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~ある日、……さんが死にました~

作者: 風晴樹

――ある日親戚のおじさんが死んだ。

これは、俺が5才の頃のはなしだ。



その親戚のオッチャンはまだ若く(ここで言う若くとは50歳とか、まだ死ぬには早いという意味だ)周りの親戚たちも「早いねえ、早いねえ」と嘆いていた。




なかには部屋の隅でうずくまりながら、目尻にたまった涙を袖で拭く女性の姿。



廊下の椅子で一人指をくんで、目を閉じているおじいさんの姿。



妙に不機嫌になりながら、酒の入ったコップをバンとテーブルに叩きつける白髪混じりのおじさんの姿。



行動や体勢は違えど、全員悲しんでいた。



俺はそれをオロナミンC片手に少しはしゃいで見ていた。



今思えば、場違いで一歩間違えはキチ○イな行動だったかもしれないけど、まだ5才だ。人間の死というものをまだ理解していない。

しかも、オロナミンCなんて高い飲みものを何本も飲めるときた、これをはしゃぐなと子供に言い聞かせるのは至難の技だろう。



そんな事もあり親には迷惑をかけたのかもしれない。ごめん、父さん母さん。






そして、次の日。


火葬場へ向かっていた俺は、昨日のオロナミンCのせいだろうか、お腹を壊しながら親戚一同が乗るバスに揺さぶられていた。




単純に吐きそうだった。


……ていうか、吐いた。




親戚たちからも白い目で見られてたと思う。まあ、推測だがな。だって俺もオロナン色のげろ吐いて物理的に白目剥き出しだったし白い目向けられてるとこは見えませんでしたもの。




まあ、今思えばきっと白い目を向けられていただろう。




まじで、親にも迷惑かけたな。本当にごめんよ。



そのあと、死んだオッチャンは焼かれた。




火葬場の煙突から煙がもくもくと上がりそれを俺は見ていた記憶がある。




当時、機関車トーマスが好きだった俺はその煙が楽しくて仕方がなかったな。



§ § §



ーーある日おじいちゃんが死んだ。



俺が学生の頃だ。




学生の俺は小さい頃と違い、死を理解していた。




いや、理解しすぎていた。と、言った方が分かりやすいのかもしれない。




まあ、一言で言えば。『人間味がなかった』




当時の俺は『人間なんていつか死ぬ。だから、別に誰がいつ死のうとどうでもいい。俺だってそうだ。いつか死ぬし、イケメンだろうが、頭がよかろうが、スタイルがよかろうが、可愛いかろうが、ブスだろうが、バカだろうが、いつか死ぬ、だから別に悲しくないし、人間なんて一人死のうがどうでもいい』そう思っていた。




砂漠のようにカラカラな心だった。




故に、じいちゃんが棺桶に入っている姿を悲しいとは思わなかった。



ただ、『あっ、死んだ』って感じ。まるで虫が潰されたような感覚だった。



しかし、葬式の会場にいた人たちは、俺とは違っていた。




皆、悲しみに明け暮れ、果てには廊下からヒステリックな泣き声が聞こえてくる。





俺はそんな泣き声にうんざりし、少しオロナンの影響もあったのかな、吐き気がした。




そして、次の日。



親戚一同が乗るバスに揺さぶられながら俺は火葬場に向かった。



揺さぶられること30分。



また、いつもの吐き気がした。やべぇ、つぎからオロナンはほどほどにしなきゃ……ははっ。





だか、今回は俺も少し成長した。ちゃーんとエチケット袋は持参である。




エチケット袋を取り出した俺は周りを気にしつつ、オロロオロロとオロナミンを吐く。



隣にいたお母さんも、

「また、あんたかい! オロナン少し控えなさい!」

と、叱っていたのを覚えている。



それに俺は、さすがは反抗期、

「ちっ……」

と、舌打ちをしていたっけな。



そして、会場に着き、



じいちゃんが焼かれた。



俺はなんとも思わなかった。『だって、もう死んでるし、肉のか溜まりが焼かれてるだけじゃん。そんな事レストランとかでは、しょっちゅう行われてるわけだし』

とか、思っていて、棺桶にしがみついている親戚どもがものすごく滑稽に思えた。




『わーわー泣き散らしていてうるせぇなあ、人間だって自然のなかで生きてるんだし人一匹死んだくらいで泣くなや』





そう思いながら俺は火葬の部屋の扉の前に立ち尽くす親や親戚たちをただ面白く見ていた。



§ § §



ーーははっ、今思えば。バカなことしてたな俺は。





今、俺の前では、俺の母さんの死体が棺桶に入っている。











マジかよ……。








嘘だろ?









なあ。








嘘だって、言ってくれよ。









なあ。












母さん……。






俺の目からは、いつの間にか大量の涙が溢れていた。









なんでだよ







人間の死って、


こんなに重いものなのかよ……。








流れ出した涙は、砂漠のようにカラカラに乾ききった俺の心を潤していった。







その日の俺は、小さい頃、式場ではしゃいでいた自分とは真逆だった。






大好きだったオロナミンCも今じゃ喉を通らない。




水分は涙で減っているはずなのに、オロナミンCも飲んでないのに、なんだよこの吐き気。




今はもう酒が飲める歳だ。




俺はいつぞやのおじさんのように、酒の入ったコップを机に叩きつけた。




酒には口をつけていない。

故に俺は酒を辺りに撒き散らす。






親戚たちからは白い目で見られる。




今は白目になってないからはっきりわかる。見える。



でも、



あの頃叱ってくれた母親はもういなかった。





迷惑かけたな。



ごめんよ。




まだ、親孝行もしてなかったのに……。




迷惑だけかけちまったな。








ごめん。ごめん。ごめん。








次の日、火葬場の煙突から出てきた煙に俺は、





「さようなら、ありがとう」




そう呟いた。

以上、一読ありがとうございます。

暇なときでも『風晴樹』を検索してくれたら嬉しいです。

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