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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第十四話 襲来!暗闇の緑魔
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妖術・魔鏡水流戟

 殺し屋が真空斬りでえぐったはずの右目が元通りになっていた。


「眼が戻っている……水虎の再生能力か?」


 それと今までの状況を分析したギヤマン牢の中の秋芳尼が、


「どうやら、水虎は液体に変形して、元の姿に戻ることで再生が可能なようですね……ただし、中身は腐ったままですが」


「なるほど……それが水虎の再生能力の条件なんですね……」


 半身を川面から出した水虎が、両手を水面につけ、呪文を唱えた。


 水虎の手前の川面から二条の水柱が噴出し、螺旋うずをえがいてゼンマイのお化けのような物体になり、円い部分が水鏡に形成される。


 その水鏡に紅羽と須佐美源蔵の姿が映し出された。


「なんだあれは!?」


「かかったな……これぞ妖術・魔鏡水流戟まきょうすいりゅうげき!」


 水鏡はまた二条の筋となり、紅羽と須佐美に向かって水蛇のように宙を蜿蜒うねうねとくねり襲いかかった。


 水流の先は圧縮された矛先ほこさきとなり、楕円を描いて橋上の紅羽と須佐美に目がけて飛来した。


 玻璃灯籠をもった紅羽が横に跳躍して逃れた。


「紅羽、うしろですわ!!」


「えっ!?」


 的を外した水流槍は空中に楕円を描き再び紅羽を襲った。


「魔鏡水流戟は水鏡に映った相手をいつまでも追い続ける……やがて疲れ果てた標的まとに命中する!!」


 後方から迫る水流戟を再び避けるが、矛先はまた楕円をえがいて方向転換し、三度目の攻撃に転じる。


 まるで自動追尾型ミサイルのように陰険極まりない妖術攻撃だ。


「くそっ……厄介な水槍みずやりだ!!」


 紅羽は右手で抜いた紅凰で水流戟を斬りつけるが、金属音をあげて弾かれた。


「なんて硬い水だ!!」


「無駄だ……圧縮された水流は鋼よりも硬い……そして鋭い矛先は河童の硬い甲羅をも貫く……わしに刃向った柳瀬川の河童どもはこれで倒した!」


「なんだって……するとこの水槍で三吉の父を……」


「そうだ……甲羅を持たぬ人体など、たやすく田楽刺しにしてくれる!! そして川のそばにいる限り、魔鏡水流戟は無限にきさまらを追いかける!!!」


 秋芳尼とお小夜の入ったギヤマン牢をかばう紅羽に第三撃の水流の矛先が迫る。


 このままでは体力が尽きて殺されてしまう。


 須佐美源蔵も水流戟を避けていたが、


「ええい、猪口才ちょこざいなっ!!」


 須佐美は猛気術で村正に猛気を込め、水流戟を抜き打ちざまに斬った。


 圧縮された水流の矛先が水となって飛散した。


 ニヤリと笑う闇の始末人。


 が、柄の方の水流の切断面から新しい矛先が瞬時に形成され、矛先が須佐美源蔵の鳩尾を貫いた。


「ぐふぅぅぅ……莫迦ばかな……悪運強い……わしが……こんな所で……」


 血を吐き、ドウと橋板に倒れ伏す須佐美源蔵。


 標的を倒した水流戟は役目を終えて満足したように、水となって飛散した。


「なに……あの須佐美まで……おそるべき妖術攻撃だ……」


 紅羽目がけて水流戟が円を描き、蜿蜒と標的を狙って飛来する。


 娘剣客が飛んだ跡の橋板に水槍が貫通し、大きな穴ができた。


 その間に引又村の岸辺へ向かって走る。


 橋板の底から轟音がし、橋板を破砕して水流戟が紅羽を串刺しにせんと迫る。


 間一髪逃れたが、削り取られた破片が飛んで紅羽の右太腿みぎふとももにあたった。


っ!!」


「紅羽っ!!」


 水流戟が宙に楕円をえがき紅羽の心臓を狙う。


 覚悟を決めて眼をつぶる。


 その前に瓦偶馬が駆け寄り、胴体を貫いた。


「ブルルルッ!!」


「瓦偶馬ぁぁ!!」


「小馬ちゃん!?」


 紅羽と玻璃灯籠の中の秋芳尼が悲痛に叫ぶなか、瓦偶馬は最後のいななきをして、橋上で崩壊し、土塊つちくれに戻って行った。


 水流戟が水となって四散する。


 瓦偶馬は身を挺して紅羽や秋芳尼を守ったのだ。


「くそぉぉ……よくも瓦偶馬を……」


「おのれ……今度こそ……」


 水虎が再び呪文を唱え、水柱をたててゼンマイのお化けを形成させはじめた。


 紅羽の髪が逆立ち、玻璃灯籠を傍らに置き、比翼剣を両手に構え、怒りの一撃を水虎に送るべき神気を臍下丹田に集める。


「お待ちなさい、紅羽!!」


「止めないでください、秋芳尼さま!! あたしの最大の技である天摩流火術・金翅鳥斬こんじちょうざんで水虎に引導を渡してやります!!」


「いいえ……おそらく無駄です!!」


「えっ……無駄!?」


「水虎は強敵です……たとえ紅羽の金翅鳥斬で、水虎の硬い鱗装甲うろこそうこうを斬れたとしても、液状化して再生してしまうでしょう……」


「それは……ですが……」


「あの技で神気を使い果たしたら、手も無くられてしまうでしょう……今は撤退しましょう」


「そんな……逃げるなんて……」


「今は撤退すべきです……あの須佐美源蔵も、剣が強いくせに、引き際は見事でしたよ」


「うっ……」


 ――紅羽が倒されたあと、玻璃灯籠は水虎の手に渡る……秋芳尼の護衛忍として、今、最優先すべきは秋芳尼とお小夜の身の安全だ。


「……紅羽、火炎つつじの術を……」


「はいっ!! 瓦偶馬……お前の捨て身の犠牲は無駄にしないぞっ!」


 瓦偶馬を小馬ちゃんと呼んで可愛いがっていた尼僧の心中を察し、怒りをぐっとこらえた。


 紅羽が赤い神気に包まれた太刀を青眼に構え、八の字に乱舞させた。


「天摩忍法・火焔かえんつつじ!」


 比翼剣から飛散した火の粉のごとき神気が、桃色の躑躅つつじ花へと変化した。


 水流が水鏡を作り、鏡に紅羽を映そうとしたとき、鏡面が赤い花弁におおわれた。


「なにぃ!?」


 暗夜に火炎つつじが百花繚乱ひゃっかりょうらんとばかり咲き乱れ、花弁が水虎に舞い飛んで全身を覆いつくす。


 視界をふさがれ、両手で花弁地獄をかきむしる。


「ガオオオオオオオン!!」


 惑乱した水虎が暴れ、両手を橋に叩きつけ、橋が真ん中からへし折れ破壊された。


 その衝撃で、橋脚きょうきゃくが次々と倒れはじめ、橋桁はしげたが歪んだ。


 橋が音を立てて崩れていく。


 紅羽は太刀を納め、玻璃灯籠をつかんで引又村の方角へ走った。


「まっ……待てぇ……」


 水虎が玻璃灯籠を持って逃れる紅羽を追いかけようとした。


 倒れ伏した須佐美源蔵が、死力をつくして上半身を起こした。


「化け物め……地獄の道連みちづれだ!!」


 須佐美源蔵が刀を抜き打ち、水虎の眼に向けて真空柘榴割しんくうざくろわりを放った。


 周囲の景色が朦朧もうろうとかすみ、やっと花弁をふき取った水虎の左眼に真空塊が炸裂した。


「ガアアアアアアアッ!!」


 痛みでのた打ち回る水虎。


 同じ人間風情に今度は左眼をつぶされ怒り心頭だ。


 巨大なあぎとが刺客をからかじり、口内から血飛沫があがった。


 血祭りにあげて少し溜飲りゅういんが下がった。


 水虎はまた全身を水に変えて再生する妖術・覆水戻ふくすいもどしを使おうと思ったが、それはやめた。


 水虎の再生術は独特で、眼球だけなど部分再生することはできず、いったん全身を水分子に変化させ、いわば初期化することで元の身体に再生できるのだ。


 それには時間がかかってしまい、再生する間に瀬兵衛の遺体と秋芳尼に逃げられてしまうかもしれない。


 水棲妖怪が痛みをこらえ、橋桁を破壊しながら紅羽を追いかける。


紅羽が踏んだ橋板が次の瞬間、崩れて川に落下していく。


 なんとか橋がすべて崩壊する前に紅羽は橋のたもとに到着した。


「ふへぇぇ……間に合ったぁぁ……」


「よくやったでござる、紅羽!!」


 水虎軍団残党の緑毛河童をほとんど退治した松田半九郎たちが橋のたもとで待っていた。


 大地を踏みしめた紅羽に黄蝶が抱きつく。


「心配したのですぅ~~」


「なんとか秋芳尼さまたちを取り返したぞ!」


「あとはまかせるのじゃ……天摩流神術・破魔氷姫剣はまひょうきけん!!」


 竜胆が臍下丹田に集めた青い神気を聖眼せいがんにかまえた薙刀にこめ、精神を集中する。


 神気が蒼白い着物をまとった女神の姿となり、やじり型に変化し、浄化の弓矢が放たれた。迫りくる水虎の開かれた大きな口に弓矢が命中。


 弓矢は邪霊邪気を浄化する神気をまとった浄霊剣となって、水虎の体内で荒れ狂う。


「グガアアアアァッ!!」


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