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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第三話 邪眼!百の目をもつ通り魔
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死を呼ぶ銃声

 その間、松田半九郎が四人目のやくざ者に刀身をふりかぶったが、太刀の鍔元で食い止められた。黒い着流しを着た、鋭い眼光の鷲鼻の男だ。


「ぬっ……なかなかやるなあ、おじさん……元は浪人か……」

「その通りよ……俺は他の奴らとは一味違うぞ……」


 神速の速さで三人の子分どもを倒した半九郎が、腕のある元浪人やくざに、ここで初めて腋に汗をかく。一方、慌てたのは黒駒の仙八親分。


「くっ……情けねえ子分どもだ……」

「どうすんだい、どうすんだい……仙八親分、子分達がほとんどやられたじゃないか……」


 腕を組み、舌打ちをする黒駒の仙八に、緋鯉のお吉が取りすがる。彼女は内心、逃げ時を見計らっていた。


 ――もう、潮時かねえ黒駒一家も……


「慌てるなお吉、伏兵がいるのを忘れたか……」

「ああ……そうだったね……元猟師の源蔵がいたよ……」


 火縄銃をもった男は黒駒の仙八の別動隊だ。万が一のとき、親分が危機となったときに銃撃で守る影の用心棒である。仙八が懐中鏡を夕日に反射させ、源蔵に合図を送った。


 お吉の掏摸の現場を目撃した若侍たちから裕福な商人の財布と小遣いを巻き上げる予定が、子分もほとんど倒されてしまった。このままでは仙八の名はすたれ、浅草界隈の縄張りも他の一家に奪われてしまう。四人を闇に葬ってしまう必要があった。森の繁みに隠れていた源蔵は傍らに唾をはいた。


「けっ、兄貴分たちも情けねえなあ……普段はえばっているくせにだらしねえ……まあ、久々に俺の出番だ、株を上げさせてもらうぜ……」


 源蔵が舌なめずりをして、火縄銃を頬付けし、銃口を紅羽に向ける。火縄銃は厚い鋼板で覆われた甲冑をきた鎧武者や具足をきた足軽であっても、鉛弾を貫通することができた。いくら、武芸に秀でた半九郎や忍術を極めた紅羽たちであっても遠方からの射撃には敵わないであろう……


 すでに銃口には早合はやごうがつめられ、火口でつけた火縄先を火鋏ひばさみにはさんだ。源蔵は片目をつぶって茜色の羽織に、黒袴をはいた端正な風貌の女剣士・紅羽の胴体まん中を捕捉。火蓋ひぶたを切って、引き金に指をかける。――紅羽たちは遠く離れて風下であり、火薬の臭いも届かず、忍びといえども気がつかない。その赤い羽織が血潮でさらに赤く染まるのか……


「……やだねえぇ……お天道さまが照っているうちから、闇討ちとは卑怯な奴さねえ……」


「なにっ!」


 源蔵の背後から声がし、彼は動揺しつつも、銃をふりかぶって筒口を声の持ち主に向けたのはさすがだ。が、その視界が突如、なにかぞっとする冷たいもので両眼が包まれ、視界が闇となる。


 ――ダァアアアアアアアアアアアアアアァン!!!


 森の方角から火縄銃の音がして紅羽たちは振り向いた。


「今のは銃声……」

「こちらを狙っていたのか!」


 だが、誰も負傷していない。弾が外れたか、暴発したのであろうと紅羽たちは考えた。


「それより、三白眼の侍を助けないと……」


 紅羽たちが松田半九郎を見れば、元浪人のやくざ者と対峙していた。が、両者は示し合わせたように後ろに飛び退き、互いに青眼に構えた。元浪人が必殺の一撃を半九郎に送ってきた。


 当然、半九郎の刀はそれより送って迎撃する。半九郎が真正面から唐竹割りにされる――はずであったが、半九郎は刀のむねを敵の刀の棟にひっかけて、刀を右に引き落とされた。


 目が点になり硬直する元浪人。半九郎が敵の正中線に刀の峰を叩きつけた。どうと、元浪人やくざが倒れ伏す――それはなんと、わずか目睫もくしょうの間の出来事であった。


 半九郎の背後から黒駒の仙八が対決中、隙を見て、道中脇差で背中から心臓を突き刺さんと忍び寄っていた。が、元浪人やくざが瞬時に倒れ伏し硬直する。


 ――なんだ!? なにがおこった!!!


 その瞬間、掏摸の親分は脇差をもった右手に激痛が走り、身も世もない苦鳴をあげる。――紅羽が懐から棒手裏剣を出して仙八の手首に投擲したからだ――振り返った半九郎が襲撃者の胴に峰打ちを喰らわせ、どうと倒した。竜胆が感嘆して半九郎を見る。


「ううむっ……見事な早業じゃのう……何者なのか……」


「あれは一刀流だね……しかも、最近隆盛をきわめる中西一刀流……」


 一刀流――戦国時代末期に伊藤一刀斎によって創始された剣術で、柳生流とともに剣術界では二大流派とされている。一刀斎の死後、一刀流からさまざまな流派が生まれた。


 有名なのはなんといっても、徳川将軍家の剣術指南役となった小野忠明の小野派一刀流であろう。他にも伊藤派一刀流、唯心一刀流の三台流派から派生したものが幾つもある。北辰一刀流の千葉周作も、中西道場で習った一人だ。


 それら一刀流道場の共通する教えに「五点(典)」、「切落」、「卍」、「拂捨刀」、「無(夢)想剣」がある。他流派にくらべてもいちじるしく合理的かつ独創的な剣の流派である。


「よく知っているな紅羽、剣術に関する知識はかなわぬのう……」


「ふふん、いつもと逆だね。なんか気持ちいい~~~…」


「ぐぬぬぬぬ……して、技の名は?」


「あれは一刀流の秘技『切落きりおとし』だね……」


「切落?」


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