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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第五話 斬風!血を吸う妖刀
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下手人召し捕ったり!

「では……下手人は……赤目の辻斬りはどこに……」


 客間は森閑しんかんと静まり、ゴクリと唾を呑む音が聞こえた。


「斬ったのは、赤目の辻斬りじゃねえ……下手人はお前だっ!!」


 町方同心・岸田修理亮の十手が指し示した相手は……秋田屋万兵衛であった。


「なっ……なにかの御冗談でしょう……なぜ、私が恋女房のお富を殺さねばならないのです!?」


「白々しいな、万兵衛。てめえ、押しかけ亭主の癖に、女房に隠れてよそにめかけをつくっていたな……町蔵が調べ上げたぜ!」


 岸田同心が錣引の町蔵をうながし、万兵衛に聞き込み結果を話しだす。


「へい、岸田の旦那の言う通りで……あっしの下っ引きが調べてきたぜ……

 お富と所帯を持った頃は仲が良かったが、商才のあるお富は次第に万兵衛を尻に敷くようになり、それが面白くねえお前は余所に妾を作った……

 相手の名は深川・松倉町の出会い茶屋の女中、お仙だ……それがばれて、数日前からお富と口論になっていたそうじゃねえか」


「ぐっ……たしかに妾をつくった……だが、だからといって、手前が殺しただなんて……

 第一、死体には血が吸われていてなかったのですよ。

 人間技ではない……やはり、『赤目の辻斬り』とかいう魔性の者の仕業でございますよ……」


「ふふふ……最近、巷で噂になった『赤目の辻斬り』と血のない死体という怪事件騒動……

 そいつを利用したんだろ。血のない死体か……そいつは、別に妖怪でなくても、別の場所で殺して、傷口から血をすべて流しとってから、空き地に運べばすむというカラクリさ……」


「あっ! なるほど……」


 半九郎が岸田の推理にうなずく。


「それで、昨夜、衝動的か計画的かはわからんが、お富を殺した……その後は、赤目の辻斬りの仕業に見せかけるために偽装したんだろうな……

 おそらく、実際に殺したのは秋田屋の屋敷内……風呂場で血抜きをしたんだろう……拭いきれねえ血の痕を見つけたぜ……」


 これを聞いて、秋田屋万兵衛はサ~~~ッと血の気が引いた。

 身をひるがえし、客間の障子しょうじを蹴破って、縁側から庭へ出る。

 岸田と松田がそれに続き、濃口をきって刃引き刀を抜いた。


「くっ……捕まってたまるかっ! 平内、出番だっ!!」


「……承知!」


 縁側に潜んでいた謎の影――油留木平内が刀を同心二人の前に躍り出て、斬りかかる。

 松田が抜刀して根元で受け、鍔迫り合いとなった。

 その間に、地が出て悪相になった万兵衛が庭の石灯籠に向かう。

 そのひさしをひねると、カラクリ仕掛けで側面の石に細長い蓋が開き、空洞が見えた。

 そこに手を入れ、凶器の太刀を取り出し、鞘を捨てる。


「それが凶器の刀か、万兵衛!」


「ああ、そうよ……くそぉぉ……

 おまえみたいな切れ者じゃなきゃ、ばれなかったはずなのに……

 でええええええええええいっ!!!」


 元用心棒の万兵衛は右八双の構えから猛然と突進し、打刀うちがたなを岸田の左肩めがけて叩き込む。


「岸兄っ!!」


 横目でチラリとみた新九郎が叫ぶ。

 が、すでに抜刀していた岸田修理亮は刃引き刀で、敵刃を弾き、たたらを踏んだ万兵衛の左足をすくった。


「ぎゃああああっ!!」


 岸田同心は派手に転んだ万兵衛の眼前に刀の切っ先を向けた。

 万兵衛の悲鳴に気を取られた油留木平内の隙をみて――瞬転、半九郎は後ろに下がり、峰で用心棒の胴を打った。

 苦鳴をあげて崩れ落ちる。


「町蔵っ!」


「へい、合点だ! 下手人召し捕ったり!」


 錣引の町蔵親分が手際よく万兵衛と平内を縛り上げる。

 万兵衛の隠した刀を調べると、刀身に血脂をぬぐった痕が見つかった。


「さすが、岸兄……よく、万兵衛のカラクリ狂言が分かりましたね……」


「なに……いつも江戸の悪党を相手に仕事をしているからな……

 こいつの嘘泣きでピンときたのよ……泣き方が芝居のように派手すぎんだよ……

 こいつは番屋へしょっ引くぞ……もしかしたら、『赤目の辻斬り』もこいつの仕業かもしれねえ……」


「とんでもない……手前は辻斬りだなんてことはしてません……」


「うるせい、とっとと歩きやがれ……」


 町蔵に小突かれ、しおれた万兵衛と平内が番屋へ連れていかれた。後学のため、番屋についていく半九郎。


「さすがは岸兄……カミソリのごとき推察だ。吟味ぎんみも良く見て勉強させてもらおう……」


 のちの話だが、番屋での取り調べと、町蔵たちの訊き込みにより、万兵衛と平内は辻斬り事件の夜は不在証明アリバイがあった。

 しかし、秋田屋の前主人・徳兵衛が生きていた頃から、万兵衛とお富は不義をはたらき、共謀して徳兵衛を急のやまいと見せかけ毒殺していた事を白状した。


「あっ、そうだ……紅羽たちに今回は偽の辻斬りだったと伝えねば……」


 裏の空き家へ足を向けた松田半九郎。

 その頃、紅羽たちは予想外の窮地に陥っていたとは、さしもの半九郎も神仏ならざる身で知らなかった……



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