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ヴァルキュリヤの英雄  作者: 古紫 真咲
第一章 今日から高校生! 運命の始まりと面倒な出会い
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第三話 入学式での演説は違和感を覚えるもの。

遅くてすいません。

「では、座席はこっちから順に詰めていってください。他のクラスの生徒も来ているので、急いでください」


 碧皇(へきぎみ)先生が急かすように俺達に言う。俺は出席番号的に一番前なので、言われた通り早足で席につこうとする。

 しかし、それでもやはり。

 目の前の景色、光景に、俺は息を呑んだ。


「尋常じゃないな、これ」


 一体何を想定して造られたのか。

 いや、深い理由なんて無いだろうけど。

 案内された講堂はあまりにも広すぎた。外から見るだけでも学園の校舎より大きかったというのに、いざ入ってみれば下にも続いていたのだから。

 最初入ってきた場所から、階段を降り、一番下まで行く。どうやら俺達一年二組含め、新入生一年は全員一番下の段に集まっているようだ。それでも広さは充分過ぎるくらいにある。上を見れば生徒が座れる場所として何十段も座席の段差があり、そこから式典などを観覧するのだろう。

 そういえば。

 数千人を収容出来るほどの広さがあると言う情報がパンフレットに書かれていたということを思い出した。


「ね、ね、征成。ちょっと失礼するよ」

「え? 何? どうした?」


 突然、俺の背後から明音が声をかける。

 まるで急ぐようにこちらに来た彼女は、既に手に持っていた封筒をそそくさと俺に手渡すと、別れ際に「はいこれ。私からのラブレターね。入学式が始まる前にしっかり読んどいてねー」などと冗談めいた口調で喋りながら、またそそくさと自分が居たであろう列へと戻っていった。

 俺は手渡された白い封筒を眺めながら席に着いた。


 ――――入学式始まる前に読めって、一体何寄越したんだ明音のやつ…………。


 ふと、手に持った隅に小さく書かれていた文字を見つける。

 ――――戦姫神学園学園長より、天乃征成(あまの ゆきなり)様へ。

 書かれた文字に、少し驚く。

 同時に疑問が浮かぶが、直ぐに解決した。


 ――――なんで明音がこんなの持って…………あ、あの時のか。


 数十分前の事を思い出す。

 教職員用校舎で、明音は教員と入学式での新入生代表挨拶についての説明を受けるために接触していた。そこでこの紙を受け取ったのだろう。

 すぐ近くには俺もいたことだし、自分から渡しておきます、なんてことでも言ったのだろう。


 ――――…………それを今の今まで忘れていたのか……。


 …………。


 ……………………。


“さぁ征成君! 私のラヴーなレター(先生から預かった手紙)を受け取って…………”


 …………。

 …………気のせいだな。うん。


 軽く頷く。

 さて、と気持ちを切り替えるついでに自分達のクラスはどうだろうか、と周囲に視線を向ける。

 先生の指示もあってか、既に全員座っていた。

 出席番号順的に意外と近くに居る明音は、じっと一枚の紙をみつめている。

 恐らくは新入生代表挨拶用の紙か何かだろう。

 原稿内容の確認をしっかりと行っているみたいだが、あいつに限って失敗をするとは思えない。

 ――――と、紙で思い出した。


 ――――俺もそろそろこの封筒の中身を確認しよう。


 迷うこと無く封筒を開ける。

 少し乱暴に開けてしまった為に開け口が汚いが、この際どうでもいい。

 中身を確認すると、紙が一枚入っており、入学式での自分の立ち位置についての事が書かれていた。


 ――――前略、天乃征成様。本校へのご入学、誠におめでとうございます。

 単刀直入に申し上げさせていただきますが、入学式にて新入生成績上位者十名による『挨拶』を行うこととなりました。

 

 事前に連絡をお伝えしましたが、入学試験において『学年七位』という非常に優秀な成績を修めた貴殿には、入学式での挨拶を言っていただきます。

 入学式の最中、学園長である私が名前を御呼びしますので、返事とともに中央の階段を登り、壇上の座席へとお座り下さい。

 また、つきましては同紙裏面に書き写す紙面がございますので、そこに壇上にて申し上げる文章を書いて下さい。

 お手数お掛け致しますが、何卒、よしなに。

 

 ――――…………。

 いやいや。

 まてまて。

 おいおい。


「……ご冗談を――――なんて、言ってる場合じゃないよな、これ」


 はっきり言って不味い。

 頭をまともに働かせれば、こうなった原因の九割は自分のせいではある。

 しかし、こういった大事なものを今になるまでずっと持っていたあいつにも非はあるんじゃないだろうか。もう少し積極的に手渡そうとしてくれたら俺も受け取るとは思うんだが………………。

 いや、どう考えても俺が悪いな。

 どうしようもないな。

 気を取り直し、適当にそれらしい台詞を考える。

 時間も結構過ぎてはいるが、思い付く時間くらいならあるだろう。

 楽観的な思考を広げるも、実際は現状における自身の立ち位置が危ういということは理解している。

 失敗すれば間違いなくやりづらくなる(・・・・・・・)

 出来うる限り波風立たないような一言を目指そう。

 誠意が感じられれば何とかなるかもしれない。

 そういった感じの台詞を考えていると、体感数十分経ったぐらいか、特別講堂内が全体的に光に包まれ、明るくなる。

 眼前、壇上を、背後に設置されているスポットライトが照らす。

 端にあるカーテンの奥から、光に照らされながら誰かが歩いてきた。長い髪を乱れぬよう一つにまとめ、紺色のスーツを着たいかにも仕事が出来そうな女性だ。悠然と表れた様子をみれば、おそらく学園長なのかと思う人もいただろう。

 だが、中央に備え付けられたマイク台にて発せられた言葉を聞き、それは勘違いと気付く。


「学園長補佐、兎摘由亞(うつみ よしあ)です。学園長の代理として、ここに戦姫神学園入学式の開始を宣言させていただきます。それでは――――」


 講堂の中心部にあたる壇上から、透き通るほどはっきりした声が聞こえた。

 入学式が始まったのだ。

 思わず、微かに焦りを帯び始めた身体全体を落ち着かせるように、深呼吸をする。

 静かに、三回ほど繰り返して少し落ち着くことができた。

 今の自分が考えるべき――――対処するべき問題は壇上にて発表する新入生成績上位者による代表挨拶だけ(・・)だ。今すぐに新入生代表挨拶が始まる訳じゃない。

 確かに今、何も思い付いていない訳だが。

 ――――むしろ、先に皆の挨拶を聴いてから考えるのもありか?


 自身の順位は『七位』だ。おそらくだが、一位の人(明音)から代表挨拶を行うはずだろう。それならば少なくとも六人の代表挨拶(例文)を聴くことが出来る。そこから参考に発表するというのも手だろう。

 が、もし仮にも先鋒方々が酷いものならば、無駄な時間を過ごすことになる。

 ――――明音に限ってそんなことは…………まぁ、多分無いとは思うが…………。

 ……検討しておくだけしておくか。


 俺の思考とは別に、入学式は流れるように進んでいる。既に学園長が登場し、挨拶を始めるようだ。


「――――戦姫神学園、学園長兼理事長の不破霧恵(ふわ きりえ)だ。新入生諸君、ならびに在校生諸君、この日を無事に迎えることが出来て、私はとても嬉しく思う。――――さて、本来ならここで私がまず挨拶、そして式辞を行うはずだが、まずは新入生代表挨拶からゆこうか。あまり堅苦しいのは私の性分ではないのでな。少し予定と崩れるかもしれんが――――まぁ、ちょっとした『サプライズ』というやつだ。勘弁してくれ。では首席の者から順に呼んでいくので、大きく返事をしてこちらの壇に上がってくれ。緊張で失敗しても問題はないさ。それもまた個性というのだろう?」


 ――――この学園長は、意外とユニークな人なのかもしれない。


 俺がそんなことを思いながらも、壇上にて学園長が口をマイクに近づけ、声を発したと同時に「ガタッ」という音が後ろの方で聞こえた。

 俺を含め新入生の数名が振り向く。

 最後尾近く、一人の少女が堂々とした趣で腕を組みながら立っている。

 柑子色の髪をなびかせながら、自らを見せびらかすように。

 学園長も口が止まったみたいだが、一つ咳払いすると、何事もなかったかのように、名前を読み上げていった。


「まずは首席、秕明音(しいな あかね)

「はい」


 その一言と共に彼女は立ち上がり、壇上へ歩いていった。

 物静かな佇まいながらも、確かな存在感を感じさせる足取りで彼女は歩を進める。

 壇上へ上がると、明音は学園長から何か言われたらしく、軽く頷き、端に用意された椅子の前に立っている。


 ――――やっぱ慣れてんな、明音の奴。


 それを見終えた俺は、何となく、もう一度後ろの方へ振り向く。

 柑子色の長髪を持つその女生徒は驚いたような表情を浮かべ、ただただそのまま壇上を見つめたままだったが、学園長が続けて「次席、箕枷和澄(みかせ あすみ)」と言うと、静かに「はい……」と答え、壇上へ進んでいった。


 ――――自分に自信がある、プライドの高いお嬢様タイプの人か? ――――まぁ、憶測だけども……。


 ――――と、そんなことよりも、だ。

 新入生代表挨拶。ふと、それらしいものは思い付いたのは思い付いた。

 ただ、これが新入生や在校生に対してどう反応されるかは俺の頭じゃ判らない。

 完全に行き当たりばったりのような感じなのだが、何も思い付かないよりはマシだろう。

 そして。

 気が付けば、自分が呼ばれているというのに。

 つい、考えに耽ってしまった。


「三席、里藤端弥(りとう はしや)

「はい!」


 ――――今思ったら、短すぎても不快感があるかもしれないよな。


「四席、篝泡香(かがり ほうか)

「はい」


 ――――だけど、俺はこういったの苦手だしなぁ。


「五席、柳井七奈美(やない ななみ)

「はい」


 ――――正直やりたくもないし。


 俺は腕を組み、小さく唸る。


「六席、佐藤八重(さとう やえ)

「はい」


 ――――だが、やらなきゃ迷惑をかけることは確実だからなぁ。


「七席、天乃征成(あまの ゆきなり)


 ――――くだらないことで人生棒にふりたくないってのは、当然だしなぁ。


「七席、天乃征成」


 ――――…………はぁ。


「天乃征成!」

「……え、あ、はい!」


 慌てるように席を立ち、反射的に応えた。


 ――――この癖、直せそうにないなぁ。


 小さく溜め息を吐く。とりあえず呼ばれたのでゆっくりと壇上に向けて歩いていく。

 学園長はそんな俺の様子を見て、呆れたように口を開いた。


「早くこちらに来てくれないか。一応、君はこの学園では優秀な部類に入るんだからな」


 その発言で周囲から笑い声が聞こえた。特に気にせず壇上の座席辺りに視線向けると、明音は顔を逸らし腕を小さくつねっていた。

 よくよく観察してみれば、


 ――――こいつ必死に笑い堪えてやがる。


 とりあえず少し早足で俺が座る椅子へ向かう。

 途中、次席から何か強烈な視線を感じるが、まずは座ることを優先した。

 俺が椅子に座ると、気を取り直すように学園長がまた、口を開く。


「…………私も予想外な事があったが、気にせず続けさせてもらうぞ。八席、布河氷駈(ぬのかわ ひかり)

「はい」


 学園長による代表十名の呼び出しは(俺を除けば)流れるように進む。

 考え事に耽っていたので、先の人達は全く見てもいないし名前も聴いていなかったが、壇上に上がったからか、八人目の人物以降はどんなものなのかは判った。

 透き通るような蒼色の髪を持つ女生徒が壇上に上がり、俺の隣に座る。

 とても静かな佇まいだ。ここに歩いてくる間も特に周囲に興味無しの様子で、席に座った瞬間目を閉じ一人の世界に入る辺り、この人も学園長が呼び出しする前に勢いよく堂々と席を立ったあの女生徒となんとなく同じ感じがする。


「――――   、          。     ……」


 何か聞こえた気がするが、気のせいにしておこう。

 そういや。

 俺の行動が予想外と言うのなら、今まで俺みたいな人間は入学式には居なかったってことだろうか?

 意外……でもないが、この学園は結構悪い噂も聴かないし、多分そうなんだろう。


「九席、稿芽仙(わらめ のり)

「はい!」


 元気そうな少女が壇上に上がってきた。いかにも体育会系女子って感じだ。

 早足でこちらまで近づき、席に座る。

 ――――次で最後の人だな。


「最後だ。十席、篠崎咲麻(さささき さくま)

「はい」


 ――――なんともまぁ呼びにくい名字だな。


 等とどうでもいい事を思う。

 真っ直ぐこちらに向かってくる、『さ』の多い名前を持った女生徒は、先程の布河という女生徒と同じ雰囲気で席に座った。

 スラッとした佇まいから、真面目そうな印象を受ける。

 学園長は全員揃ったのを確認すると、一度頷き、再度正面を向く。


「全員揃ったな。彼ら少年少女が、今新入生の成績上位者十名だ。ちなみにだが、内二名に普通科の生徒が入っている。これは、この学園始まって以来の出来事だからな。誇ってくれて構わないぞ」


 その言葉を発した後、特別講堂内に消え入る歓声が響く。

 学園始まって以来というのは、確かに凄いことなんだろう。

 しかしだ。


 ――――どうでもいいこと発表しやがって。


「さぁ、早速始めよう。秕君、中央のマイク台へ進んでくれ」

「はい」


 堂々とした趣で、明音は足を進める。

 ――――さて、俺も覚悟しておかないとな。




 ●


「…………以上です。ご静聴、有難うございました……」


 月並みな拍手が彼女を包む。

 一礼し、正面の特別講堂の座席に背を向けてゆっくりと戻ってくる。

 その際、両手に握られた演説に使われた紙は、持ち手のところが握り締められ、くしゃり、と歪んでいた。

 彼女の表情はあまり満足していない様子だ。

 まぁ、そりゃあそうだろう。

 何故なら先鋒方……具体的に言えば明音のことだが、あいつが凄すぎたのだ。

 起承転結がまとめられた内容。しっかりとした主張。自らの目標や先輩教員方々への配慮。何よりもはっきりとした姿勢と声。

 まさに『完璧』。

 明音の後じゃあ、誰の演説も平凡に聞こえてしまうだろうな。

 現に明音の演説は微かながらも歓声も聴こえた拍手喝采。後からの人達は明音の足下にも及ばない月並みな拍手ばかり。

 勝負にすらならないほどの格の違いだ。

 先程の演説もありきたりすぎて欠伸をしてしまそうになったくらいだしな。


 ――――さて、と。

 次は俺だ。

 正直言って明音の後じゃ俺の演説は虫の呼吸以下に等しい。

 ならば短時間、二言三言で済ますことに決めている。

 紙は形式上手に持っているが、中身は真っ白だ。


「次に天乃君、中央のマイク台に来てくれ」


 声が聴こえ、はい、と特に動じた様子もなくマイク台へと足を進める。

 偶々学園長の横をすれ違った際に俺にしか聞こえないような声で「先程の失敗を取り消すような良い演説を頼むぞ」と言われ、心の中で「不可能です」と答えた。

 足を止め、中央、マイク台に立ち、正面を捉える。

 ――――光が眩しい。視線は右往左往俺を見ている人もいれば、興味を無くし他に気が向いている人もいるだろう。


 ――――好都合。


 誰にも見せないように何も書かれていない紙を広げ、マイクを口に近づける。

 ――――の前に音がしっかりと入っているか確認。軽く手で叩き、何か膨らむような音を耳に捉え、良し、と心の中で頷く。


「……新入生成績上位者十名の内、七席目をいただいた天乃征成です。今この場に立ててとても嬉しく思います。――――……俺からは、二言三言程度で終わらせていただきます」


 それくらいしか思い付かなかったのが、本音だけどな。


「……まぁ、何と言いますか、俺自身ここに立つことになるとは思いもしませんでした。確かにこの場に立てるということは、とても栄誉ある事なのだと思いますが、そうでもないと思います。……俺ですら七位取れたので、皆さんも取れます。研鑽を怠らずに、上を目指せるよう頑張ってください。以上、有難うございました」


 ――――まぁ、こんなものだろう。


 恙無く礼を終え、いつも通りに席に戻る。

 ――――何か、違和感を得たが、終わったのだしほっとこう。

学園長、不破 霧恵(ふわ きりえ)

様々な逸話ありな人物。

堅苦しいものが苦手なため、少しながら大胆な性格をしている。

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