待ち望んだ再会
無事穴に着地した瞬間、穴の中に大きな音が響いた。
「ひぃっ」
「いけない、姫様を驚かせてしまったわ」
見張りが居ないのを確認してから二枚の袿を脱ぎ、姫様に声をかける。
「姫様、私です。木立です。驚かせてしまってごめんなさい。どうかお顔を見せてくださいまし」
「木立…? 木立なの?」
ゆっくりとお互いの距離が縮まり、やがて相手の顔を認識出来ると、私達は抱き合って、この再会を喜んだ。
「どうして木立がここにいるの?貴女も拐われてきたの?」
「いいえ、私は自分の足でここまで来たのです。どうにかして姫様を助けたくて」
「まあ、私の為にそんな危ないことを? でもどうやって?」
「とても不思議な事があったのです」
私は、二枚の袿を姫様に見せ、ここまでの経緯を話した。
「そういう訳ですから、姫様はこの朽葉の袿を御召しになって、すぐにここからお逃げ下さい。後は私が姫様に成りすましておきますから」
「そんな、それでは貴女の身が危ないじゃない。貴女がいない生活なんて、死ぬより恐ろしいわ」
「うふふっ」
「何を笑っているの?」
「だって姫様が、ついさっき私が考えていたのと同じ事をおっしゃるんですもの。嬉しくて。姫様、私は必ず後から邸に戻ります。ここまでの道のりを乗り越えて来たのだから、きっと大丈夫です。私、まだまだ姫様と話したい事が沢山あるんです。姫様ともっと一緒に居たいんです。その為には、この方法が一番良いんです」
「本当に、ちゃんと帰って来る?」
「はい。この木立、姫様に嘘はつきません」
「わかった。絶対に逃げきって、二人一緒の未来を迎えましょう」
姫様は涙拭って、そうおっしゃった。もう、先程までの怯えた顔ではなくなった。
私は姫様に朽葉の袿を着せ、穴の外へ送り出す。最初の足場は遠いので、私が屈んで土台になった。姫様が自分から離れ、かかっていた体重が無くなったのを確認すると、すぐに穴の中で姫様のふりをした。勿論、あの萌黄の袿を羽織って。
外はまだ明るいのに、穴の中は薄暗かった。
「こんな所で何日も過ごして、きっと心細かったに違いないわ。……さて、姫様が無事に邸へ戻ると信じて、今度は自分が帰る方法を考えなくては」
しかし、いくら考えても思いつかない。
「困ったわ、どうしましょう」
ここまで歩いてきた疲れもあって、余計に頭が回らない。
「いけない、眠くなってきたわ。眠っては駄目。早く邸に戻るんだから」
そう思いながらも、意識は徐々に遠のいていった。
「木立、木立やい」
ふいに聞こえてきた声に、慌てて目を開ける。私ったらこんな時にうたた寝してしまうなんて。私は飛び起きて、声の主に視線を移す。いつものように、布を持った老女が立ってた。
「いつぞやの袿のお礼です。これで袿を縫ってお召しなさい。さあ急いで、日が落ちる前に縫ってしまいなさい。針と糸はこれを」
そう言って、老女は紅梅色の布を差し出した。私は、言われるがまま、袿を縫う。
「縫い終えたら袿を羽織って、最初に穴に飛び込んできたものにお乗りなさい」
そう言って、老女は穴の外へ消えていった。