妖怪退治屋三人娘
「お前たち、こちらは寺社奉行同心の坂口宗右衛門どのである。名乗るがよいぞ……」
松影伴内が口髭をなでつけながら指図した。
「紅羽と申します!」
茜色の羽織に、黒袴をはいた若侍姿をした男装娘が名乗りを上げる。長い髪をうしろで馬ノ尾結びをして、まっすぐな目をした端正な風貌の女剣士だ。
「竜胆という名です。お見知りおきを、寺坂さま……」
白い羽織に緋色袴をはき、薙刀を携えた巫女が名乗った。長い黒髪を後ろで結び、前髪を切りそろえ、横髪をアゴのあたりで切りそろえた平安貴族の姫君のような美貌の巫女剣士である。
「黄蝶といいます、よろしくなのです!」
黄八丈の着物に赤い帯をまき、赤い鼻緒の黒下駄をはいた町娘が名乗る。長い髪を二つ結びにしているが、結ぶ位置が耳の上で、現代でいうツインテールのようだ。まだあどけさなの残る可愛い娘である。
「ほう、この年若い娘たちがのう……しかし、このたびは町奉行同心も目玉を奪われた妖怪であるぞ……ここはやはり、腕利きの松影伴内にまかせたほうが……」
坂口宗右衛門が扇子をパタパタ仰いで、半信半疑に眺めている。
「心配無用ですぞ、寺坂殿……論より証拠、その技をとくと御覧じろ……まずは黄蝶!」
松影伴内が薪を空中に投げあげた。
「はいなのです! 風遁・風塵!」
黄蝶が両手に持った円月輪を華麗に舞わせると、黄色い〈神気〉で起こしたつむじ風が薪を空中に持ち上げ、木の葉や塵を巻き上げ、回転させる。寺坂同心が感心した表情になる。
「次に紅羽!」
「はっ……天摩流――火鼠!」
紅羽が集中すると、赤い〈神気〉が燃えたち、抜刀して剣先を薪に向けると、火箭が生じて木片を炎で包み込んだ。坂口同心が目を剥いて驚く。
「おおおおっ!」
「最後に竜胆!」
「はっ……天摩流――吹雪!」
竜胆が紫の〈神気〉を長柄にこめる。そして長柄を斜めに薙ぐと、刃から春だというのに白雪が生じて、吹雪となって燃えていた薪が氷に包まれた。燃えて高熱になった薪が、急激に冷やされてバラバラに砕け散った。
「おおおっ! 年若き術者であるが、天晴な退魔術の使い手のようじゃな……この件、まかせてみようか」
縁台に座っていた坂口宗右衛門が立ち上がって、扇子を開いて、天晴じゃと褒めた。扇子の絵柄は日の丸に鶴と亀の絵が描かれためでたいものだ。ちなみに、坂口同心をはじめ、奉行所や一般の民には鳳空院の一同が天摩忍群であることは秘密にして、民間の退魔術師と思わせている。
「ははっ、ありがたき幸せ……」
松影伴内が恭しく礼をして、寺坂に近寄り、懐から算盤をだして、仕事依頼の値段交渉を開始した。まず、坂口の小者が紫の布に包んだ前金と、妖怪の情報を記した帳面の写しを渡す。
「妖怪の強さにあわせ、後金は奉行所ではこの金額までなら出せるんじゃがどうじゃ?」
伴内の手にある算盤の玉を、同心がはじく。
「いやいや……坂口さま、町奉行所同心も手こずる相手とか……これくらい欲しいですな……パチパチ」
「……それがなあ、伴内……今月に入って三件目の事件であるからなあ……奉行所もこのくらいまでが精いっぱいなんじゃよ……パチパチ」
「そうはいっても……こちらとて命がけの任務ですからなあ……パチパチ」
初老の男同志がコソコソゴニョゴニョ値段交渉をする一方、秋芳尼が三人娘を招きよせた。
「紅羽、竜胆、帰蝶……刃をこちらに……破邪の〈神気〉をこめましょう……」
「ありがたき幸せです、秋芳尼さま!」
天摩忍群頭領でもある秋芳尼は刀、薙刀、円月輪の刃先にたおやかな手をふせ、浄化の〈神気〉をこめた。掌が淡く温かい光を放ち、武具を包み込む。通常武器を無効とするあやかしの体を、聖なる法力で攻撃可能にする。
「さあ、江戸の人々が困っています。妖怪退治人の出番ですよ!」
「「「ははっ、秋芳尼さま!」」」
黄蝶が円月輪を振うと、白く光る幻の蝶の群れが出現し、三人の娘の周りをグルグル飛翔し、光る旋風につつまれて姿が消えて行った――




