不死身の怪僧
「ぴえええええっ!! 生首をひろったのですぅ!!」
怪僧は両手で生首を胸前にかかげてニヤリと笑い、首を元の位置に戻した。
「わしは不死身といったであろうが……今度はこちらからいくぞ!!」
夜道怪が口をおおきく開け、白い泡の流水を吐き出した。
第六感が危険と感じた妖霊退治人三人娘が慌てて避ける。
発泡流水があたった枯木から焦げるような音がして、樹皮が溶け崩れた。
「ぴええええっ!! 溶けたのですぅ!?」
「溶解泡じゃ!!」
「やっかいな術だな……」
「骨まで溶けてしまえ、妖霊退治人ども!!」
夜道怪がさきほどより大量の溶解発泡流を三人娘に吐き出した。
「天摩流風術・つむじ風なのです!!」
印を結んだ黄蝶の周囲から突如、旋風が発生し、殺人泡をすべて弾き飛ばした。
「ぎゃあああああっ!!!」
溶解泡が逆に己にかかり、夜道怪の肉体が春の陽にあたった雪ダルマのごとく溶けていく。
「やったぞ、黄蝶!!」
紅羽が黄蝶を抱きしめてナデナデする。
「えへへへへ……なのですぅ!!」
いぶかしげな表情の竜胆が溶けていく怪僧の死骸に近づき、石突で妖怪の身体をつくと、それは木片を彫った人形の体であった。
「やや……これは木偶人形じゃ……」
「なんだってぇぇ!?」
「どういうことですか?」
「これは操り人形で、どこかに操っている本体がいるはずじゃ……血飛沫が出ないので妙だと思ったが、こういうカラクリじゃったか……」
三女忍がキョロキョロと周囲をうかがう。
「もしかして、あの袋の中じゃないですか?」
「いや、黄蝶、そんな莫迦なことはないだろう……」
紅羽が手の平をひらひらとふって、否定した。
「やははは……」
「ひょえぇぇ……袋がしゃべったぁぁ!?」
紅羽と黄蝶が驚いて抱き合った。
「よくぞ、見破った……わしの本体はここよ!!」
背負い袋がもごもごと動きだし、凍って閉じていた口がジュウジュウと音をたてて解けた。
「黄蝶のいう通りかよ!!」
袋の口がひとりでに開き、暗黒の空洞からズズズズズっと長い霞のような邪気が湧きだし、見る見るうちに巨大になった。
二階建ての家ほどもある対数螺旋を描いた巻貝が出てきたのだ。
そして、巻貝の口から大きなハサミを持ち、飛び出た眼をもつ十脚目の生物が姿を現す。
背負い袋がしぼんで取り残された。
「ヤドウカァァ!!」
「あれは海に住むヤドカリなのですぅぅ!!」
「ぬうぅぅ……夜道怪の正体はヤドカリ妖怪じゃったのか……」
「吸い込んだ人々は食べちゃったのですか!?」
巨大ヤドカリが三人娘を見下ろし、
「いや、まだ異空間の隠れ里に閉じ込めたままよ……もっとも、お前たちを退治してから、ゆっくりと燻製にして食べる予定だがな……人間は燻製にして食べるのが一番美味いし、妖力もつくわい……やはははは」
「人間を燻製にするなんてひどいですぅ!!」
「そうはさせるか!!」
「ここで退治せぬとまだまだ被害が広がるのじゃ!!」
妖霊退治人たちが太刀、薙刀、円月輪を構えて決死の戦いを挑んだ。