雷音寺獅子丸
「これで二勝だ!」
「我が一刀流の勝利だっ!!」
中西道場の竹刀派・木刀派の門弟たちがいがみ合いを忘れて勝利に喜ぶ。
「いや、待たれい……すでにそちらの門弟二人を当方の剣士が倒している。すなわち、二勝二敗の引き分けでござる……次の仕合で雌雄をつけようではないか!!」
雷音寺が大音声で叫んだ。確かにさきに山崎と太田黒が河馬山と五里に倒されていた……
「なにを莫迦な……」
「屁理屈だっ!」
榎本鍋之助ら門下生たちが騒ぎ立てる。中西忠蔵がそれを押しとどめた。
「なるほど……たしかにそうである。では次の仕合で真の決着をつけようではないか」
「ぐははははは……話がはやいっ! 次はわしがいく!」
巨躯剛力で唐獅子のごとき面相の雷音寺が前に出た。
「では次は……」
「次は道場主殿を所望じゃ!」
中西忠蔵子武をさえぎって、雷音寺が叫んだ。道場内は一瞬、静まり返り、つぎの瞬間。怒気につつまれた。
「なにぃぃぃぃぃぃ……無礼にもほどがあるぞっ!」
「我らにはまだ七段、八段、師範代の強豪がおわすのだぞ!」
道場主はあごをしきりに撫で、ニヤニヤとしていた。やがて、口を開こうとした瞬間、
「大先生が出るまでもありませんよ……この程度のやつ……俺がかたづけます!」
三白眼をひからせ、松田半九郎が剣尖を雷音寺にむけて、道場の真ん中で宣言した。
雷音寺が右のこめかみをひくつかせ、ギロリと半九郎を睨みつける。満面が朱に染まり、赤獅子となった。
「この程度のやつ……だとぉぉぉぉぉぉ……抜かしたな若造! まずは貴様を血祭りにあげてやる!!」
「返り討ちがオチだ」
「きさまぁぁぁぁぁ~~~~!!」
堅物真面目な新九郎にしては、えらく挑発的な物言いだ。前回の黒駒一家との戦いでもそうだったが、きっと、火がつくと好戦的な人格になるのだろう。
「……やだぁぁ……素敵ですわ……半九郎さま……」
中西梢がうっとりとした表情で、熱い視線をおくった。隣に座っていた紅羽が呆れて梢を見る。
「う~~ん……たしかに台詞はカッコ良さげだけど、三白眼だから悪役にも見えるなあ……」
「なんですってぇぇぇ~~~~…」
梢が紅羽の襟首をつかみ、ブンブンと揺らす。
「ぐるじいぃ……梢殿……落ち着いて……」
「紅羽……お主はいつもひとこと多いぞ……」
竜胆が溜め息をついて額に手をあてる。一方、道場の中心では凄まじい剣気をはなち、二人の男が対峙していた。
「一刀流・松田半九郎だ」
「東軍流・雷音寺獅子丸であるっ!」
「ほう……強そうな名前だ……」
「ふふん、強いのは名前だけではないぞ」
「して、本名は?」
「高橋権左右衛門だ」
「……なんだ、俺と同じでありきたりな名前だな……」
「やかましいっ!!!」
「では、第三……いや、第五試合はじめっ!」




