三白眼の武士
「おい、俺はこんななりをしているが、れっきとした藩の武士だ。諸国を武者修行した帰りでな……松田半九郎いう……丹後牧野藩の藩士だっ!」
「主持ちの藩士が庶民の女にふしだらな事をしようとは、藩主が怒るぞ!」
「だから、誤解だというのに……」
「問答無用!」
頭に血ののぼった紅羽が眼前の武士に集中しているとき、背後から忍び寄ってきた腕が胸のふくらみをむんずとつかむ。そして、もみしだく。
「にゃあああああああああああっ!」
「待つのですっ、紅羽ちゃん!」
黄蝶が紅羽の背後から羽交いじめにしようとしたが、手が届かず、胸をつかんだのだ。
「女……であったか…………」
三白眼の侍も赤面し、気勢をそがれて立ち止まる。
「あら、女だったの!?」
緋鯉のお吉が少しガクリとする。
「あいたたたたたっ!! なにすんだよ!」
巫女姿の竜胆がかけつけ、背後から緋鯉のお吉の腕をつかんでねじった。
「待て、紅羽……この女狐は掏摸だ。黄蝶、帯を!」
「はいなのですっ!」
栗鼠の素早さで黄蝶がお吉の帯から男物の財布を取り出した。
「あっ、本当だったのか……」
「だから、始めからそういっておるだろっ!」
「くっ……このお姉さんにだまされたのか……」
「まったく、紅羽は考えもなしに……我らの役目を忘れたか……」
「いや、とっさのことでさあ……綺麗なお姉さんと目つきの悪い浪人を見較べたら、つい見かけにだまされて……」
「……この三白眼は生まれつきだ!」
若い武士は袂に両手をつっこんで腕組みし、口をへの字にまげてお冠のようだ。紅羽はガクンとしおれて、頭を下げて松田半九郎に謝った。
「まあまあ……とにかく、この女を自身番に引き渡して、財布を元の持ち主に返そうではないか……」
「おっと、そうはいかないぜ……」
突然、第三者の声が割り込んできた。人相の悪いやくざ者が三人、真ん中の頰傷があり、筋骨隆々した男がねめつけている。わずかな通行人が関わり合いを恐れて遠巻きにする。
「俺は浅草界隈を縄張りにしている黒駒の仙八だ。お吉をこちらに返してもらおうか……」
「仙八親分! やっぱりこういう時は頼もしいねえ……」
「さては、掏摸の仲間だな……」
お吉が竜胆に開放されて仙八に駆けこんだ。松田半九郎が仙八をにらみつける。
「察しがいいガキは嫌いだよ……痛い目にあいたくなけりゃ、その財布とお前等の小遣いも渡してもらおうか……」
取り巻きの子分達が下卑た笑いをして懐に手を入れる。匕首や道中脇差を持っている。
「ほう、この俺をおどす気か? 掏摸の親分さんよ……」
松田半九郎が鞘を改めて腰に差し、鯉口をきった。キラリと刀身が日光に反射する。
「ここじゃ人様の迷惑だ……あっちの普請場へ行こうじゃねえか……」
掏摸の親分が半九郎に顎で指図する。