三毛猫丁吉
「く、曲者ぉぉ~~~~!!」
叫ぼうとする梢の口を半九郎が口を塞いだ。梢は真っ赤になって押し黙る。
中西忠蔵は槍を曲者三人に向けた。隙のない構えは、さすが一刀流中西派の総帥。
「お前たちは何者であるか?」
「「「ひええええええええっ~~~~~~!!!!」」」
「お待ちください、先生! この者たちは決して怪しい者たちではございません!!」
松田半九郎が槍穂の前に進み出て、土下座した。
「……むっ、半九郎の知り合いか?」
そして、三人が鳳空院の者であり、臨時内職で日本橋の絹物問屋・井筒屋のお内儀から三毛猫のお玉探しで、道場の天井裏に勝手に忍び込んだことを告白した。
「ほおお……これが噂の鳳空院の者たち……」
「はい、寺社奉行所で仕事を頼んでいる者たちでして、どうか……どうか、大目に見てやってくださいませ……」
「「「申しわけありませ~~~~ん!!!」」」
半九郎、紅羽、竜胆、黄蝶が土下座して謝った。
「まあ、半九郎の知り合いなら、矛をおさめよう……」
中西忠蔵が槍をおさめた。そして、破壊音を聞きつけ、何事かとやってきた中間や郎党に、「大工の源さんを呼ぶように」と指示する。
一同は客間に移動して話をつづけた。もう正午になったので、半九郎と紅羽、竜胆、黄蝶は昼食をご馳走になった。
当時はテーブルも卓袱台もなく、一人ずつ箱膳を台にして食べていた。
食事はご飯、みそ汁、漬物、という一汁一菜の素朴なものだったが、ありがたいものだ。
もともと日本人は一日二食であったが、江戸時代元禄以降に三食となったといわれている。
これは江戸中期以降にさまざまな産業が発達し、流通が盛んになったためだ。
そして、明暦の大火の復興計画で各地から大工・左官などが集まった。だが、一日二食では肉体労働者がもたない。
だが家に帰るのは面倒。そこで江戸のあちこちに屋台や飯屋ができたのが、日本人の一日三食の始まりだとする説がある。
「それにしても、天井板を壊したのに、食事までご馳走になって……中西先生、ありがとうございます!」
「いやいや、あとで修理代を鳳空院に請求するでな……よろしく」
「しょんなあ~~~~~!!! 小頭にまた叱られるぅぅ~~~…」
「それにしても、お玉を無事にみつけたはいいが、高くついたものじゃ……」
三人娘はがっくりと頭を垂れる。
「でも、お玉は傷ついてないですぅ~~」
「ちょっと、お待ちになって……その三毛猫はうちの飼い猫ですわよ……」
中西梢が割って入った。
「えっ、まさか……」
「第一、丁吉は珍しい牡猫ですし……」
「えええええええ~~~っ……」
「骨折り損どころか、借金が増えたとは……なんということじゃ……」
「小頭に叱られるぅぅ……」
三毛猫はほとんどがメスであり、ごく稀にオスが産まれる。その確率は三万匹に一匹の割合だから、かなり珍しい。
なので、オスの三毛猫を船に乗せると福を呼び、遭難しないという言い伝えがある。
江戸時代に高額で取引されたともいう。
縁起をかつぐ招き猫が三毛猫をモチーフにされることが多いのはそのためかもしれない。
黄蝶が三毛猫の丁吉を両手でかかげ上げ、確認した。
「確かにオスなのです、三毛猫のオスって、初めてみたのですぅ~~」
「黄蝶……繁々と検分するでない……」
たしかに猫相書きにある赤い首輪に金の鈴ではなく、組紐の首輪に『丁吉』と名札が書いてあった。
「この中西道場が江戸で一番になったのも、この丁吉のお陰ですのよ……ほほほほほ……」
「そりゃまた、すごい福猫だなあ……うちの尼寺にも欲しい……」
「招き三毛猫なのです!」
「いやいや、梢……一刀流中西道場は丁吉を飼う前からな……」
「いえいえ、御父上、さらに福を呼んだのは丁吉のお陰ですわ」
どうも、中西忠蔵は娘に甘いところがあるようだった。
「んんぅ? でも……『丁吉』って名前は……」
紅羽が眉をよせて腕をくんだ。




