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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第四話 対決!雷音寺一門
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黒蘭と女の勘

「へっ? みんなにも聞こえたのですか?」


 竜胆と紅羽が首をたてにふる。

 

「にゃはははは……そりゃそうさ……猫又ねこまただからね……人語もお手のもんでありんす……あちきは黒蘭くろらんてんだ、よろしくね……」


「私は黄蝶というのです」

 

 よく見れば、黒猫の尻尾の先が二股にわかれていた。長生きした猫は尾が二股になり、神通力をもつ妖怪になるといわれているのだ。 猫又の黒蘭がにゃあぁぁ~~んと鳴いて、普通の猫のように垣根へ消えた。


「さっそく、黒蘭の見たという道場を探すのです!」

「よっしゃ!」


 一行は三味線掘と反対の北側へ進む。宋対馬守の屋敷と御徒士組屋敷の間を通り、御徒士町を通り抜けていく。


「なんだ……お前たちは妖怪退治人ではないか? そこで何をしている……」


 突然、通りの脇道から男の声がした。紅羽たちがふり向くと、そこに顔見知りの寺社役同心・松田半九郎まつだはんくろうがいた。十九歳にして中西一刀流の遣い手である。黒羽二重の着流しをきて、風呂敷包をもっている。


「あっ……三白眼の旦那ぁ!?」

「三白眼はよけいだっ!」

「あいたっ(しまった)……つい……ごめんちゃ……ゆるしちくり~~」

「紅羽が失礼いたしました……松田殿は下谷の寺社廻りの途中ですか?」

「うむ……いや、違う……私用で知り合いに会いにいくところだ……」


 真面目・堅物・朴念仁で、物事をはっきりいう気質の松田半九郎にしては、浮かない顔で、ごにょごにょと珍しく口が重い。

 

「前のボサボサ頭とちがって、月代さかやきを剃ってツルツルなのです」

「もう、諸国修行は終わり、正式に寺社役同心になったからな……」


 彼は丹後田辺藩藩主にして、寺社奉行の牧野惟成まきのこれしげの家臣である。寺社奉行は一万石以上の譜代大名職とされ、寺社行政をおこなうのは大名の家臣である。


 このたび、中西一刀流の腕をみこまれて国表から召し出され、寺社役同心になったのだ。彼の仕事は寺社領内でおきる不正を調べ、犯罪者の捕縛なども行う。そして、修験者や陰陽師、紅羽たち妖怪退治屋の管理もしていた。


「それは祝着至極に存じます」

「うむ、ありがとう……では、俺は先を急ぐので、これで失礼する……」


 急ぎ足で立ち去る若い寺社役同心を、三人娘はあっけにとられて見送った。


「うぅ~~ん……松田の旦那にしては、何だか怪しい挙動だったなあ……」

「確かにのう……」

「さてはこれか?」


 紅羽が小指をたてて、頬によせる。

 

「まさかそんな……」

「むっ、あたしの女の勘を信じないの? きっと、思いを寄せる女に会いにいったのよ……」

「なにが女の勘だ……そういうのは酸いも甘いもかみしめた、経験豊富な大人の女の台詞じゃ……お主はまだ、おっちょこちょいの小娘でないか……」

「誰がおっちょこちょいだっ! あたしの女の勘を信じないのかっ!?」


 紅羽と竜胆がまたも喧嘩腰でにらみあった。


「そんな事よりも、三毛猫の玉を探すのですよっ!!」

「そうだったのう、黄蝶……下谷の道場とやらを探そう……」

「いや、あたしは松田の旦那のあとを尾行するよ……忍びの腕がなるっちゃ……」

「猫のように気まぐれな女じゃのう……黄蝶、紅羽をおいて行こう……」

「はいなのです!」


 かくて紅羽は松田半九郎を尾行し、黄蝶と竜胆は三毛猫のいた道場探しに、二手にわかれた。紅羽は天水桶てんすいおけ常夜燈じょうやとうの物影に隠れながらつけていく。

 半九郎が通りをでて角を曲がった。すると、急に屋敷の塀が立派で特徴的になったことに気がついた。


「これは練塀ねりべいね……」


 紅羽が瓦をなでる。練塀とは瓦と土を交互にのせた土塀だ。この辺りは武家地であり、南北にわたって立派な練塀があったことから、下谷練塀町したやねりべいちょうという。

 現在は千代田区神田であるが、江戸時代は下谷とされていた。ここには茶坊主の河内山宋春の住んだ家がある。


 松田半九郎は迷いもせず、大きな屋敷の門をくぐった。男達の威勢のよい掛け声と竹刀木刀を打つ音が聞こえた。


「えっ、剣術道場? と、いうことは……」

「紅羽ちゃん!」


 男装剣士がふり向くと、さっき別れたばかりの黄蝶と竜胆がいた。気まずさと可笑おかしさがこみあげてくる。


「なんじゃ……目的地は同じようじゃのう……」

「むふう……そうのようね……」


 三人が道場の看板を見上げると、墨痕淋漓ぼっこんりんりとした書体で、『中西道場』と書かれていた。


「ほへぇぇ……これが今、江戸で有名な中西道場かぁ……」



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