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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第三話 邪眼!百の目をもつ通り魔
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くノ一絶体絶命!

「ところで、百目鬼どうめき一族といったな……聞き覚えがあるぞ……」


「知っているのですか、竜胆ちゃん!」


「うむっ……その昔、藤原秀郷ふじはらのひでさと――別名・たわらの(田原)藤太とうたが出会った鬼の名前じゃ……」


「えっ、藤原秀郷って、あの平将門たいらのまさかどを倒した武将か?」


「俵藤太といえば、三上山の大百足おおむかで退治で有名なのです!」


 藤原秀郷――別名・俵藤太は、平安時代中期、平将門軍との戦いに勝利し、褒美に下野国しもつけのくに(栃木県)の国司こくしとなった。


 宇都宮に館を築き、ある日、その近辺で狩りをしていた。その帰り道、大曾の里で老人が現れた。「このさき兎田という馬捨場に百の目をもつ鬼が現れる」と、教える。


 藤原秀郷が彼の地に向かい、丑三つ時になると、雲が巻き起こり、全身に刃のような毛を生やした身の丈十尺(3メートル)の鬼が現れ、馬捨場の馬の死肉を食べはじめた。その巨鬼は両手に百の目を光らせていたという。


「……そうじゃ、にっくき藤原秀郷め……わらわはその百目鬼の末裔じゃ。人間どもの目玉を集めて妖力を高め、この坂東ばんどう(関東)の地を鬼一族の支配下にしてくれるわえ……」


「徳川家にかわって坂東の地を支配して、何をしようっての?」


「……人肉は馬肉よりも美味いでのう……人は鬼一族の家畜として飼育してやるのだえ……」


 百目媛ひゃくめひめが舌なめずりして、恍惚の表情をうかべる。


「ぴええええええっ……とんでもない事を言っているのです!」


「さては……森に散乱している白骨は、妖術結界に迷ったのではなく……」


「くそぉぉぉ……そんな事はさせないよ……」


 百目媛の白い腕が長く伸びて紅羽たちの目玉を狙う。あの掌に目蓋まぶたを触れられると目玉を盗まれるのだ。


 紅羽が宙を飛び、百目媛に太刀をお見舞いする。が、妖女の口から黒い煙が噴出した。紅羽はとっさの判断で息を止めるが、少し吸ってしまった。刃筋がにぶり、女怪に斬撃をよけられてしまう。


「けほっ……けほっ……これは邪気……」


 邪気とは、人間を病気にしてしまう悪い瘴気のことだ。


「天摩忍法・風遁・涼風!」


 黄蝶が円月輪を団扇うちわのように振って、涼しき癒しの風を吹かせる。涼風が邪気を打ち払い、清涼の〈神気〉を紅羽に与えた。


「はぁはぁ……ありがとう黄蝶……少し楽になった……」


「どういたしまして、なのです」


「さっきのお返しだよ……天摩忍法てんまにんぽう――火遁・火鼠ひねずみ!」


 紅羽が臍下丹田せいかたんでんにためていた〈神気しんき〉を練りあげた。〈神気〉とは、万物の元になる気のことだ。〈神気〉は人間をはじめあらゆる生命体が持つエネルギーで精神力、または気力ともいう。


 彼女の周囲に赤い陽炎かげろうがユラユラと立ち込める。太刀の先に炎をともらせ、火焔弾を発射する。百目媛は三つの眼を光らせた。火炎弾は百目媛に迫ったが、その手前まできて、直角に軌道を変えて椚の木にぶつかった。


「なにっ! 火鼠が曲がった……」


「うぬっ……おそらくはこの森と同じく空間を捻じ曲げる妖力であろう……」


「察しがいいのがいるのう……そうよ、これぞ百目鬼妖術の奥義『結界反射』だえ……」


 百目媛は瞬時に己の周囲に個人用結界を張ったのだ。


「反則だぞ……ならば近づいて直接、刃を突き通す! 竜胆、援護を……」


「うむ……それならあるいは……氷遁ひょうとん凍霧いてぎり!」


 竜胆が青い〈神気〉で凍りつきそうな冬の霧を発生させた。たちまち周囲一帯が冬霧に覆われた。


「おのれ……どこへ……だが、この森からは逃げられぬのだえ……」


 百目媛の左右背後から気配がした。おそらく凍霧にまぎれ、左右同時攻撃で毒気や空間捻じ曲げの術を避けようという肚心算はらづもりであろう。


「おのれ、小癪こしゃくな……」


 百目媛の全身が膨らみ、刃のような剛毛が生え、身の丈十尺の巨鬼に変化していった。そして、全身に黒筋が生じて、百の眼が開いた。


「百目鬼妖術・百目雷光ひゃくめらいこう!」


 巨鬼と化した百目媛の全身の眼が、特によく輝く額の眼に号令されるかのように一斉に光った。百眼から閃光が走り周囲を黄金色の世界に変え、百雷の轟音が響き渡った。


「うわあああああああああああっ!!!」

「きゃあああああああああああああああっ!!!」

「ぴゃうぅぅぅぅぅ!!!」


 百の稲妻が凍霧にまぎれて攻撃してきたくノ一たちを炎につつみ、黒焦げにした。


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