あとがき
「くノ一妖斬帖 邪眼!百の目をもつ通り魔」を読んでいただいてありがとうございます。
今回はメイン登場人物の寺社同心、松田半九郎と坂口宗右衛門が登場しました。ちなみに、寺社奉行所が妖怪退治屋を管轄していたというのは、本作でのフィクションであり、史実ではありません。
最初、寺社奉行は架空の松永伊予守というのを考えていたのですが、実在の人物・牧野惟成にしました。どうも時代小説は足がかりがないと書きにくいところがあります。
そして、よもぎもちさんに紅羽・竜胆・黄蝶の絵を描いていただきました。曖昧なイメージが具現化されて、書いていて、次々とイメージとアイディアが湧きましたね。
つくづく私は自分の作ったキャラクターが好きで、せっかくだからもっと活躍させたいというのが、執筆のモチベーションなのだと再確認しました。でも、もっと読み手さんを楽しませる事に比重をおいたエンタメ小説を書かないとなあ……とも思います。
さて、今回登場した妖怪は百目媛と百目丸ですが、作中である通り、藤原秀郷が出会った妖怪・百目鬼を元にしています。
栃木県宇都宮では今でも百目鬼祭があり、夕顔の表皮を加工したユーモラスな百目鬼面という玩具が魔除けの面として作られているんですよ。
妖怪の浮世絵師として有名な烏山石燕はこれを元に「百々目鬼」という女の妖怪を創作していますね。
でも、元々のイメージとしては、水木しげる先生の漫画や妖怪図鑑に登場する妖怪・百目です。
水木しげる先生の「悪魔くん」は単行本で「貸本版」、「週刊少年マガジン版」、「月刊少年ジャンプ版」を読んだことがあるのですが、なかでも実写ドラマ第一話「妖怪ガンマー」に登場した妖怪ガンマーこと百目と、「少年マガジン版」に登場した百目親子が印象深いですね。
以前、朝の連続ドラマ小説の「ゲゲゲの女房」を見たとき、実写ドラマ版「悪魔くん」の第一話冒頭が少しだけ映り、全話見てみたいと思っていたのですが、その後、東映特撮YOUTUBEで全話が配信されて、視聴することができました。
アニメ版「悪魔くん」はYOUTUBEで第一話が配信されていますが、こちらも全話見てみたいものです。
妖怪百目は日本の民間伝承がないので、長い間水木先生のオリジナル妖怪だと思われていたのですが、最近になって、元にした絵が「日本のユーモア」(ネットー&ワグネル共著)に紹介された「百目」がモデルとなったようですね。その絵の出典は葛飾北斎の弟子の絵師が手本用に書いた百々目鬼という妖怪の絵と考えられています。
水木先生もインタビューで、実写ドラマに登場する妖怪として、昔の浮世絵から第一話の百目を、貸本から化烏を作ったと答えているのです。
それから作中の百目鬼姉弟の百目丸の元ネタはラブクラフトの「ダンウィッチの怪」の登場する異次元の怪物がモデルです。
昔から、この異次元の怪物が百目に似ているなあ……というのがアイディアの元でした。アイディアとは、星新一先生によると、異質なものを組み合わせるものだと。
水木しげる先生も「ダンウィッチの怪」を、日本を舞台に翻案した「地底の足音」という漫画を描かれています。
「水木しげる 魍魎 貸本・短編名作選 地獄・地底の足音」(ホーム社)などに掲載されていますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。
それと、「ダンウィッチの怪」ネタは「ゲゲゲの鬼太郎」の「朝鮮魔法」のぬっへほっふでも使われたネタでもあります。




