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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第四話 対決!雷音寺一門
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妖怪五体面!

 赤く染まった夕暮れの駒込こまごみ(現在の東京都文京区)の東北の山林の坂道を、菅笠や手拭てぬぐいをかぶり、野良着をきた百姓たちがのぼっていた。空の野菜籠やさいかごをつんだ大八車をひく女と後ろから荷台を押す女二人である。


 駒込は大名の下屋敷などの武家地が多いが、東北部は田畑が広がり、神社仏閣が多い緑地であった。ちなみに江戸時代は駒込を「こまごめ」ではなく「こまごみ」と呼んでいた。駒込の歴史は古くからあり、旧石器時代から縄文時代の遺跡ある。駒込の名は、古代の日本武尊やまとたけるが東夷征伐のとき、この周辺から千頭以上の軍馬(駒)を集めて眺め、「駒込みたり」と唱えたから、駒込こまごみになったという説がある。


「野菜が売れて良かっただなあ……」

「まったくだぁ。売れ残ったら持って帰らないといけんからなあ……」

「ほんに、ほんに……やっぱり駒込のナスは人気があって、すぐ売れただよぉ~~」


 ここは吉祥寺きちじょうじの裏手にある山林や田畑の広がる百姓地だ。彼女達は高林寺こうりんじの門前にある土物店つちものだなで野菜を売った帰りのようだ。


『土物店』という名前は、人参にんじん牛蒡ごぼう里芋さといもなどの土がついたままの根野菜を売っていたからだ。江戸市中の野菜の市場はこの駒込と、神田・千住が江戸の三大市場と呼ばれる。特に駒込の茄子なすはすぐれていて、人気が高く、初夢で名高い「一富士、二鷹、三茄子」とは、この駒込のナスだという説がある。それは徳川家康が駒込で鷹狩りをした鷹匠屋敷があり、そこで食べたナスが好物であったからだというものだ。


 三人が大八車を押して坂道をのんびりと通る。赤い夕陽が周囲の景色を緋色に染め、不気味な気がする。


「なんだか急に、寒気がしてきたべえ……」

「まだ、五月だけども、日暮だと冷えるべなあ……」

「そうえいば、最近このあたりで妖怪変化が出るという噂だよぉ……」

「ひえええっ……脅かさないでおくれよぉぉ……」


 行く手の先、脇道の入り口の地面に、長い影がのびてきた。誰かが脇から出てくるのであろう。異様に大きな影である。三人の農民はゴクリと唾を呑んだ。


「いきなり、ごたいめ~~ん!」


 突如、野太い声とともに、巨大な顔が塀の隣から出現。長い影の本体は物の怪だったのだ。大きな目に胡坐あぐらをかいた鼻、月代さかやきをそった町人髷ちょうにんまげに丸い顔という、本来ならば剽軽ユーモラスな顔だが、その大きさが違う。頭頂から顎まで二丈(6メートル)はあろう。大頭にずんぐりした手足がついている妖怪『五体面ごたいめん』だ。こんなものに夜道で出会ったら子供は夜泣きするだろう。


「あんれまあ~~~!」

「どうすっぺ、妖怪だべ!」

「誰かぁぁ~~命だけはお助けをぉぉ……」


 悲鳴をあげ、腰を抜かす百姓たちに大顔妖怪は喜色満面、がに股の足で、ボンボンと体を上下に跳ねて、得意気だ。


「ぐふふふふふ……ごたいめ~~ん!」

「……って、御対面ごたいめんと五体面をかけたダジャレかよ!」

「くだらないダジャレなのです」

駄洒落だじゃれはともかく、人を驚かして野菜を盗むのは許せんことじゃ……」


 腰を抜かしていた百姓女たちが立ち上がって、さきほどと打って変わって冷たい批評をしてきた。


「ご? ……たいめ~~ん?」


 急に態度が変わった農民の女たちに驚く巨顔妖怪五体面。訝しげな視線を百姓女にむけた。


「いたずら騒ぎも今日が最後よ、妖怪五体面!」


 三人の百姓女は菅笠と野良着を投げ捨てた。その下から紫紺の忍び装束を着た三人の娘が現れた。太刀、薙刀、円月輪をもって見得みえを切る。


「お前たちは誰だめ~~ん」

「知らざあ、いってきかせましょう! あたしたちは妖怪退治屋よ!!」


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