表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第五話 斬風!血を吸う妖刀
79/429

妖刀血汐丸

 ――血汐丸……だと……


(そうよ……人間ひと以上のな……拝殿の奥を見てみよ……)


 雷音寺獅子丸は縁にあがり、ガランとした中に入る。

 床が腐ってぬけおち、天井には雨漏りで腐った穴があちこちにある。その片隅に奉納品らしき桐の箱が見える。

 箱には御札がベタベタと貼ってあるが、風化して墨がかすれている。


(箱の御札をとって、中を覗いてみよ……)


 廻国武芸者はいわれるままに、御札をとって、中を見た。

 朽ちかけた鞘に収まった奉納刀が一本あった。

 普通の太刀たち打刀うちがたなではない、長さ五尺(約150cm)もある大太刀おおだちのようだが、そうとう古い代物だ。


 南北朝時代から戦乱が激しくなり、野戦では大型の刀を使うと有利なことから、大太刀が流行したのだ。

 刃肉がぶあつく、頑丈な作りである。

 ちなみに、三尺以上の大型の日本刀をすべて『大太刀』と呼び、戦場で使うべく作った大太刀を『野太刀』と呼ぶようだ。


(刀を手にれ……)


 雷音寺がすりきれた柄をにぎる。

 すると、金属にすぎないはずの太刀なのに、掌に脈動するものを感じた。ボロボロの鞘を抜くと、刀身は錆びだらけであった。

 だが、青白い陰火のように薄闇に光り輝きだした。


 ――これは……手から……なにか……強い力が入ってくるようだ……これが大いなる力なのか……


(余は妖刀・血汐丸……お前を天下一の武芸者にしてやろう……)


「おおっ……わしを天下一の武芸者にしてくれるのか……」


(そうよ……ただし、そのためにはそれ相応のにえが必要じゃ……強き者の血がな……)


「強き者の……血…………おう、なんだってやるぞ……だから、わしを天下一にしてくれ……」


(よし、うけたまわったぞ……魔道界の眷属となれ!)


 大太刀の柄から根のような針金が伸び、雷音寺の掌から腕に根をはっていく……

 痛みが快感へと変わっていく……

 そして、禍々しい妖力が彼の体内を駆け巡っていった。


 廃神社の本堂の中に入った師匠をうかがっていた、河馬山と五里は師匠が背中をむけ、物の怪に取り憑かれたように錆び刀を手にして、ブツブツと言っている様を見て、怖気おじけだった。


「おい、河馬山……師匠は何を独り言いっているのだ?」


「さあ……わからん……しかし、魔に取り憑かれたかのようだ……」


「まさか……やめろよ……」


 そのとき、雷音寺がふり向いた。薄闇に影法師のように立つ姿。

 その両眼が鬼灯ほおずきのようにあかく輝いていた……そして、鳥肌がたつほどの妖気があふれている。


「ぎええええっ!!」


「師匠ぉぉぉ~~~~!」


 巨漢ふたりが総毛立ち、抱き合って震える。

 師匠はいつの間にか、化生けしょうの者に憑かれてしまったのだ。


「ぐははははは……不肖の弟子たちよ……わが大望のための供儀くぎとなれ……」


 錆び刀をもった雷音寺獅子丸が鬼神のはやさで二人に駆け寄る。殺気にみちて別人のようだ。

 思わず、二人の弟子は雨の降る表に逃げ出した。

 それでも武芸者の端くれ、二人は武器をもって応戦する。


 世界が白く染まった。

 廃神社屋根に稲妻が落ち、閃光が闇を駆逐したのだ。遅れて轟音が大地を揺るがした。


「ぎぃやああああああああああっ!!」


 雷音寺が妖刀で弟子の打刀うちがたなね上げ、拝み打ちに左肩口から右腰まで斬り裂いた。

 血飛沫ちしぶきをあげ、唸り声をだして五里嵐十郎が風化した石燈籠に抱きつき、地へ崩れ落ちる。


「乱心してござるか師匠……」


 河馬山重蔵が首の無い狛犬の石像の影から飛び出し、師匠に愛用の四尺もある大木刀で打ちかかる。

 宮本武蔵の巌流島の決闘でも、船の櫂から作った大木刀が真剣に勝利した。重蔵が振れば真剣とて折れ飛ぶ。


 だが、雷音寺の大太刀であっさりと両断されてしまった。

 河馬山はそれを捨て、脇差わきざしで、なんとか血塗られた錆び刀を受け止めた。

 錆び刀の表面を見ると、血と脂が刀身表面にまるで吸い取られるように消滅した。

 そして、その部分が新品の刀のような光沢を得た。


「や……やややややや…………」


 錆び刀が河馬山の白刃を紙のように斬り裂き、肥満した武芸者の皮下脂肪ごと縦に切り割った。

 うつ伏せに飛沫をあげて水たまりに倒れた河馬山。傷口から大量の血がふきこぼれる。

 雷音寺が錆び刀――血汐丸を水平に傾ける。


「最初の強き者の贄だ……受け取れ、血汐丸!」


おうよ…………)


 二人の廻国修行者の傷口から流れ出る血が浮き上がり、二筋の血流の川となって、〈妖刀血汐丸〉の刀身目がけて吸い込まれていく……

 そのたびに、刀の錆びが落ち、刀身が青白く滑光ぬめひかっていく。


「ぐはっ……ぐはははははははははははははははっ!!」


 廃神社の境内で弟子殺しの狂剣士の哄笑が響きわたった。

 地獄の葬送曲のごとく稲妻が轟く。

 さきの落雷で廃神社が燃えだし、雷音寺を悪鬼のごとき形相にみせた。

 彼は六道に属さない魔物の棲む世界『魔道』界に堕ち、生きながら魔道の者となったのである……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ