ。
人生の蜜も毒も知っている。
決して浮かれようとは思えなかった。それよりも優里を探し出す方法を考えていた。
その時僕はハッと気付いた。
優里の着ていた制服、、、
先生にその制服を説明してどの高校か尋ねた。
あーその制服は確か、、、近くの女子校の制服じゃないか?
ありがとうございます!
なんだお前?可愛い子でも見つけたのか?
はい。一緒に人生を歩む人です!
ハハハ!人生ときたか!一目惚れもそこまで行けば凄いことだよ!頑張れよ!
ありがとうございます!
僕は授業を終え帽子をかぶりマスクをかけてその女子校に向かった。
女子校に着くと門の前にいた教員らしき人に声をかけた。
小林優里さんにこの手紙を渡してください。
僕と同い年の生徒です。
その教員らしき人はしばらく考え、、、その手紙を突き返してきてこういった
その子、もううちの高校にいないわよ!
え!?どうして?
なんで部外者のあなたにそこまで言わないといけないの?さ。帰らないと人を呼ぶわよ!
僕は諦めざるを得なかった、、、
まるで運命が妻との再開を拒んでいるような気がした。
しかし、時はそんな僕の感情を置き去りにして僕の人生を進めた
ドラフト会議があり、球団はほぼ僕を1位指名。
あれだけ頭を下げてトライアウトを受けたが、結果、馬鹿にされ、厄介がられ、笑っていた球団が次は僕を本気で取ろうと目を血走らせていた。
マスコミは僕に取材を申し込み、、、僕というより学校がそれを承認して会見場まで作った。
何だか複雑な気持ちを持ちやるせなかった僕は
質問で
どこの球団に行きたいですか?
と聞かれ
どこでも良いです!
と突っぱねた。
そして、会議の結果球団が決まった。
当然そこに行く事にした。
それは優里との約束なのだから、、、
学校を卒業し、球団の寮に入る。
ドラフト1位だろうが新人は新人らしく先輩の雑務を請け負い、その余った時間を自分の練習にあてた
最初は覚えることが多かった。
球団の事務作業なども新人選手の仕事としてあり、1年のトレーニングメニューの組み方、2軍戦、3軍戦、そして戦力外になった時の対応など様々なことを頭に詰め込む。
そしてシーズンが始まり僕は開幕一軍、ベンチスタートという好待遇を受けた。
実際にプロ野球選手をベンチから見ると彼らにはとてつもない華があった。
一挙手一投足が美しいとすら思えた。
そして彼らは誰一人手を抜かず激情を持って試合に臨んだ。
たった1つのアウトを取るために相手選手を殺すような殺気を向けていた。
観客席で見るのと、ベンチとではこうも違うのかと驚いた。
そんな身と心を削り続けるような試合が進み9回裏。
僕の名前がコールされた。
1-1同点。ノーアウト。最終回。
絵に描いたような場面。絵に描いたような出場を果たした。
その時僕は野球選手は上手くて当たり前。そして一流になるためにはドラマの役者になれなければいけないのだと悟った。
要はこの場面。ヒットはダメで、最低長打。
アウトなんて論外の「役」を任命されたのだ。
ここで打って奇跡のような試合展開を作らなければいけない。それがプロ野球で生きるということなのだと。
打席に立つと相手選手からの殺気が当てられ、観客席からは期待の眼差し。
僕は冷や汗が止まらなかった。
初球。
ど真ん中ストレート。
バットを振ることができなかった。
能力の有無ではない。このなんとも言えないプレッシャーがバットを止めたのだ。
味方からは肩の力を抜け!との指示が出される。
しかし、次のスライダーを空振りした
わずか2球で追い込まれた。
僕は思考を変えた。
一度死んだ命。期待に応えるためには期待を捨てる事も必要だと。
目を閉じて集中し世界を狭めた。
ここにはピッチャーと僕の2人だけの世界、、、
そして目を開けた
ピッチャーはボールを投げた
それを見送りボール
この能力はどうやら尋常じゃない能力のようだ。
さっきとはうってかわって相手投手のボールは、ほぼ止まって見えたのだ
僕は思わずニヤッと笑ってしまった。
更にピッチャーはボールを投げ込もうとした瞬間。
ピッチャーは大暴投をした。
キャッチャーはすぐに駆け寄り何かを話していた。
2ストライク2ボール
僕にはあのピッチャーが何を思って大暴投をしたかがよく分かっていた。
それは僕のこの人ならざる野球能力の高さを感じ取ったからだ。
更にピッチャーは投球を再開。
投げた。
そしてそれはベースの前でワンバウンドをした。
キャッチャーは怒りピッチャーめがけてそのボールを思いっきり投げつけた。
キャッチャーはその後ミットを自分の胸に2、3度叩きつけピッチャーを睨みつけた。
ピッチャーの目つきが変わった。
やっと覚悟が決まった目をしていた。
このひりつく環境に高揚感を感じ再び思わず笑みがこぼれた。
ピッチャーの覚悟のこもったボールは今まで僕が見た中で最高のキレを起こしとてつもないスライダーとして向かってきた。
しかし、僕はそれを打ち砕いた。
僕はその球を打ち砕いた瞬間バットを地面に落とし一塁に向かって歩き出した。
ボールを目で追う野暮な事はしない。
それほどの手応えを感じたからだ。
すると観客席からの歓声が雄叫びに変わりドームを揺らした。
ボールはドームの最上段の観客席に飛び込み推定160メートルの特大弾だった。
そして僕は本物のプロ野球選手になれた。
初打席、初ホームラン、初今日のヒーローを一気に体験した。
そしてヒーローインタビューで僕はアナウンサーに
今はどういうお気持ちですか?
と訪ねられた
僕は
夢の中にいる感覚です。
と答えた。
人とは不思議で力を持った人の元に人は集まる。
その後、プロ野球選手を通して女優さんやアナウンサーとの合コンの話は何件も何件もきた。
先輩に連れられて行くとそこには見た事もないような洗練された美女がいた。
前の僕なら飛びついていただろうな。
僕はとびっきりのその誘惑に負けないように心の中にある特別な妻だけを必死に守った。
万人が認める美女ではない。
僕が人生の半分以上、、、今もなお愛している、、、それこそ万人が見れば普通な妻を愛して待っていた。
僕は真のプロ野球選手になってから記録を残し続けた。
そして2年が過ぎた頃、ついにレギュラーの座を勝ち取った。
球団の顔とも言えるような存在になっていた僕の年俸は前の人生で得られる金額を超え3億の契約となった。
しかし、それでも僕は決して贅沢はしなかった。
それは優里とこの人生を共に分かち合いたかったからだ。
意地のようなものだった。
そんなある日、一通のファンレターが僕の元に届いた。
いつも、いつまでもあなたを応援しています。頑張ってください。
名前は書かれていなかったが僕はこの字の癖が何だか懐かしかった。
丸みを帯びながら達筆なこの字、、、もしかして、、
僕はこのファンレターを送ってきた子を球団に調べてもらった。
そして夜。試合が終わった後にその子の住所に向かった。
そこにはボロボロのアパートがあった
階段を上ると少し揺れる
その鉄の階段を上がり二階に
205号室、、、
ドンドンとノックをして
すいません!
と言った
扉から出てきたのは髪の毛もボサボサにして何日洗ってるかわからない服を着た優里だった。
そんなものは気にせず僕はなりふり構わず優里を抱き寄せ、ギュッと抱きしめた。
遂に僕は優里を見つけた。
優里は何が何だかわかっていなく声も出せず驚いていた。
やっと、、、やっと見つけた!
優里は僕を突き放し、顔を見た
え?何!?何ですか?
僕は優里に尋ねた
僕のこと、、、覚えてないか?
その時優里は涙を流した。
やっぱり、、、あれは夢じゃないのね、、
優里はいつも僕と幸せに暮らす夢を見ていたのだという。
それは憧れから生まれるものではなく、些細な仕草。気遣い。癖。全てがリアルで現実にしか思えないものだったようだ。
しかし、優里は1人でスターになって行く僕を見て身を引くことを決めたのだという。
そして今回、さよならのつもりでファンレターを送ったようだった。
僕はその場ですぐに優里にプロポーズをした。
僕と結婚してください。あなた以外考えられません。
優里も笑ってそれに答えてくれた。
不思議なことに僕がスターになるのと反比例するように優里に不幸が続いたのだと。
学生の時にはイジメに会い、親は夜逃げし借金を押し付けられた。
そして最愛の人とは夢でしか会えず、近づいた瞬間、最愛の人は私を頭のいかれた変質者と思うだろうと。
優里は僕に言った
でも、またあなたに愛してもらえる。
それだけでもう私は幸せな人生だと言える、、、
僕はすぐに優里の借金を全額返済し、2人で家を建てた。
球団に相談し結婚式もあげさせてもらえることになった。
僕はこの不思議な二度目の人生を遥かに幸せに優里と生きる事を誓い幸せにその人生を過ごした。
優里と結ばれてからプロ野球でも活躍し、テレビにもでた。
そして、野球教室にも顔を出し僕にできることならとなんでもやった。
優里と旅行にも行き全国、海外を飛び回り2人で特別な時間も過ごした。
子供も産まれた。
息子と娘だ。僕は前の人生の時と同じ名前をその子達につけた。
家族4人で幸せに暮らし、、、
遂に、、、ただのおじさんだった僕が
プロ野球を引退して殿堂入りを果たした。
しかし、幸せな事はそう続かない、、、
僕と優里が40歳になった時
僕はある夢を見るようになった。
それは優里が前の人生で死亡した事故の夢だ
僕には不思議と分かってしまった。
あの事故の日は再びくることを、、そしてそれは前の人生より早く訪れると、、、
僕はその日から優里には内緒で遺言書を書き出した。
感謝の気持ち。
君に会えて幸せだったこと。
楽しかったことや夫婦喧嘩したこと。自分の拙い記憶から連想できることなんでも良いから必死に書いた。
そして遂にその日を迎えた。
優里が
買い物行ってくるわね!
と言うと
僕は全てを察した。そして
僕もついて行くよ!
と言い一緒に行った。
買い物中、無理やり優里の手を握る
何だか今日のあなたおかしいわよ!
と優里に言われ動揺したが鼻で笑って誤魔化した。
そして帰り道。事故が起きた横断歩道に着いた
僕は優里の方を向き
愛してる!
と伝えた。
優里は
急にどうしたの?
とこっちを見た。
するとその瞬間、赤信号を無視してこっちに大型トラックが突っ込んできた。
僕は妻の優里を突き飛ばし
目を閉じた
いやああああああ!!!
と優里の声が聞こえた。
しかしトラックは僕を避けて家の壁に突っ込んだ
僕は訳が分からなかった
優里は僕に抱きついてきた。
思い出した、、、私、、あのトラックに、、、身代わりなんてされて私が喜ぶとでも思ったの!?
最低よ!!!
優里に胸を叩かれながら僕は生きていることを不思議に感じた。
僕は全てを思い出した優里と帰宅して全てを話した。
事故のこと。その後の僕の人生や、心臓を患ったこと。
静かな空間が続く、、、
その空気に何だか耐えかねて
優里は前の人生と比べてよく泣くようになったね!
というと優里は
あなたは前の人生よりカッコよくなったね!
と言った。
気恥ずかしい気持ちを隠しながら2人で笑った。
そしてその後も2人幸せに暮らした。
どうやら僕は前の人生に無事リベンジができたようだった。
リベンジライフ 完
お読み頂きありがとうございました。