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姫と女房


 邸の奥から、ばたばたと慌ただしい足音が近付いてくる。


 「木立!」


 足音の主は、姫様だった。高貴な姫が音を立てて走るなんて、普通なら有り得ない事。姫様だって、いつもは御簾の奥に居て、立ち上がる事すら滅多に無い。でも、今日ばかりは誰も咎めない。


 「ああ良かった。貴女を信じてはいたけれど、どうしても不安で。二度と会えなかったらどうしようって……」


 裸足で庭先まで飛び出してきた姫様は、人目もはばからず、大声で泣き出してしまわれた。ついさっき、似たような事を考えていた私は、思わず笑ってしまう。


 「木立?」

 「ふふっ。また同じ事を考えていました。姫様と考えが同じなんて、凄く嬉しいです」


 「私もよ。前から思っていたけれど、私達、案外似た者同士かもね」


 そんな事を話している内に、姫様もすっかり落ち着かれた。私は姫様がお部屋に戻られたのを確認してから、少納言様と北の方様にお会いした。


 思えば、誰にも何も告げず、勝手に邸を出ていってしまったので、お二人には大変な迷惑をかけてしまった。一応物忌みという事にはしておいたけれど、四日も誤魔化すのは無理だったでしょうから。私は、勝手をしてしまった事を、お二人に謝罪した。


 「謝ることはない。花菱を助けてくれた事、心から感謝する」


 小納言様も北の方様も、深々と頭を下げられた。女房相手にこんな対応をなさるなんて、聞いた事が無い。私が戸惑っていると、小納言様は笑って言葉を続けられた。


 「さて、此度の功労者に褒美をやらなくてはな」


 勿体無いお言葉だ。でも、私はすぐに食いついた。


 「なら、一つお願いがあります」

 「おお、いつも遠慮がちなお前がそんな風に言うとは珍しい。良いぞ。何でも言いなさい。一つと言わず、いくつでも」


 私は、成彦さんとお義父様を紹介した。私を助けてくださった事、成彦さんと夫婦になった事、お義父様がご病気で、一人にしておけない事。短い間にいろいろあり過ぎて、自分でも信じられないような話だったけれど、全て正直に話した。


 「この二人を私と共に、邸に置いて欲しいのです」

 「それは、褒美とわ言わぬだろう。お前の背の君ならば、私は無条件でそれを許すぞ。何か欲しいものは無いのか」


 少納言様にそう言われ、私は何が良いか考える。


 「欲しいもの……欲しいもの……。ええと、何かあったかしら」


 しばらく考えても答えが出ない。だって、大好きな姫様にお仕え出来て、新しい家族とずっと一緒に居られる事になって……他に何が必要かしら。


 「ああ、無理に捻り出さんで良い。欲しいものが出来たら、遠慮なく言いなさい。私が生きている限り、この恩は忘れん。いつでも言ってくれてかまわんからな」

 

 どれだけ考えても欲しい物が思い当たらなかったので、結局保留となった。


 その後は、徐々に、かつての穏やかな生活に戻っていった。姫様と大夫様の婚儀もやり直し、仲睦まじい様子が人々の羨望を集める。


 私はというと、あの袿を使って、小さくなったり大きくなったりしながら、邸での生活を楽しんでいる。子供も出来、お義父様も満足気だ。あの老女は、あれ以来姿を見せない。一言お礼を言いたかったけれど、彼女は役目を終えたのでしょうね。きっと、いつかまた、どこかで誰かを助けているのねと、私は思った。


 家が没落し、他家に出仕する身となった時は、随分落胆したものだけど、もし今、また姫としての生活に戻れと言われても、それは丁重にお断りしたいと思う。


 初投稿作品ということで、四苦八苦しながらの執筆でしたが、何とか完結出来ました。文が稚拙なうえ、段落が変わっても文頭が一マス空かない(私の携帯からだと全角スペースを打てないので)という、読む側の方にとっては、かなり読みにくいものだったと思います。※現在は修正済み。

 それでもここまで読んで下さって、本当に有難うございます。


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