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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第四話 対決!雷音寺一門
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紅羽対梢

「どちらさまもよござんすか……丁半、駒札こまふだがそろいましたよ……」


 急に紅羽が空っぽになった汁碗をさかさまに膳にふせる。女壺振り師の真似のようだ。


「さあさあ……半か丁か……」

「半じゃ!」

「丁なのですぅ……って、あっ!!」


 竜胆と黄蝶が半九郎の顔をみて、三毛猫の丁吉を見較べた。梢がさぁ~~と血の気がうせる。


「ちょ、ちょっとあなた達!!」


 慌てる梢に、紅羽は両手をこまぬいて目を閉じ、訳知り顔をする。


「梢殿、いくらなんでも飼い猫に……」

「わわわわわのわぁぁぁぁぁ~~~~!!!」


 中西梢が真っ赤になって紅羽の口を押えた。当の半九郎は鈍感にも気がついていないようだ。


「だいたい、あなたは半九郎様の手下のくせに、無礼にもほどがありますわよぉ~~~~!!!」


「むっ! あたしたちは松田殿の手下ではないよ。仕事を依頼されて請け負っているだけだよ!」


「前から気になっていたのですけど、仕事ってなんですの!?」


「……ふふん、さいきん江戸で騒ぎをおこす妖怪や悪霊どもを、バッタバッタと倒してまわる……その名も妖怪退治屋の紅羽とは、あたしのことよ!」


「妖怪退治屋!?」


「そうよ、聞いて驚いたようね……」


「いえ……初耳ですわ」


 袖で口を押さえていた梢が、スンと冷めた目となる。


「ずんこけぇ~~~~~~~~!!」


「妖怪だなんて……そんなのいるわけないじゃない。わたくし、鳥山石燕とりやませきえんの妖怪画でしか見た事ありませんわっ!」


 鳥山石燕は浮世絵師で、このとき六十九歳。五年前に出した妖怪画集『画図百鬼夜行』が好評で、続々と妖怪絵を発表している。

 現在の日本人が思い描く妖怪は漫画家・水木しげるの描いた絵が元になっているが、水木の妖怪画は鳥山石燕の浮世絵をモチーフにしたものが多い。


「いや……梢殿……信じられぬかもしれませんが、妖怪は実在しているのですよ……人に仇名する凶悪な妖怪を、俺もこの目で見て、戦いました……」


「まあ……松田様も……では、信じましょう……」


「あっさり、信じるのか~~~い!!」


「ですけど……こんな年若い娘たちが妖怪退治人だなんて……それは何年も修行した僧侶や禰宜ねぎの仕事では? 疑わしいですわ……」


「なんですってぇ……少なくとも、梢殿よりは腕もたつわよ!」


「んまぁぁぁ~~~~… 私も中西忠蔵の娘、一刀流の手ほどきは受けましたわ……道場であなたの増上慢ぞうじょうまんの鼻をへし折ってみせますわっ!」


「受けてたとうじゃないの!!」


「お……おい……二人とも落ち着いて……先生、なんとか言ってください……」


「わははは……面白そうじゃねえか、半九郎。腹ごなしによい余興だ」


 松田半九郎はげんなりと肩を落とした。そこへ、ドタドタと道場から渡り廊下を走ってくる音がした。

 ふすまを開けて、顔色を変えた二十代の門下生・榎本鍋之助えのもとなべのすけが現れた。


「なんでえ、鍋之助……そんなに血相をかえて……」


「大先生、道場破りが現れました!!」



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