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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第四話 対決!雷音寺一門
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人馬の術

 紅羽達は中西道場の横の脇道に入り、裏へ回った。人通りが少ないので、紅羽は黄蝶を肩車でのせ、塀から覗かせた。


「道場の屋根の上にお玉はいるか?」

「待つのです……屋根が反射してまぶしいのです……」


 右手をひさしにして、キョロキョロと探す黄蝶。


「それにしても、お主の女の勘はみごとに外れたな」

「むうぅぅ……まだ、はっきりと決まったわけじゃないだろ……」


 紅羽の横で竜胆が当てこする。


「あっ、向こうの奥の屋根で三毛猫が日向ぼっこ中なのです!」

「やっと、見つかったようじゃの……半九郎殿を通して、屋根に上がらせてもらうか?」

「まさか……あたし達は忍者だよ……忍者らしく、ちょちょいと忍び込んでとっつかまえようぜ!」


“忍者らしく”という言葉に黄蝶と竜胆も触発されて賛同した。忍者は普通、夜中に忍びこむものだ。このような白昼の死角を狙うとは、大胆不敵といえた。


「しかし、跳躍ちょうやく術をつかうには、高い塀じゃのう……」


 忍者の跳躍術は、高跳たかとび・幅跳び・横跳び・斜め跳び・前跳び・後ろ跳びをあわせて六法と称する。忍者は幼少の頃から、秘密の忍術修行場の一画一坪に麻の実を撒き、三年間この上を毎日跳び越える訓練をする。始めは楽だが、麻は成長が早いため難儀する。目標値は、幅跳びは三間(約5.4メートル)、高跳びは九尺(約270センチ)である。


「よし、人馬じんばの術をつかおう……黄蝶!」

「はいなのですっ!!!」


 黄蝶が紅羽の肩の上に立ち上がり、両手を紅羽の頭にそえ、姿勢を低くして身構える。紅羽がタタタッと塀に向かって走り込んだ。黄蝶はもっとも助走速度が上がり、塀との距離が最適のタイミングになった時点を判断し、思い切り跳躍した。クルリと回転して、塀の上の瓦に見事に着地。


 人馬の術は、二人の忍術者の呼吸があえば、かなり高く跳ぶことができる。人がいないのを見計らい、黄蝶が鉤縄を瓦にしっかりと固定し、縄を下に投げた。音もなく紅羽と竜胆は縄をつかって登攀とうはんした。これが数分の出来事である。


 この『人馬の術』は江戸時代に、軽業師の見世物として披露された。もしかしたら、泰平の世になって忍びの職を失い、軽業師となった者が伝えたのかもしれない。だが、盗賊がこの術を悪用するようになり、享保年間に幕府は人馬の術を禁止した。堅物の半九郎に見つかったら大目玉を喰らうだろう……


 三人は裏庭でまた人馬の術をつかって屋根にのぼった。瓦屋根で日向ぼっこをしている三毛猫にそろりそろりと黄蝶が近づいた。彼女の目の前をすずめが数羽飛んできて鳴いた。猫ははっと目が覚めて、雀を追いかける。小鳥は軒先にある雀穴に潜りこみ、猫もその中に入ってしまった。


「そんなぁぁぁ……」


 涙目でがっくりくる黄蝶。紅羽がその肩をポンと叩く。


「こうなりゃ、毒喰えば皿までだ……屋根裏へ忍び込もう!」

「そうですね!」

「おい……まさか……二人とも……」


 紅羽と黄蝶は苦無くない坪錐つぼきり・しころ(両刃のノコギリ)などで軒先の板をはがし取り、まず、黄蝶がスルリと屋根裏に忍び込んだ。続いて紅羽が潜りこむが、途中で止まる。


「うぅぅ……お尻がつかえた……竜胆……押して……」

「仕方ないのう……」


 竜胆が溜め息ついて両手で紅羽の臀部でんぶを押す。


「やだぁぁぁ~~竜胆、変なとこ押さないで……」


 急に乙女チックな声で、真っ赤になって抗議する紅羽に、竜胆がカチンときた。


「うっさいわ、尻デカ女っ!!」


 バシンッ!


「ふぎゅうぅぅ……」


 竜胆の回し蹴り一発で紅羽は侵入に成功。続いて、竜胆が潜りこむ。


「むぐうぅぅぅ……」

「どうした、竜胆!」

「胸が…つかえた……」

「嫌味か……高慢ちき女!」


 江戸時代の建築物は屋根裏が深いため、天井板の上に梁や桁が張り巡らせられ、広い空間があった。遠くに雀を追いかける三毛猫、三毛猫を追いかける黄蝶の姿が見えた。


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