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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第十四話 襲来!暗闇の緑魔
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さらば引又村

 封印が成功すると、大地の四瑞封魔陣から、光り輝く魂が次々と浮かび上がり、彷徨さまよい、元の持ち主めがけて飛び去っていった。


 その一つが瀬兵衛の座棺に飛んで行った。


「兄さぁぁぁ!!」


 お小夜の前に半透明の若者が現れた。


 水虎に殺された瀬兵衛だ。お小夜がとりすがるが、むなしく霊体をすりぬける。


 言葉も交わせないが、お小夜は瀬兵衛の姿をふたたび見られて感動の涙を流した。


 それを秋芳尼たちが見守る。


「……約束通り、瀬兵衛さんの通夜をとり行いましょう」


「はい、ありがとうごぜえます……秋芳尼様……妖霊退治人のみなさま……」


「おっ、すっかり殊勝しゅしょうになったな、お小夜……とんだお転婆娘だったのに……」


「兄さの前でからかわねえでくんろ!!」


 お小夜は真っ赤になって紅羽をにらみ、微笑んだ。松田半九郎を見て、


「そうそう、お武家さま……○○を蹴ってしまって申しわけ……」


 松田半九郎が稲妻のはやさでお小夜の口を塞いだ。


「お小夜坊……その話は、もうするな……忘れてくれ」


「むぐぅぅ~~~!!」


「松田の旦那ぁ……絵面がまずいって……」


 一方、河川敷で水虎軍団の河童と戦っていた禰々子河童たちは、緑毛河童が急に動きを止め、枝と藁の傀儡人形に変じたのをの当たりにした。


「おお……妖霊退治人のみなさん方が、水虎を倒したようだね」


 水虎軍団との戦いの最中、橋の方で生きていた水虎と戦う紅羽たちの戦いを見たが、眼前の大軍勢の敵との争闘で駆けつけることができなかったのだ。


「やったケロ……秋芳尼さまたちが、おっとう達の仇の水虎を倒してくれたケロ!!」


 河童の三吉が歓喜の涙をこぼした。


 三吉と禰々子河童たちが駆けつけ、勝利を喜んだ。


「よぉし、勝利の祝いに河童踊りをしようじゃないか!!」


「ほへ? 河童踊りって、何ですか?」


「狐の国で狐踊りが流行っているっていうからね、対抗して河童踊りをつくったんでケロ」


「おいおい……対抗するなよ……」


〽カッパカパカパッ、パパンノパン……ア~~パッカパカパ、パンパカパ~~ン……


 河童たちが踊り出すと、なんだか楽しくなって、三女忍もそれに混じって踊り出した。


 田畑河川のカエルの合唱に負けじと、河童踊りが朗らかに響きわたる。


※          ※          ※


 激闘が終わり、妖霊退治人たちはお小夜の家に一泊して休養した。


 翌朝、お小夜とその両親に見送られ、五人は三上屋七郎右衛門に水虎退治が首尾よくいったと報告した。


「橋跡のたもとに水虎を封印しました……水虎塚すいこづかとして祀り、封印が解かれないようにお願いします」


「はい、ありがとうございます、秋芳尼様……これで引又村は救われました!」


「橋が壊されてしまいましたが……」


「いえ、橋は壊れても治せます。人の犠牲がなくて何よりです」


「そういって頂けると安堵します……」



 辰刻半いつつはん(午前九時)ごろ、秋芳尼たちは引又河岸へと向かった。


 三上屋七郎右衛門の好意で、江戸へ出る荷船に乗せてもらう事になった。


 陽がのぼっていくと、だんだんと蒸し暑くなってきて、川風が心地良い。


 船着場で船を捜していると、引又河岸の奥のほうで、人だかりがあった。


 水死人が見つかって、代官所の役人が来て検分をし終えたようだ。


 人だかりの間にむしろをかぶった遺体が見えた。


「あれってもしかして、お咲の……」


「痛ましいのう……」


 みんなで合掌してお経を唱えた。


「はん! あたしはまだ成仏してないよ!!」


「ぴえええっ!? でたぁぁぁ!!」


 豹変した秋芳尼に竜胆が近づき、榊をもった。


「秋芳尼さま、さっそく悪霊祓いの術でお咲を体内から落としましょう」


「そうはさせないよ!!」


 にこやかな表情が女夜叉にょやしゃのように苛烈かれつになった。


「この肉体はあたしのもの……と、いいたいが……」


 秋芳尼に憑依したお咲は急にげんなりした。


 そして、比丘尼の肉体から半透明の幽体が抜け出た。


「えっ……あっさりと出て来た?」


 諦観ていかんした表情のお咲の幽霊は、


(あ~~あ……あたしも怨霊の力を使いきっちまったら、どうでもよくなったよ……あの世とやらにでも行こうかねえ……)


「いったいどうしちまったんだ、お咲の奴?」


「う~~む……恨みを晴らしてしまい、力を使い切ったので、未練がなくなったのではないか?」


 秋芳尼がお咲を見上げ、


「お咲さん……今度生まれ変わるときは、きっと幸せにね……」


(どうだか……人間に生まれ変われたとしても、あたしはあたしだよ……)


 お咲の幽霊は光の粒子となって天に舞いあがっていった。


「お咲殿……思えば若い身空で……はかない人生だったでござるなあ……」




 三上屋の持ち船である八十石船には、材木・穀物・燃料・醤油などが積まれ、江戸へ下って運ばれるのだ。


 秋芳尼一行は、三上屋七郎右衛門、お小夜、その両親、武蔵屋の若旦那・喬太郎と手代頭の又蔵に見送られ、船から手を振った。


 秋芳尼は忍者七つ道具の入った袋から、浅茅手製の船酔い留め薬を飲んだが、容体がすぐれないようだ。


「大丈夫ですか、秋芳尼さま……」


「ふう……船の揺れにはなかなか慣れません……」


 流れる水面を見ると、三吉と禰々子河童ら河童たちが見えた。


「ありがとうだケロ……みなさんのお陰でおっとうの仇が討てたケロ」


「よかったな、三吉……もう悪さするなよ」


「わかったケロ」


「元気でいるのですよ!」


 河童たちにも手を振り、別れをつげた。かくて秋芳尼一行は引又宿から去っていった。




 天摩忍群くノ一衆の妖怪退治人たちは、次はまたどんな事件に巡り合うのか……それはまた、次回の講釈で……


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