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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第五話 斬風!血を吸う妖刀
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闇討ち

 大河内松平家隠密組の鷹阿弥たかあみに案内されて、剣客団は隅田川の河川敷へ向かい、鳶職に扮した天鬼てんきと合流。

 天鬼の指差す先に、焚火にあたり、大きな石に座って休息している『赤目の辻斬り』こと、雷音寺獅子丸がいた。

 繁みのなかから討手たちは怨敵を睨みつける。


 剣客団はすべて闇に紛れる暗褐色の袖無そでなし羽織に裁寸袴たっつけばかまをつけ、黒塗り笠をかぶり、口元を黒布で覆った者たちであった。

 総髪の武士が材木を寄せ集めたような筋肉質の武士に声をかけた。


「寺田氏……御家老さまは、ああ言われたが、ここはやはり、一刀流道場の同門である我らに花を譲ってはもらいまいか……」


「………………」


 内藤三樹四朗ないとうみきしろうがなりふりかまわず懇願した。せっかくの手柄をあげる機会を、寺田五郎右衛門に取られたくないのが本音だ。

 先に功績を上げる事が大事である。御前試合の敗北から二年、組太刀で腕をあげ、工夫を凝らしたという自負もあった。


「それがしからも、お願いいたします……悠之丞には借りがある。恩を返す前に身罷みまかってしまった……」


「俺もだ……是非たのむ、寺田氏……」


 二十代の森伝八郎と丹羽弥平、安藤主膳たちも頼みこんだ。

 彼等は失敗しくじりをして若殿……松平輝和に不興をこうむったが、伊吹悠之丞が取り成したのだ。

 そつのない悠之丞は機会ある度に、こうしてシンパを集めていたのだ。


 そして、単純明快な剣士である彼らは、悠之丞の恩返しの仇討も無論あった。が、今までにも密命を受けて、謀略・暗殺の密命をこなし、過分の褒美を受けとった。

 この度の上意討ちが上手くいけば、ろくむ下級武士にとっての『夢』である『加増』の手応えを感じていたのだ。


「……よかろう…………」


「おおっ! わかってくれたか……」


「かたじけない、寺田氏!」


 かくして、剣客団は赤目の辻斬りの前に踊り込んだ。怨敵はゆらりと立ち上がる。


「ほう……凄まじい剣気を感じたが、お主たちは?」


「貴様に斬られた者と同門の者だ……覚悟をせい!」


「ぐふふふふ……仇討ちか……面白い!」


 安藤主膳が雷音寺に正面から右八双で突進する。だが、雷音寺が大太刀を地摺りから逆袈裟にね上げた斬線が、安藤主膳を斬り裂いた。


 次に丹羽弥平が相手の腹部を目がけて突きに走る。

 だが、刀を撥ね飛ばされ、両手を肘のあたりから両断された。

 腕から血飛沫あげて砂利にのたうつ。


「りゃああああああっ!!」


 森伝八郎がその隙に雷音寺の背中を斬りつけた。

 が、突如、辻斬りの陣羽織の背中に開いた穴から青白い両腕が飛び出し、長く伸びた爪が森伝八郎を串刺しにした。

 そして、辻斬りは血の海でのたうつ丹羽弥平に、背中越しにトドメの一撃を送った。


「おのれ、化け物!!」


 内藤三樹四朗がすさまじい気合を発し、こめかみから鼻柱、鎖骨まで斬り割った。


「やった……やったぞ!!」


 会心の笑みを浮かべる内藤三樹四朗だが、その表情のまま強張った。肋骨の下あたりを横薙ぎに両断されたのだ。


「かはっ……俺は……功名と妬心としんに焦り……敵の力量を見誤った…………」


 内藤が血飛沫あげて二つになる。これがわずか数分の出来事であった。雷音寺獅子丸の傷口はすでに再生が始まっている。


「ぐふぅぅぅ……中々の猛者揃いであった……血汐丸も満足しよう……」


 妖刀血汐丸を胸前に捧げると、四人の斬殺死体から四筋の血の川が浮かび上がり、刀身に吸い込まれる。

 錆びがボロボロと落ち、ほとんどが新品の大太刀となっていた。


(おおっ……これは甘露……甘露……強者の血こそ、我が生命いのち!)


「これで、完全復活できるか、血汐丸?」


(むう……並の腕なら三人……上の腕ならば一人の血で復活できるぞっ!)


「あと、少し……ぐふふふふふ……」


 血の哄笑を浮かべる雷音寺。




 河川敷の繁みの奥で、鷹阿弥と天鬼は数分の殺戮劇を目撃して肝が冷えた。敵は妖魔化生の者だったのだ。


「……寺田さま、我らも助太刀を……」


「おおっ、鷹阿弥のいうとおり……魔性の者とて、甲賀流の秘術をつかえば足止めぐらい……」


「無用……おぬしたちは探索と監察が役目である。それがしが勝っても、負けても、生きて首尾を殿に報告するのが役目ぞ」


「そんな……負けるなどと……寺田さまらしくないお言葉……」


「剣の勝負は、技倆わざと駆け引き……そして、時の運。前の二つは鍛えることができるが、最後の運は鍛えることはできぬ……」


「……そういうものですか……」


「それに、斬っても元に戻る奴を斬らねばならぬのだからな……」


 木石ぼくせきのごとき寺田五郎右衛門が珍しく口の端をあげた。

 そして、絶句する忍び二名を残し、灌木をかきわけ、同輩の血を啜る魔道剣士の前に進み出た。



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