天井裏の女忍
(おぉぉぉ……松田の旦那に好意をもっていそうな娘が登場したぞ。あたしの女の勘が当たったみたいね)
小躍りしそうな紅羽を、忌々しげに流し目を送る竜胆。
(ふむう……たしかに……じゃが、松田殿は気づいておらぬようじゃなあ……)
(それより、話題がそれて良かったのです。松田殿が天摩忍群をさぐりだしたら、厄介なのです!)
(おおっ、黄蝶のいうとおりだ……あたしたちは市井の妖怪退治屋ってことになっているからな……)
天井裏で紅羽たちは冷や汗をぬぐった。
「そういえば、忠太殿は道場ですか?」
「いえ、兄は所用があり、今日は留守でございます……」
梢の兄・中西忠太子啓は梢より一回り離れた二十七歳の若先生で、のちに中西道場三代目を継ぐ人物だ。半九郎とも親交がある。
「そうですか……話をしたかったですが、後日また……」
「ええ……ええ……いつでも道場へ寄ってくださいな。それより、この度は寺社役同心に就任おめでとうございます……」
「ありがとうございます、梢殿。なにせ江戸は久しぶりでして、いろいろと御教授ねがいます」
「まあ、御教授だなんて……そんな……」
「よかったな、梢。半九郎とはいつでも会え……痛っ!」
「まあ、御父上ったら、また腰痛ですか? 按摩を呼ばなくてはいけませんね。おほほほほ……」
ふたたび梢は袖の影で父の太腿をつねったが、半九郎は気づかない。
「痛うぅぅぅ…………でだな、半九郎。練丹法についてだが……」
「うえっ!! 話が戻ったぁぁ~~~!!!」
「こらっ、紅羽。声が大きい!」
竜胆が慌てて紅羽の口を塞ぐ。二人とももつれて、天井板を叩いてしまった。そして、梁の上から落ちそうになったが、黄蝶が竜胆の帯を引っ張って事なきをえた。
天井下では、半九郎・中西父娘が上を仰いでいた。半九郎には聞き覚えのある声で、額に冷や汗がながれる。さっき別れたばかりの妖怪退治屋の三人娘だ。
(な、なぜ……紅羽たちが中西道場の天井裏に……)
「なんでしょうか……人の声がしたような……物音も……もしや、泥棒では……」
「まさか……こんな白昼堂々と、当道場に盗人が忍び込むとはなあ……」
「いやいや! お二人とも、きっと猫ですよ……猫はときとして、人の声に似た感じで鳴きますしな……」
「にゃ、にゃあ~~~ん……」
黄蝶が機転をきかせて猫の鳴き真似をする。竜胆と紅羽が心の裡で拍手。
「なんじゃあ、猫か……わははは……」
「きっと、丁吉ですわね……ネズミを捕っているのかも……」
天井裏の三人娘と半九郎がほっと胸をなで下ろす。中西忠蔵は笑いながら立ち上がり、鴨居に飾ってある槍を手に取り、電光の速さで天井板を貫いた。天井に鈍く光る槍穂が突き上げられ、紅羽達は悲鳴をあげる。
「きゃああああああああ~~~…」
梁から落ちた三女忍が、天井板を破り、埃を巻き上げながら青畳に落下した。中西忠蔵・半九郎はもとより、梢も武芸のたしなみがあるようで、素早く壁際に避難した。
「ふぎゅうううう~~~~…」
紅羽を一番下に、竜胆が覆いかぶさり、黄蝶が三毛猫を両手にもって、チョコンと座っていた。
「二人とも……どいてぇぇ……アンコが出るぅぅぅ~~」




