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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第五話 斬風!血を吸う妖刀
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秋芳尼の法力

「おのれ、赤目の辻斬りめ……血に狂って、ついに一般庶民まで手にかけたか……許さん!」


「おいおい、半九郎……浅草御蔵前は町方の担当じゃぞ……ここは町奉行所にまかせようではないか……」


「何を役人根性まるだしの了見を……町方でも寺社方でも江戸の平和を守るのは同じはずです!」


「いや……差配違いというのがあってだな……それに、寺社廻りの途中だぞ……」


 熱血同心と事なかれ主義同心がもめている間、紅羽・竜胆・黄蝶は秋芳尼をまっすぐ見た。


「秋芳尼さま……ついに庶民が殺されてしまっては放ってはおけません!」


「この度の『赤目の辻斬り』が、人か魔物か、実際に調べてから判断してはいかがでしょうか……」


「黄蝶もお手伝いするのです!」


 その気迫をやんわりと受け止めた尼僧は、決然と言い放った。


「そうですね……魔物妖怪が無差別に庶民を襲うのであれば、放ってはおけません……

 ただし、人間の仕業とわかったら、町方にまかせて、手を引くのですよ……」


「はい、それはもちろん!」


 伴内・浅茅夫婦が「うんうん……」と頷いて見守っている。


「では、いつものように武具を出してください……破邪の霊力をこめましょう……」


「お願いします、秋芳尼さま!」


 秋芳尼は紅羽の刀、竜胆の薙刀、黄蝶の円月輪の刃先にたおやかな手をふせた。

 掌から淡く温かい光を放ち、武具を包み込む。

 聖なる〈神気〉が流れ込んでいく。

 通常武器を無効とする妖怪の本体、悪霊の霊体を、神秘の法力・霊力で加護した武器により、たおすことができるのだ。


 松田半九郎は、その不思議な法術の顕現けんげんをみて、魅せられた。


「秋芳尼殿……是非、俺にも法力の御加護をお願いします!」


「ええ~~~…いいよ、松田の旦那ぁ……妖怪退治はあたしたちの仕事だよ……旦那が斃したら、商売あがったりだよ……」


「そうそう、紅羽のいう通り、私たちにおまかせを……」


 紅羽と竜胆が新九郎をいなすが、熱血同心の心のうちは揺るがない。頭を下げ、平身低頭する勢いで頼みこむ。


「いや、そこを是非ぜひ……是非ともお願いいたします……」


「……まあ、いいでしょう……相手は危険な人斬りなのですから……妖魔化生が正体ならば、力になるはず……松田殿、刀を……」


「おおっ、ありがたい……」


 松田半九郎は鞘から長脇差を抜いて差しだした。

 刃引きの刀で、斬ることはできないが、打撃を与えることができる。

 これは捕物の場合、殺傷ではなく、捕縛するが目的だからだ。


 寺社役同心も町方同心も、普段は真剣の二本差しを所持しているが、お勤めや捕物のときだけ、刃引き長脇差しを所持する。


「おおっ……なんだか、仏法の加護で自分の体の中にも神秘の力が宿ったようです……」


 三女忍は、尊敬する秋芳尼が松田に優しい言葉をかけるのを、なんだか面白くない表情で眺めていた。


「ほほほ……この力は一両日中になれば消えますので、覚えておいてくださいね……」


「はいっ!!! では伯父上、御蔵前へ行ってまいります!」


 松田半九郎は伯父の返事もまたずに浅草・御蔵前へ向かって駆け出した。

 やけに心気充実しんきじゅうじつ意気軒昂いきけんこうの有り様である。


「だから、差配違いだというのに……ええい、もう……勝手にせい……」


「あたしたちも遅れてはならないわ!」


「そうじゃな……」


「待ってですぅぅ……」


 天摩流三人娘たちも遅れじとばかり、熱血同心を追いかけた。



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