表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第五話 斬風!血を吸う妖刀
97/429

武蔵野妖刀伝

「金剛さん……妖刀『血汐丸ちしおまる』について、何かわかったのですか?」


「ああ……金剛が知り合いの鍛冶屋や研ぎ師に聞きまわって、やっとつかんだ……」


 小頭の松影伴内が金剛をうながした。

 金剛は尼寺・鳳空院の近くにある炭焼き小屋に住み、炭を売って生計たつきにしている寡黙な男である。

 が、実は天摩忍群の武器・忍具の製造・修理・開発を担当している。

 大きな手なのに、手先が器用で、針仕事や折り紙も得意である。


 炭焼き小屋は鍛冶かじ仕事をするためのカムフラージュである。一同は部屋で円陣となって座って、金剛の話を聞いた。


「はい、小頭……雷音寺の弟子の斬殺死体が見つかった廃神社は赤沼あかぬま神社といって、徳川家が江戸に幕府を開く以前、室町のころに建立された神社だ……」


「赤沼神社?」


 紅羽と黄蝶が神妙な顔で聞く。


「うむ……その神社は、もともと呪いの妖刀を封じるために建立されたのだという……」


「呪いの妖刀って、あの雷音寺がもつ血汐丸ね……」


「そうだ……そもそも、室町の頃、この江戸の地は太田道灌おおだたどうかんの支配する領地であった……」


「ドウカンって、道灌山と関係あるのですか?」


 黄蝶が口をはさんだ。

 鳳空院の近くにある道灌山には山菜や薬草を取りによく出かける小山だ。

 今日も午前中に黄蝶は紅羽・竜胆・秋芳尼と採取にいってきたばかりだ。


「ああ……あの山はその昔、太田道灌がとりでを造ったらしいので、そう呼ばれているそうだ。その大田道灌の配下に赤沼血汐丸という侍大将がいた……」


「えっ!!」


 大田道灌は江戸が武蔵国むさしのくにと呼ばれていた室町のころ、武蔵守護代の扇谷上杉おうぎがやつうえすぎ氏の家宰かさいである。

 また武将としても、学者としても優れ、江戸城を築いたことで名高い人物だ。


 道灌は『孫子』、『呉子』、『尉繚子』、『六韜』、『三略』、『司馬法』、『李衛公問対』などの武経七書といった兵法書を学び、新戦法である『足軽軍法』を考えだした。

 これは、当時の常識である騎馬武者を代表させて一騎打ちをさせることをやめて、足軽という歩兵を活用した集団戦法をつくった。

 これはそれまで従者や雑役夫として使っていた足軽あしがるを、訓練した常備軍として使う『足軽戦法』のルーツとされている。


 足軽は半農半士で低い身分であったが、足軽たちを率いた武将を足軽大将といい、中級武士という扱いとなった。

 赤沼血汐丸はそんな、足軽大将の身分から、弓大将、侍大将へと出世した。


「この赤沼血汐丸という侍大将は、陰謀と残酷で知られる侍大将でな……こんな話が残されている……」


 赤沼血汐丸の配下の組頭に弥平太という男があり、軍務違反で処罰されるところを、三人の罪人の首を斬ることで許すといった。

 弥平太はこれを承知し、白洲に引きすえられた、白布で顔を覆った男二人、女一人の首を見事斬り落した。

 弥平太に白布をとって、首を改めさせた。

 それは矢平太の妻と息子、実の弟であった。

 それを知った弥平太は愕然と膝をつき、慟哭した。

 これを赤沼血汐丸は嗤って酒の余興とした。

 弥平太は精神を病み、大川へ身を投げて自害した。


「なっ……なんて酷い奴なのよ……赤沼血汐丸……」


「残酷なのですよっ!!」


「ああ……そして、己の野望と保身にしか興味のない男でもあった……ゴホッ、ゴホゴホッ……」


 しんみりとした中、突然、金剛が咳こんだ。紅羽たちが只事でなないと、立ち上がった。


「どうしたんですか、金剛さん!!」


「あ……すまん……普段はこんなに喋らないので、痰がからまった……」


「「「ずんこけぇ~~~~~!!」」」


「お茶を用意するのですぅ~~~!」


 黄蝶が茶を入れて、金剛の喉も潤い、先を続けた。


 文明五(1473)年、家督争いにより長尾景春が謀反をおこし挙兵した。これを『長尾景春の乱』という。景春は従兄弟の太田道灌を謀反にさそったが、断った。


 しかし、赤沼血汐丸は主である道灌を裏切り、長尾景春についた。

 当初、形勢が有利であった長尾軍も先細りになり、赤沼血汐丸は屋形に閉じこもった。道灌は屋形に軍勢をおくり攻めた。

 突撃時に軍の後方から「あの者は殺すな!」と叫ぶ。


 謀反を起こした赤沼血汐丸とその部下たちは、それを聞きつけ、「ひょっとすると、自分だけは助けてくれるかもしれない」と考え、矛先が鈍ってしまい、赤沼家は全滅した。


 彼の首は故郷である向島の四ツ木村に首級みしるしが曝され、カラスの餌となった。


 大田道灌の知略のすべの一端を知れる逸話であるが、話はそれだけで終わらなかった。


 まず、赤沼血汐丸を討ち、彼の愛刀を褒美に与えられた武士が法要の帰りに馬ごと落雷を受けて死亡。

 その上司の侍大将で首級を道灌に捧げた侍大将が鷹狩りの最中、泥沼に沈みこみ溺死した。

 それ以来、四ツ木村と周辺の村だけが不作に悩まされるようになった。

 これは赤沼血汐丸の祟りだと民衆が騒ぎ出し、道灌は赤沼神社を建立し、遺体を埋葬しなおし、血汐丸の愛刀を奉納して祟りを沈めた。

 それでも室町の頃は大川の氾濫や飢饉、災害があるたびに「赤沼様の祟り」と恐れて、神社に奉納して祀った。


 しかし、時が経つにつれ、忘れ去られ、八幡神社の隆盛により、神社は廃れていった……


「忘れ去られた過去の怨霊が、奉納された愛刀に宿り、雷音寺獅子丸を魔道の怪物に変えたのでしょう……」


「ううむ……しかしなぜ、三百年も前の怨霊が今になって……」


 金剛の調べた伝説を聞いて、松影伴内は不審げにうなった。


「それよりも竜胆を怪我させた雷音寺に妖力を与えたことは許せないよ!」


「きっと、その妖刀を封じるか、壊せばいいのですよ!」


「黄蝶の言う通りだ。大昔の怨霊なんかに負けないぞっ!!」


 紅羽は決心を瞳に宿して気合をいれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ