表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第四話 対決!雷音寺一門
72/429

道場破り

「なんでえ、道場破りなんぞ、山崎と太田黒あたりが適当にあしらうだろう……」


 道場破りとは、腕に自信のある廻国兵法者が、他流の道場へ知り合いの紹介もなしでやってきて、他流試合を強要する者たちのことだ。

 道場破りは門弟、師範代、道場主などをすべて撃破すると、看板を破却、あるいは戦利品として強奪する。看板を取られた道場は廃業となる。


 そこで、道場側は金子きんすなどを支払って買い戻す。道場破りはこうやって旅の路銀にあてる者がいた。

 もっとも、世慣れた道場主は適わぬ相手と見たら、先に歓待して金子を払う者もある。


「それが……お二人とも……破れてしまいました……」

「なにぃぃ!? 二人とも五段の印可いんかだぞ……」


 中西道場の段位は一刀流の慣例で、小太刀・刃引はびきを手始めに、指南免許まで八段階ある。五段はそれなりに強い。


「それが……手もなく……」

「ふぅむ……最近にない手練てだれのようだな……」


 ちなみに門下生の榎本鍋之助は下谷御徒町出身の徒士かちであり、中西道場で六段の腕前だ。

 徒士とは、将軍の御成おなり(外出)のさい、徒歩で護衛をする七十俵五人扶持の下級幕臣である。

 いざという時に将軍を守るため、武芸に励む者が多い。


 ところで、下谷御徒町の一番の出世頭といえば、幕末から明治にかけて、新政府で海軍卿から大臣を歴任して活躍した、榎本武揚えのもとたけあきであろう。

 あいにく彼の先祖に榎本鍋之助という名前はないが、もしかしたら、親類縁者の先祖かもしれない。


 渡り廊下を中西忠蔵が先頭に、榎本鍋之介、松田半九郎が続いて早歩きについていく。さらに後ろに梢と紅羽、黄蝶、竜胆も続く。


「ちょっと、あなた達までついてくることないでしょ……猫探しはどうしたんですの?」


「いやあ……面白そうだから、見学しようかと……」


 猫探しが骨折り損で、気の抜けた黄蝶と竜胆も気分転換とばかりに見学をきめこんだ。


 中西道場の表にある広い板場の左右に門下生が並び、中西忠蔵が上手に座り、半九郎たちは右側の後ろに座った。入口近くに見かけない男が三人いた。これが道場破りだろう。


「おう、ようやっと、道場主のお出ましか……ぐはははははは……」


 身長六尺、眼光鋭く、獅子鼻に分厚い唇、乱れた蓬髪がびんにつながり、顎髭につながり、まるで唐獅子を思わせる容貌魁偉の壮年男が銅鑼声どらごえでいった。

 横柄な口調に、門下生たちが「無礼だぞ」と、息巻く。


「わしは東軍とうぐん流の兵法者・雷音寺らいおんじ、諸国を経廻る修行者である。

 竹刀稽古なんぞという惰弱なものを発明した道場に天誅をくわえるべく参上した。

 竹刀の登場で剣士は軟弱化した……武士は真剣か木刀のみ握るべし!」


「大先生にむかって、なんと無礼な口の訊き方だっ!!」


「我が雷音寺一門は諸国の田舎道場から江戸の有象無象の道場まで連戦連勝、破竹の勢いである。

 ちっとは歯ごたえのある相手を出せ」


「ええい、無礼者めっ!」


 師範代の片桐が大声を張り上げる。雷音寺の言い分は的を射ていない。竹刀の登場で低迷した剣術界を活性化した功績は大きい。

 だが、昔からの木刀派剣士たちには、二十年以上たった今でも気に喰わない者がいるのだ。


「まあ、待て……片桐。

 自流派でのみ試合をしておれば、今日の剣術界の発展はない。

 東軍流の雷音寺とやら、他流試合でおたがいの見識をひろめようではないか……」


いな、我等、雷音寺一門は竹刀を広めた諸悪の根源・中西道場に天誅をくわえるべくまかりこした。

 我らが勝ったら、看板を破壊し、薪としてくべる!」


「やれやれ……まあ、よいわ……改めて三本試合を行おう……

 そちらの三人と、こちらの精鋭を三人戦わせ、白黒つけようではないか!」


「おうっ! 話がはやいっ! わかりやすいっ! 了解したっ!」


 雷音寺一門から、大兵肥満の男が進み出た。


「東軍流・河馬山重蔵かばやまじゅうぞうである!」


 大兵肥満の三段腹で、目が小さく、口が大きく無精髭、名前のごとく動物園のカバのように剽軽ユーモラスで鈍重そうな外見だ。


「では、こちらは助っ人の紅羽……前に出ませいっ!」


「へっ、あたし!?」


 気を抜いて見学していた紅羽が己に人差し指をつきつけ、半信半疑だ。


「うむ、頼むよ……試合に勝ったら、天井修理代の三割まけてやるから……」


「よっしゃあぁぁぁ……やります、やりますっ!」


 茜色の羽織をたすき掛けにし、紅羽が前に進み出る。


「三割引きは大きいのじゃ……やったれ、紅羽!」


「紅羽ちゃんなら必勝まちがいなしなのですぅ!」


 竜胆と紅羽がやんややんやと、応援する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ