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くノ一大勝利!!

 紅羽が太刀から火焔弾を、竜胆から薙刀から凍結波を、黄蝶が円月輪から斬風破を巨大妖怪に集中攻撃した。

 が、ヤドカリ妖怪は体を巻貝の内部に引っ込め、左の大鋏おおばさみふたをした。


 左のハサミだけ不自然に大きいが、これは中に籠ったときにふたにするためである。

 夜道怪の貝殻かいがらは神気忍法による攻撃をすべてはね返す。


 貝殻とは、貝が分泌する硬組織であり、生体鉱物である。

 ヤドカリ妖怪は内部に隠れることで全身をよろいにして守護できるのだ。


「ぴえん……全然効かないのですぅ!!」


「ぬうぅ……我らの技が効かぬのとは……」


「なんて硬い貝殻かいがらだっ!!」


「やはははは……わしの貝殻は妖怪の中でも上位の装甲をほこるわい……貴様らの半端はんぱな技など効かぬ……今度はこっちの番だ……」


 ヤドカリ妖怪は体を大きな巻貝の中に引っ込めた。

 自然界の芸術ともういうべき対数螺旋たいすうらせんで形成された甲殻が、ゴロンと逆さに転がり、円錐の頂点が地面に刺さった。

 すると、ドリルのように高速回転を始め、土砂を巻き上げ、地面に没していく。


「しまった……地中に隠れやがった!!」


 動揺する三人の妖霊退治人。


「くそぉぉ……どこに行った……」


 三女忍が周囲を見回し気配をさぐる。

 黄蝶の背後に土砂が巻きあがり、巨大なハサミが黄蝶の胴を両断すべく迫る。


「危ない!!」


 竜胆が黄蝶を抱き寄せ、宙高く飛び、紅羽も続く。

 黄蝶のいた空間をハサミが空しく切断。


「ぴええええっ!! 竜胆ちゃん、ありがとうなのですぅ」


「なあに、よいのじゃ!」


「お返しだぁ!! 天摩流火術・火鼠!!」


 紅羽が太刀から火焔弾を放つが、巨大鋏は地面に潜りこみ、炎が空しく大地を焼く。

 三人が大地に着地した瞬間、竜胆の背後から巨大鋏が突きだした。


「おのれっ!!」


 竜胆が薙刀を地面から出たハサミに向かって薙ぎ払う。が、素早くハサミは土中に潜った。


「ええい……忌々(うまいま)しい……モグラのような奴じゃ……」


「どうするですか!?」


「しっ! ……地中を移動する振動音をさぐり、次に出て来る場所を突き止めるのじゃ!!」


「なるほど、黄蝶、おしゃべりは厳禁だぞ!!」


「ふわぃ、なのですぅ……」


 しばらくじっとして、耳を澄ませる三女忍。

 鍛えられた忍者耳は、遠くで落ちる針の音さえ捉えることができるのだ。

 三忍娘の耳が、土中を掘り進む擦過音さっかおんを感知した。


「そこだ!!」


 三女忍がいっせいに宙に跳躍。彼女たちのいた地点、その真下の土が盛り上がり、円錐状の小島のような巻貝が出現。


「出たのでぅぅぅ!!」


「ヤドカリの壺焼きにしてやるよ……天摩流火術・鬼火矢!!」


 紅羽の太刀から炎の弓矢が連続して夜道怪の巻貝に命中。

 貝殻が赤く灼熱する。


「ぐああぁぁぁ……熱いぃぃ……だが、わしの貝殻は鉄壁の防御……これぐらい屁でもないわ!!」


「くっ……なんて頑丈な貝殻だ!!」


 紅羽がくやしげに奥歯をかむ。


「ならば、これはどうじゃ……天摩流氷術・吹雪!!」


 竜胆がふるった薙刀から寒波が生じ、雪の結晶とともに貝殻に吹きつけられた。


「やはははは……今度は涼しくていいわい……莫迦な奴らよ……」


 高笑いする夜道怪であるが、自慢の貝殻にひび割れが生じた。


「ややややや……わしの鉄壁の貝殻にヒビが……なぜ!?」


「ふっ……冬の冷たい茶碗に熱い熱湯をそそぐと割れてしまうことがある……急激な温度差が貝殻を破損させたのじゃ!!」


「なにぃぃぃ!?」


 硬い殻を火焔で熱し、吹雪で急激に冷やす。

 急激な加熱と冷却により物体内に急激な温度変化が発生。

 それに伴う衝撃的な熱応力によって甲殻が破壊されたのだ。


「おおっ!! すごいのですぅ……さすが竜胆ちゃんは物知りなのですぅ!!」


「感心してないで、黄蝶が仕上げをするのじゃ!」


「はいなのですぅ!! 天摩流風術・鎌鼬かまいたち!!」


 黄蝶が両手に握った円月輪を打ち振るうと、手前に真空が生じ、三日月型の真空刃となって、貝殻のひび割れに命中した。

 甲殻がめきめきと破損し、割れ飛んだ。


「ぐああああああっ!! わしの自慢の我が家がぁぁぁ!!」


 貝殻のないヤドカリの頭体部が空気にさらされた。

 前にある第一対のハサミ脚は強靭な武器で、第二、三対の脚は歩くため、そして第四、五対の脚は貝殻を支えるために短い。

 そして、腹部は長くやわらかく、巻貝に合わせて螺旋状になっている。


 つまり、ヤドカリは全面に鎧を着ているが、貝殻におおわれた腹はむき身でやわらかく、弱点であるのだ。


 貝殻を壊された衝撃で立ち往生するヤドカリ妖怪が気配を感じて振り向くと、剣客忍者と巫女忍者が宙に跳躍していた。


「これでしまいよ……天摩流火術奥義・朱雀落とし!!」


 紅羽が赤く輝く太刀を、左八相から袈裟斬りに打ち下ろした。


「天摩流氷術奥義・青龍斬り!!」


 竜胆が青く輝く薙刀を、右八相から逆袈裟斬りに薙いだ。


「ぐぎゃあああああああっ!?」


 夜道怪の全身が斜め十字に亀裂が入り、黒焦げになり、灰塵と化した。


「二人とも、やったのですぅぅ!!」


「ほほほほほ……三人とも、無事に妖怪退治をやり遂げましたね……」


「秋芳尼さまっ!!!」


 三人がふり向くと、天摩忍群の頭目である秋芳尼がいた。

 墨染めの法衣に袈裟、白い尼頭巾からのぞく顔は、たぐいまれなき美麗な面立ちで、春風のように温かい笑顔である。

 夜道怪の背負い袋を両手に持ち上げ、


 黒い法衣に白い尼頭巾をかぶった、若い尼僧が顔を見せた。

 左の目尻にホクロがあり、背が高く細身だが、胸部と臀部は豊満である。

 谷中・鳳空院の住持で、実は妖怪悪霊退治をおこなう天摩忍群頭目の秋芳尼である。


 通りかかる人々が、はっと仰ぎ見る、たぐいまれなる縹緻きりょうの持ち主であった。

 そして巨大ヤドカリが潜んでいた風呂敷の袋を持ち上げた。


「どうやら、この中に大勢の人々が閉じ込められているようですね……」


 中を開いてみると、暗黒の宇宙のごとき深淵がひろがっていた。見ているだけで中に吸い込まれそうな魔力がある。


「秋芳尼さま、ここに宿場町の人々が吸い込んだといっていたのですよ!!」


「どうやら、妖術で別の空間に閉じ込められたようですね……いわば、結界の中に閉じ込められたようなもの……わたくしが術を解除しましょう」


「おおっ!! さすが秋芳尼さま!!」


 紅羽と黄蝶が両手を合わせて喝采する。

 秋芳尼は金剛軍荼利明王の真言を唱え、全集中をし、臍下丹田に蓄えた神気を解放。


「オ~~~ン、笑声金剛よ、はらいたまえ、きよめたまえ……」


 秋芳尼が数珠をじゃらじゃらと鳴らし、妖術結界をかけられた風呂敷包みに神気を放つ。


「天摩流法術・結界解呪!!」


 背負い袋が光り輝き、袋がもごもごと蠕動し、口が開かれると、中から次々と人魂のような発光体が飛び出してきた。

 それらは地上にでると、次々と人型になっていった。


「やややややや!? 外に出たぞぉぉ、おすな!?」


「本当だね、お前さん!?」


 金貸し夫婦が狐につままれた顔で周囲をキョロキョロ見ると、周囲の発光体も次々と宿場町の住人や旅人に姿を変えていった。


「あれぇ……おいら、どうしてこんなところに……」


「はて……旅籠で宿帳をつけていたはずだが……」


「あんれま……飯の支度をしていたのに、なんでこんなところに!?」


 ニ百人以上の人々が暮れなずむ街道に湧きだし、喧噪けんそうにつつまれていった。


「おおっ!! さすが、秋芳尼さま!!」


「これで、宿場町も元に戻りましょう……」


 恐ろしい妖術をつかう妖怪を不思議な術をつかって倒した娘たち……はたして彼女たちは何者なのか?



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