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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第五話 斬風!血を吸う妖刀
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血のない死体

「目が赤く光るだなんて……『赤目の辻斬り』……尋常な者ではなさそうね……それに六尺といえば、雷音寺もそのくらいの背丈だったはず……」


「しかし……こういっては悪いが、目が光ったとは、目撃した老爺が恐怖と混乱のために見た幻覚かもしれぬのじゃぞ……」


「だとしたら、それは奉行所の仕事で、あたしたちの出番はないわね……でも、あるいは人に魔物が憑いているかもよ……

 雷音寺たちと喧嘩した侍か、あるいは行方不明の雷音寺獅子丸自身が魔物に取り憑かれたとか……」


「もしかしたら、妖怪が人間に化けているかもですよ!」


 竜胆が辻斬り人間説をとなえ、紅羽と黄蝶が魔物妖怪説をとなえた。


「その可能性もあるのう……いずれにせよ、四ツ木村から三囲神社へは三町(3km余)ほど、無関係ではあるまい」


「そして、下手人は四ツ木村から三囲神社……つまり南西へ……江戸の中心に向かっているということだね……」


「そうだ……向島、浅草、深川では代官所、町奉行所、我ら寺社奉行所、番屋の者たちが警戒しておる……

 こちらの谷中は遠いが、万が一のため夜中は出歩かないようにお願いします」


 松田半九郎が話に割り込み、秋芳尼たち鳳空院の者たちに注意を勧告した。


「それにしても……そんな事があったなんて、知りませんでしたわ……物騒なことです」


 秋芳尼が眉をひそめてお経を唱えた。


「しかも、この四人の死体には奇妙なことがあるのです……」


「まあ……奇妙とは?」


「四人の斬殺死体からは血液がほとんどない状態であったそうで……」


 これを聞いて、紅羽・竜胆・黄蝶が騒ぎ出した。


「血のない死体? それって……やっぱり、妖怪の仕業の可能性が高いよ……」


「先月も麻生の幽霊坂で血のない変死体事件があったのう……当初は辻斬りの仕業と思われたのじゃ……」


「結局、妖怪の仕業だったのですぅ……あれは怖かったのですぅ……」


 竜胆と黄蝶が先月中旬にあった事件を回想した。この事件については、「くノ一妖斬帖」第二話「妖刃!鎌鼬斬り」を参照されたし。


「今回もまた、辻斬り妖怪の仕業かもしれぬのう……」


「黄蝶たち妖怪退治人の出番なのです!」


「よっしゃ……辻斬り妖怪とは腕がなるわ……小頭、秋芳尼さま、ここは御下知ごげちを……」


「ふぅむ……坂口さま、赤目の辻斬りに対して懸賞金はかかったのですかな?」


「無論じゃ……このような怪事、妖怪の仕業に決まっておるでな……」


 茶屋主人で小頭の松影伴内が、寺社役同心・坂口宗右衛門に言質をとった。そして、みなが頭目である秋芳尼にふり向く。


「う~~~~~ん……」


「いかがされた、秋芳尼さま?」


 天摩忍群の頭目である秋芳尼は首をかしげて困惑顔であった。


「……辻斬りの下手人は今のところ、武士のみを襲っている模様……されば、妖怪と辻斬りは別件の可能性もあるはず……

 血のない仏は妖怪の仕業でしょう……ですが、それは辻斬りが殺害した後、近隣の妖怪が飢えを満たすために行っただけかもしれません。

 ならば、退治するほどのこともないでしょう……武家の争いにこの子たちを介入させるわけにはいきません……」


「秋芳尼さま……」


 尼僧が紅羽、竜胆、黄蝶を両手で包み込んだ。

 伴内も目を閉じて賛同している様子。

 半九郎が不思議に思い、小声で伯父にたずねた。


(伯父上……秋芳尼殿はなにか武家にたいして、いわくでもあるのですか?)


(ふむ……わしもよう知らんが、秋芳尼殿は武家や豪商といった権力者たちの依頼は受けんのじゃ……貧しい民たちにのみ、救いの手をさしのべるお方なんじゃ……)


(なるほど……その昔、腐敗した僧侶や武家に反発した一休禅師のような方なのですな……)


 秋芳尼はたおやかで柔和な外見に反して、意思の強い女性であるようだ。


 そこへ、門前町の方角から小太りの女性がやってきた。伴内の妻の浅茅あさじが買い物をした帰りである。


「あんたぁ……門前町で『赤目の辻斬り』という噂で持ちきりだよ!」


「わかっちょる……今、坂口さまから聞いたわい」


「あらま……では、浅草・御蔵前おくらまえで秋田屋のおかみさんが斬られたことも……」


「なんじゃとぉぉぉ!!!」


新元号は『令和』!


なれないけど、三ヶ月もたてば、なれると思う……


そして、エイプリルフールは今年は自粛ムード。

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