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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第十三話 激突!刺客軍団
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必殺からくり独楽

「それにしても、変装が上手ですねえ……すっかりだまされたのですよ……」


「ふふふふふ……あっしは旅芝居一座の生まれでねえ……変装と芝居は朝飯前よ」


 秋芳尼が文吉の瞳を見て、


「ですが……さきほどの御老人はあけすけに物をいう気持ちの良い人物のようでしたが……元にした人物がいるのではありませんか?」


「ほう……よくわかるな……あっしがいた一座の座長をやっていた徳兵衛爺さんを真似したんだ」


「そういえば、河童を見たときの驚き方が

大げさで芝居がかっていたのですぅ……」


「へっ……ありゃあ、徳兵衛爺さん得意の茶番狂言『百日紅冠者さるすべりかじゃ』の一幕よ……つい、昔とった役者根性がでちまったなぁ……」


「旅芝居の役者が、どうして殺し屋なんかしているのですか!?」


 地独楽の文吉が遠い眼をして、


「……あっしが物心つく頃には両親がやまいで亡くなり、徳兵衛とくべえ爺さんに育てられた……だが、その徳兵衛爺さん亡くなり、新しい座長となった丹三郎たんさぶろうって奴が酷い奴でな……あっしを寺小姓に売ると言い出しやがった……それで、丹三郎をぶん殴ってやり、顎の骨を砕いてやったぜ……そして一座を逃げ出した……十三の頃だったかな?」


「ぴええええ……黄蝶と同じ年頃で!?」


「それから……どうしたのです?」


「あちこちを彷徨さまよい、カッパライや置き引きなんかをして暮らしていたが、ついに行き倒れになった……それをある道場主が助けてくれた……道場主はあっしを見込みがあるといって、裏の武芸を教えてくれたのよ……それが冥眼影流の暗殺技よ」


「冥眼影流……訊いた事ありませんねえ……」


「いったい、誰に頼まれて秋芳尼さまを狙っているのですか!?」


「そいつは言えねえなぁ……カタツムリにでも訊いてみな」


「なんですそれ!?」


 地独楽の文吉がかかとを上げてつま先で歩く摺り足で、右から黄蝶にじりじりと迫ると、黄蝶も右へじりじりと移動した。


「ひひ~~ん!!」


 突然、横から瓦偶駒が飛び出して、文吉を前脚で蹴ろうとした。


「やろうってのか、頓馬野郎とんまやろう!」


 文吉の錐刀が一閃し、瓦偶駒の前脚が薙ぎ払われ、返す錐刀が旋回すると首が両断され、横倒しになった。


 河童の入った魚籠が転がる。


「小馬ちゃん!?」


「きゃあああっ!!」


 黄蝶と秋芳尼が悲痛な叫びをあげる。


 尼僧が虫の音の駒に駆け寄ったが、瓦偶駒はたちまち土色に変色していく。


「なんだぁ、この馬……粘土を斬ったみたいな手応えだ……ぎょっ!?」


 見れば前脚と首を切断した駒の屍体が、粘土でできた彫像になっていた。


「馬が粘土になりやがった……まあ、いい……秋芳尼、覚悟!!」


 文吉は両手で懐から独楽をふたつ取り出し、投独楽なげごまを放った。


 独楽の周縁部からカミソリが飛び出し、回転ノコギリのように秋芳尼を左右から襲う。


 これは独楽の胴体の側面に溝があり、回転すると遠心力で羽根が伸びる変形独楽を改造した殺人兵器だ。


「そうはさせないのですぅ!!」


 黄蝶が前に立ち、両手の円月輪でカンッ、カンッとノコギリ独楽を弾いた。


 円月輪とは、シーク教徒がつかったチャクラムをもとにした輪形の忍具である。


 その間に文吉が黄蝶に走り寄り、錐刀を振りかざした。


 だが、右手の円月輪を素早く投じられた。


 円月輪は電瞬のはやさで宙を滑空し、文吉の錐刀を根本から斬り飛ばした。


「げっ、あっしの錐刀が……」


 円月輪は反転して蝶芳尼の右手に戻ってきた。


「天摩流輪術・帰り蝶なのです!!」


 その間に秋芳尼が袈裟から出した経文を両手で広げ、摩利支天の咒を唱えていた。


 すると、経文に書かれた墨の文字が浮かび上がり、十匹の蛇のような生き物に変じていた。


 長さ五尺ほどの黒い竜が宙を泳いで文吉にまとわりつき、両手を胴体ごと巻きつき縛ってしまった。


「うわわわっ!? なんだこりゃ!!!」


 身動きが取れずにその場に固まる闇の始末屋。


「さすがのわたくしも怒りましたよ……天摩流法術・墨龍咒縛経ぼくりゅうじゅばくきょうです!」


「くそぉ……妖霊退治人てえのは、本当に法力てのを使えるようだな……」


「もう観念なさい……生半可な力では、墨龍のいましめからは逃れられませんよ」


「そうです、代官所に突き出すのですよ!」


 尼僧と少女忍者に詰め寄られた文吉であるが、口の端をあげた。


「ふっ……そいつは願い下げだな……」


 ブゥ~~~~ン!!


 奇妙な羽音が聞えると思い、音源を探ると、黄蝶・秋芳尼と墨龍で縛られた文吉の間の地面に円筒形の独楽が回転しているのが見えた。


「はっ!! 独楽が!?」


「まあ……いつの間に……」


「鳴り独楽さ……竹鳴り独楽とも、唐独楽やごんごん独楽ともういなぁ……胴体内部に空洞があり、回すと側面の穴から風が入り、音を鳴らす仕掛けだ……こいつは占い独楽ともいい、独楽が廻る時に発する音で予想する占い師もいる……」


 墨龍の黒い蛇体が解きほぐれて、元の墨字の集積体になりつつあった。


 文吉が不敵にニヤリと笑うと、ジャキッと音がして二尺ほどの刃物が飛び出し、墨龍の縄が左右で切断された。


 両断された墨の龍が経典の墨文字となって宙に霧散した。


「ぴええええっ!?」


「なっ……わたくしの墨龍咒縛経が破られるとは……」


「この鳴り独楽は、知り合いの行者・千獄坊せんごくぼうに呪力を込めてもらった特別性でね……うなり音に魔除けの力があるのさ……妖霊退治人が本当に霊力を持っていたってぇ時の用心に、仕込んでもらって助かったぜ!」


 人間の遊び道具の中には元々呪術目的で作られたものが、後世になって子供のオモチャになったものがある。


 地独楽の文吉の両手の手甲から刀身が迫り出していた。


「あいにくと、あっしはカラクリ細工が得意でねえ……この手甲剣も御手製のオモチャよ!!」


 地独楽の文吉が手甲剣を斜め十字に構え、跳躍して秋芳尼に斬りかかる。


「そうはいかないのです!!」


 黄蝶が軽やかに宙を舞い、金属輪が宙に舞う銀蝶のように軌跡を描き、刺客の手甲剣をカンッ、カンッと弾き返した。


 両者が地につき、黄蝶が円月輪を両手で御手玉のように宙に投げて廻した。


 すると、残影による円月輪がいくつにも増えて見えた。


「むっ……なんの真似だ!?」


 残影のはずの円月輪が次々と実体になって文吉に向かって投じられた。


「天摩流輪術・十輪乱舞じゅうりんらんぶなのです!」


 刺客は慌てて右に左に避け、トンボ返りで回避しきった。


 足許の地面に刺さった金属輪が霞のように消えるのを見て、


「輪は二つのはず……さては、幻惑の術か!?」


 黄蝶が得意とする輪術と幻術の合わせ技だ。


 文吉は手甲剣を元に仕舞い込み、トンボ返りで二回転して黄蝶に迫る。


 飛来する幻影の円月輪が霞のように身体を通過した。


「ぴえええっ!!」


 逆立ちのまま右足を振ると、脚絆きゃはんから隠し剣が迫り出した。


「しゃあああっ!?」


 脚絆剣が黄蝶の胴体を薙ぎ払おうと迫る。


「そんな所にも隠し剣が!!」


 刺客の脚絆剣を左手の円月輪で弾く。すると、左脚の脚絆剣が迫り出し、首を両断しようと薙いだ。


 黄蝶は右手の円月輪で弾いて防御。


 文吉が両刃を脚絆に仕舞い込み、宙返りして立ち上がり、黄蝶と秋芳尼から数丈ばかり間をとった。


 軽業が得意なのは旅芝居一座で鍛えたからか。



「味をやるな……だが、こいつはどうかな……」


 文吉が襟元に両手を突っ込み、取り出した両手を眼前で交差させた。


 指の間に貝独楽ばいごまが十個挟み込まれ、黄蝶に向かって投じられた。


 貝独楽は明治以降にはやった鋳鉄製のベーゴマの元になった独楽で、バイという巻貝の殻の下半分を壊して、螺旋部だけを残し、そこに砂や溶かした鉛などを詰め込んで、断面をろうなどで塞いで、色を塗ったものだ。


「文吉さまの必殺・貝廻ばいまわしよ!」


「こんなの通じないのです!」


 黄蝶が飛来する貝駒を円月輪で華麗に弾き飛ばす。だが、弾いた瞬間、貝独楽が爆発した。


「ぴえええええっ!?」


「ふふふふふ……その貝独楽は砂の代わりに火薬が詰めてあるのよ……」


 文吉が持つ貝独楽をよく見れば、貝独楽の蝋のフタに導火線がついていて、火が灯されている。


「貝自体は小さいから、爆発もそれほどの威力はない……だが、連続だとどうかな!?」


 火薬貝独楽が黄蝶に向かって次々と打ち出された。


「幻術・楯羽蝶!」


 黄蝶は前面に巨大蝶をつくり出し、独楽爆弾の攻撃を防いだ。


 それでも次々とぶつけられ、周囲に黒煙がたなびき、内側まで侵入する。


「くそぉぉ……また、あの妖術か……」


「けほっ……けほっ……妖術じゃなくて、忍法です!」


 胸を張って抗議する黄蝶がよろけて、地面に倒れた。


「……あれ……変ですねえぇ……」


「けほっ……けほっ……どうしました、黄蝶!? ……あっ……」


 秋芳尼も地面に倒れこむ。


 うつ伏せ状態から上半身をあげるが、まぶたが今にも落ちそうだ。


「どっちだって、怪しげな術には変わりあるめえ……トドメを刺してやるぜ」


「煙に……なにか……仕込んだのですね?」


「ふふふふふ……ご名答……爆弾独楽が効かねえのは、さきほど弓矢を防いだので知っている……火薬独楽の煙には眠り薬を入れといたって寸法よ!」


「しまった……のです……」


「そこで大人しく寝ていろ、小娘……」


 地独楽の文吉が御花独楽おはなごまを秋芳尼の心臓に向かって投じた。


 八角形の胴体に綺麗な花が描かれた鮮やかな独楽だが、文吉の仕掛けで軸先が錐のように鋭く肉や骨をも貫通する殺人兵器となっている。


「きゃっ!?」


「そうはいかないのです!!」


 尼僧の前に少女忍者が立ち塞がった。


 渾身の力を振り絞って天摩忍群頭目を守ったのだ。


 その腹部に殺人独楽の芯棒が突き刺さった。


「ぴゃうぅ!!」


 黄蝶が倒れ伏した。


「黄蝶ぅぅぅ!?」


「邪魔しやがって……だが、その独楽の芯にはアオカブトの毒が塗ってある……すぐ死ぬだろうなあ」


「なんという……むごいことを……」


「まずは一人……次こそ、秋芳尼の命を取り立てる!」


 地独楽の文吉が摺り足で進み、黄蝶を横目に尼僧に迫る。


 そして秋芳尼に手甲剣の切っ先を向けた。


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