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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編 枷の魔王と鍵の勇者。

作者: 黒水晶

 魔王――――人間の負の感情により、生まれた悪魔の支配者。力の強い悪魔が魔王に選ばれる場合や邪神により作り出される。


 だが、一体だけ、悪魔では無いにも関わらず【古の魔王】に数えられる者がいた。


 今より、遥か昔。世界を管理する神々と世界の混沌を望む邪神との間に熾烈な争いがあった。


 神は勇者や人を使い、邪神は魔王と悪魔を使った。戦争は日に日に規模が拡大し、比較的平穏だとされていた辺境まで及んで行く事となった。


 このままでは、人が滅び、世界が邪神の手に堕ちてしまう……。そんなとき、突如として、それは舞い降りた。


 その顔は怒りに歪んでいた。或いは悲しみだったかもしれない。だが、それは関係なかった。


 それはまるで世界の終焉。神々と邪神の戦場に割り込み、まるで、争う者全てを滅ぼそうとするかのように人も悪魔も、天使も魔王も関係なく殺戮した。


 どこに属する事もなく、たった一匹で全てを敵に回したのだ。


 それは美しい白銀の翼を持つ龍。その怒り狂ったように悪魔と人との戦場に舞い降り、全てを焼き尽くす姿は最早、神秘的ですらあった。


 人はそれを新たな【魔王】と呼び、悪魔は【化け物】と呼び怖れた。


 その美しかった白銀の身体はその魂が穢れ、堕ちていく様を表すように、黒く黒く染まっていった。


 その龍は神側、邪神側問わず、傷を付けられながらも、取り憑かれた様に怯むことなく、戦場を潰してまわった。  


 そして、ついに邪神を喰い殺し、その龍は神々にも牙を剥いた。まるで、世界を荒らした者を全て赦さないとでも言いたいかの様に……。


 神々とその龍の戦いは三日三晩続いた。片眼を失い、片翼を失っても衰える事の無い戦意。それはもう、狂気と言ってもいいだろう。


 神々は恐怖した。何がこの者をここまで追い立てるのか、と。何がこの者を動かしているのか、と。


 だが、最凶と謳われた龍も生き物だ。限界はある。その限界は遂にやって来た。


「……最後に言い残す事は……?」

「ガアァアアアァァァ!!!」


 そこに有ったのは純粋な怒りだった。今なお、神を喰い殺そうともがいている。他の神に地面に縫い付けられ動けないと理解してはいるが、視線だけで喰い殺されそうな殺気に怯んでしまう。


「……貴様を千年間封じる。……せめて、頭でも冷やすんだな」


◆◇◆◇◆


 あれから千年。龍は封印されていた。勇者を天使を魔王を邪神を殺した龍は強くなりすぎたのだ。神々もこの龍を封じるだけの力しか残されておらず。せめて、封印が解けるまでに正気を取り戻してほしい、と。


 その龍は【神龍の魔王】として、語り継がれていく事となる。結果として、長きにわたり続いた戦争に終止符を打ったのだから。


 邪神を喰らい、神々に戦いを挑み、破れた魔王として……。


 そして、約束の期日。封印はボロボロに朽ち果て、役目を終えようとしていた。


 龍を地面に繋ぎ止めている鎖は緩み、身体に巻き付いている鎖は既に外れている物すら存在する。


 そして、遂にピキっという音と共に、鎖が落ち――無かった。


『……う~ん。あと、五百年……zzZZ』


 龍の魔力が迸り、鎖は時を巻き戻す様に修復されていく。時と共に朽ちた鎖は新品同様、見事な輝きを取り戻していた。


 それどころか、龍の加護により、より頑丈に、より強固になっている始末だ。


――【称号:怠惰な者を獲得しました。】――


――【称号:怠惰な者により、ユニークスキル:怠惰を取得しました。】――


 千年にも及ぶ封印は龍を堕落させたのだった。こうして、【神龍の魔王】の封印引きこもりは長引いたのだった。


◆◇◆◇◆


 魔王の封印は溶けることなく、魔王により、再び封印され、世界は平和に――――ならなかった。


 約束の日より千年の時を経て、異界より新たな魔王が現れたのだ。


 異界より現れし魔王。その者は、邪気により、土地を汚染し、空を覆い、魔物を魔属に変え、人々の負の感情を集め、悪魔を生み出した。


 そして、力を蓄えた魔王は、異界より十一体の魔王を呼び寄せた。


 異界の門を開いた事により、消耗した事により、魔王達にまだ、動きは見られていない。


 しかし、時が経てば、再び侵攻を始めるのは誰の目から見ても明らかだった。


 人々が不安に脅える中、神からのお告げが下った。


『救いを求めし者よ。五つの小さき灯火がいずれ、大いなる炎となり、災いを焼き尽くすであろう』


 お告げの意味は初めは解らなかった。だが、『災い』とは、魔王達の事だと言うことは解っていた。


 『災い』が焼き尽くされる。つまり、魔王達が倒される、と解釈した人々は喜んだ。


 そして、一年後、『小さき灯火』――――勇者の職業を持つ子供達が大陸の各国で見つかった。


 勇者達はアルフォート王国にある大陸一の『王立魔術学園』に魔術だけで無く、勇者としての品格と教養を学ぶべく集められた。


 それから、十年後、勇者の一人である少女が封印され(引き籠もり)し古の魔王の居場所へと向かっていた。


◆◇◆◇◆



 ダンジョン。その奥に二組の少女が挑んでいた。ダンジョンと言っても普通のダンジョンではない。【ソシエゴ教団】の総本山である【ソシエゴ教会】の地下深くに存在する遺跡だ。


 遺跡と言うのはダンジョンにあるはずの冒険者をおびき寄せる為の宝箱や魔物が存在しないからだ。


 ーーでは、何があるのか……?それはーーーー


「ふふ」


「エリー、嬉しいのもわかるけど、落ち着きなさい」


 金髪の騎士の姿をした少女が先頭を歩く少女を注意する。ここは今まで封印されていたダンジョンだ。何が起こるかわからない。気を引き締めるように注意するが……。


「だって、アミット!私の真の力が発揮されるかも知れないんだよ!!」


 鍵の様な剣を持つ水色の髪の少女が上機嫌に胸を張り話す。アミットと呼ばれた少女はエリザが浮かれている理由を知っているので、しょうがないなー、と言う顔をしている。


 エリゼは勇者だ。しかし、落ちこぼれだと呼ばれていた。勇者の中でただ一人だけ、勇者が持つ武器ーーーー神聖武具の力を引き出せていなかったのだ。


 神聖武具とは勇者を勇者足らしめる武器だ。その武器には特別な力以外に勇者と仲間のステータス一時的にを倍以上に底上げにしたり、レベルが上がり安くなったりする能力も含まれていた。 


 神聖武具を使いこなせていなかったエリゼへの風当たりは当然良くなかった。不憫に思った教皇が神に訪ねたところ、神が教えたのだ。


「でも、まさか、それが【神龍の魔王】を従える為の鍵だったなんて思いもしなかったわね」


「びっくりだね。でも、【神龍の魔王】って何?」


「えっ!?」


 アミットはエリゼに何を言ってるんだ、と驚きの顔を向けた。それはそうだろう。【神龍の魔王】とはお伽噺にもされている有名な話だ。


 まして、その魔王を従えにいくと言うのに何言ってんだ?と。


 そんなアミットの様子にエリゼはあはは、と誤魔化している。


「【神龍の魔王】と言えば、神々と邪神の戦争を終わらせた【終焉の龍】って言われて有名じゃない」


「へー、良い龍なんだね?じゃあ、なんで封印されてるの?」


 アミットは、ハァーっと頭を押さえてため息を吐いた。


「あのね、【神龍の魔王】は邪神を喰い殺した後、神々に挑んで封印されたのよ」

「えっ!?怖い龍なの?」


 エリゼは顔を青ざめさせた。今更ながら、自分が従える龍の事を知ったのだ。


「……今さらね。だけど、それほどまでの力を持つ龍を従えられたら、魔王を倒せる!!」

「そうだね。もっと、その龍のこと教えて!!」


 エリゼは自分の仲間になる龍の事に興味をもった。それほど有名なら、他に何か言い伝えが有るだろうと考えたのだ。だが、


「それが、戦争に突然舞い降りて、戦争を終わらせた、と言う話しか残されていないのよ」

「えー。それだけ強ければ何か逸話とかありそうなのにね」


 神話にもお伽噺にも、数百年続いたとされる戦争にも関わらず、その龍の記述は突然現れ、邪神を喰らい、神々に挑んだ龍としか示されていなかったのだ。それ以前の龍の様子が示されていなかった。


 壁画も残されているが、その壁画には白銀の龍が黒く染まっていく様子、勇者や悪魔、天使に魔王などを纏めて相手取る様子、怒り狂う様子、邪神を喰い殺す様子が描かれ、最後に、神々によって封印される様子しか描かれておらず、それ以前の龍の姿は描かれていない。


 何のために現れ、何がしたかったのか、何者なのか、その全てが謎に包まれていたのだ。


 余りに唐突に現れたため、歴史家や宗教者は【異界より現れし異界の神】と言うものもいた。


 神々と邪神が争っているうちに、世界を乗っ取ろうとしたのだ、と言う者。


 神々が隠していた最終兵器で、その最終結果が暴走したのでは、と言う者。


 邪神が作り出した邪龍で、邪龍が邪神を裏切ったのだ、と言う者。


 初めは白銀の龍で黒く染まっていく様子が描かれていたため、邪神に堕とされたが、なんとか邪神を倒し、神々が元に戻るまで、封じた、と言う者。


 怒り狂う様子がどこか悲しげに描かれている事から【神龍の魔王】こそが、世界の化身で争いばかりの世を終わらせようとしたのだ、と言う者など、様々な憶測が飛び交っていた。



「ここが……」


「……最後の扉」


 二人の前に巨大な扉が現れた。その扉は金属で出来ており、悪魔と相対する龍の様子が描かれている。


 時間の経過を感じさせる芸術的な彫刻が扉の醸し出す重厚さをより強調していて、見る者を圧倒していた。


「開けるね……」


 扉の真ん中にある巨大な鍵穴にエリゼは自分の【神聖武具】である鍵型の剣を差し込んだ。


 アミットには一つの疑念が渦巻いていた。


――なぜ、こんな場所に、魔王が封じられているの……


 教会の本拠地と言う非常に重要な場所。元々、魔王が封じられていて、そこに教会が建てられたのかも知れない。


 二千年も前のことだ。教会が先か、封印が先かは今では知ることは出来ない。


 しかし、魔王が教会の地下に封じられているのは少し、否、かなり不自然な事だ。


 何故、態々危険な場所に重要な建造物を建てたのか。


 神の封印に絶対の自信があったのか、それとも【古の魔王】と呼ばれてはいるが、今回の魔王討伐に導入されようとしていることから、元々は神の眷属だったのか。


 いずれにしても、違和感は拭えない。


 ガチャリっと音がして、左右の扉が腹の底に響くような音をたてながらゆっくりと開かれていく。


『――――グルルルグルゥ』


 地の底から、地の底から湧き上がる様な低い呻き声が反響し、生暖かい空気が二人の間を吹き抜けて行った。


 その息遣いはまるで、大地の鼓動。


 緊張が走る。この奥に邪神を喰らい、神々でさえ、封印する事がやっとだったと云われる伝説の龍が封じられているのだ。


 恐る恐る、扉を潜った。


 二人の目の前には先の見えない暗闇が広がっていた。


 エリゼがゆっくりと足元を確かめる様に一歩踏み出す。すると、足元に炎が宿った。


 左右に灯った炎は数を増やしていく。そして、炎で照らされた一本の道が現れた。


「これは……」


「アミット見て!!」


 幻想的な光景を目の当たりにして、言葉を失っていたが、エリゼの声に正気を取り戻した。


「底が見えないよ」


 エリゼの言葉にそんな馬鹿な、と道の外を覗き見ると、今立っている道以外には何も見えない。


 予備の松明に道を照らす炎で火をつけ、投げ入れると見えなくなってしまった。


「エリー、絶対に落ちないでよね。……出られなくなるから」


「うん……」


 図らずもアミットの疑念が晴れた。ここは――――【古の魔王】が封じられていた場所は、教会の地下ではなく、異界である、と。


 先程より、踏み出す一歩が重い。【異界】――――恐らく、神の創った空間だろう場所だ。


 落ちれば、人間如きが出る事など出来ないだろう。


 気の遠くなるほど歩いた。歩いた距離も時間も大した事は無いだろうが、二人の疲労は大きかった。


 二人の目の前には、円形の祭壇。その上に強靱な四肢と尻尾、空を切り裂く様な鋭い隻翼を持った巨大な漆黒の蜥蜴――――【龍】が枷に縛られながら、炎の灯りを鬱陶しそうに、眠っていた。


 龍の呼吸に合わせ、鎖が動き、鈴の音の様な音が響く。

 

 二人は只、龍を見ることしか出来なかった。翼のない野獣の様な竜やワイバーンの様な劣龍しか見たことの無い二人は初めて見る本物の龍を目の前に動けないでいた。


 流石は【神龍の魔王】と呼ばれていただけの事はある。暗闇を更に塗り潰す様な漆黒の鎧と白銀の鎖が織り成す様相は洗練された芸術品の様。


『遂に、殺しに来たか……。良かろう。とうの昔に生きる理由を無くし、朽ち果てるのを待つ身。……好きにしろ』


 二人が見惚れていると、唸り声に合わせて、男の声が脳に響いた。


 その声は、どこか投げやりな、望みを全て失った様な気力のない声だった。


「殺しに来たんじゃないよ」


『何?……では、ここへ何しに来た?』


 誰かと勘違いしていると思ったエリザが前に出て言うと予測していた人物と違うことに、龍の目が開かれる。


 眠たげな碧い隻眼には興味の色すら浮かんでいなかった。朽ち果てるのを待つ、その言葉通り、全てがどうでも良いのだろう。


「魔王を倒すのに貴方の力を貸して欲しいの」


 両手を胸の前で組、祈るように龍に頼んだ。しかし、


『またか、懲りぬな……神も悪魔も』


 完全に興味を無くしたのか、龍は眼を閉ざし、再び眠りに就こうとする。醒める事の無い、眠りに就こうと。


「待って!!皆苦しんでるの!!助けてよ!!」


 話を聞く気すら無い、と理解したエリゼは必死になって龍に嘆願する。涙を流しながら、縋るように手を伸ばす少女を龍は鬱陶しそうに眺めていた。


 全てが自分に関係の無い事だ、と。


『それも、一つの生存競争だ。諦めろ』


 その言葉に、キッとエリザは龍を睨み、龍の頬を力一杯敲いた。


「貴方に何が分かるの!?大切な人を失う気持ちなんて、暴れてここに閉じ込められてる貴方には――――壊してばっかりの貴方には分からないわよ!!」


『グルルル』


 龍は低く唸り声を上げた。今まで何も反応しなかった龍の感情が初めて反応した。不快そうに、エリゼを見ている。


「エリー!!何やってるのよ!!」


 今まで事の成り行きを見守っていたアミットは慌てて、エリザと龍の距離を離した。


「だって!だって……!」


 涙を流しながら、感情的になっているエリゼを見て、アミットはこれ以上、龍との話は無理だと判断した。


「ここは一旦退くわよ!!神龍様!!御無礼をお許し下さい!!」


 龍に頭を下げ、許しを請うが、龍異変に気が付いた。


 今まで何も映らなかった瞳に光が宿っていた。


『エリーか……?』


 龍の眼はエリゼを――エリゼの深層を覗き込む様に、ジッと視ていた。


「そうよ!!エリー……エリゼ=ハーミットよ!!」


「エリー!!」


 龍の問にエリゼは声を荒げ、答えた。ケンカを売る様なエリゼの物言いに、アミットはこれ以上、龍を刺激しては行けないとエリゼを引っ張って出口へと向かおうとする。


『はは、そうか……そうか……』


 しかし、龍は襲う事無く、静かに力無く、何度も頷いていた。


 そして、


『はは、ははは……』


 力無く、笑っていた。龍の余りの変化に二人は掛ける言葉を持ち合わせて居なかった。


 静かに見守ることしか出来ない。


 徐々に大きくなる笑い声、今で感じられなかった熱が燃えるように大きくなる。


『ハハ、フハハ……フハハハハ!!……彼奴らはどれだけ……!!』


 紅い魔力が雷の様に走り回る。


 龍が笑っているが、それは決して楽しいから笑っている訳では無いように見えた。行き場のない怒りや悲しみを、そして、そうするしか無い自分を嗤っている様に見える。


『ハハハッ!!!我が力をくれてやろう!!ここを出る理由が一つ出来た!!』


 狂った様に嗤い続けていた龍が、嗤うのを止め、顔を上げ、咆哮を上げた。


 衝撃波が鎖を鳴らし、炎を揺らし、この部屋、否、大地を揺るがした。


 自力で枷を破ろうと全身に力を入れ、立ち上がったその隻眼は

紅く染まり、怒りと共に揺るぎない決意が宿っていた。


 圧倒的な威圧感を、悲鳴を上げる鎖を前にアミットは理解してしまった。何かがこの龍の逆鱗に触れてしまったのだと――――

ありがとうございました。


数ヶ月前に書いて、執筆中小説一覧の中に埋もれていた小説を書き足して短編にしてみました。



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