百目館の怪
「八郎兵衛さん、熊吉さん……百目媛はどこへ行ったかわかるかい?」
「へい、百目媛は傷だらけで奥座敷の間へ……あの傷はあなた達がつけたんで?」
「ええ、あたしは妖怪退治人の紅羽!」
「黄蝶なのです!」
「……竜胆じゃ。お主たち、案内してくれんか?」
「うひょぉぉぉ~~、カワイコちゃんの頼みじゃ断れねえぜ、オイラについきなっ!」
「大声出すんじゃねえよ、熊吉……」
八郎兵衛が熊吉の頭をひっぱたく。
「……すまねえ……八っつあん……紅羽さんたち……こちらでござぁ~~い……」
小声で熊吉が妖怪退治人たちを案内する。
「ところで、八郎兵衛さん。この館にはほかに妖怪はいるのかのう……」
「へい……百目媛の弟で百目丸というのが一人いるんで……」
「百目丸か……そやつはやはり身の丈十尺の大鬼なのか?」
「いやそれが……あっしらも姿をくわしく見たことはないんですが、物凄く大きな化物らしいんですよ……」
「どのくらいじゃ?」
「そうですねえ……この三階建ての館の奥座敷は吹き抜けで、天井まで届くくらいあるらしいんです……そうですねえ、高さは三丈(約9メートル)、縦横五丈(約15メートル)はありそうですねえ……」
「そんなに大きいのか!」
「でかすぎです!」
紅羽と黄蝶が驚いて割って入る。
「しかし、大きさはわかるが、姿を見た事がないというのは、いったいなぜじゃ?」
「それが恐ろしいことに百目丸の姿は幽霊みたいに見えないんだよ!」
熊吉が青ざめた顔で割って入った。
「なぬ……見えないとな……」
「百目媛が言ってたんですが、百目鬼一族は鬼の仲間のなかでも異形の種族だそうで、弟の百目丸はその百目鬼一族のなかでも異形中の異形の存在だとか……」
「なぜ、百目媛の助っ人にこなかったのじゃろう?」
「それがですねえ……今は脱皮中だそうで、年に六回、二十日ほどかけて脱皮し、大きくなっていくそうで……」
「まるで、蛇か蜥蜴のような生態じゃのう……」
頤に細指をそえる竜胆。そこへ、熊吉が感心したように相棒の八郎兵衛を見る。
「へえ~~、詳しいなあ、八っつあん」
「お前もあっしと一緒に聞いていただろうが!」
「いやぁ~~、オイラは自慢じゃねえが、難しいことは覚えられなくてねえ……エヘンっ!」
「自慢することかいっ!」
八郎兵衛と熊吉のやり取りに、思わず噴き出してしまう天摩忍群のくノ一達。
だが、改めて顔を見合わせた。透明な巨大妖怪・百目丸とはいったいどんな強敵なのか……




