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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第十三話 激突!刺客軍団
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水怪

「やれやれ……草鞋も足袋も泥だらけになっちゃったなぁ……」


「川で洗うのですよ……」


 三人は足許を洗い、紅羽の火術で乾かした。


 妖霊退治人一行が土手道をすすむと、河川敷の方から子供の歓声が聞えた。


「なんだ、また川赤子か?」


「赤ちゃんじゃなくて、もっと大きい子供の声ですよ」


 河辺の砂地に大きな丸を描いて土俵とし、角力すもうをとっているノッポと肥った子が角力をとっていた。


 七歳から十歳くらいの子供達六人で、他の子は応援している。


「本物の子供たちが角力をしているのじゃ」


「なぁ~~んだ……ガキンチョたち、どっちも負けるな」


「ほほほほ……子供たちは元気ですねえ……」


 ふんどしを互いにつかんで、がっぷり四つに組み合っていた子供たちであるが、肥った子供が大外刈りでノッポの子を転ばした。


「大作の勝ちぃぃ!!」


「おっし!! 五連勝だい!!!」


「ちぇっ、大作に角力で勝てる奴はもういねえかもなぁ……」


「……なら、おいらと角力を取ろうよぉ……」


 いつの間にか八歳くらいの見知らぬ子供がいて、大作に角力を挑んだ。


 角大師つのだいしという髪型で七歳くらいのせた色黒の子供だ。


「なんだおめえ……この辺じゃ見かけねぇ、チビ介だなぁ……」


「おいら、三吉さんきちってんだ」


「よっし、三吉……あいさつ代りにいっちょもんでやるぜ!」


「やったぁぁ!!」


 大作が角大師の子供と土俵に入り、しゃがんで睨みあい、行司役の子が「はっけよい!」と叫んで、四つに組んだ。


「うりゃあぁ!!」


「ありゃ……なんだい、こいつの肌……やけにぬるぬるしてねばっこいなぁ……それに青臭あおくせぇぇ……」


 大作が得意の大外刈りで小柄な子供を吹っ飛ばした。


 が、チビ介の身体はコンニャクのように柔らかく、足腰が強いようで、起き上がり小法師こぼしのように立ち上がった。


「まだまだぁ!」


「おおぉぉ……チビ介のくせにやるじゃねえか……もういっちょ、こい!」


 またもがっぷり四つに組んで力比べをはじめた。


 すると、角大師の子がニヤリと笑うと、左腕が身体からだの中にずるずると埋まっていき、代わりに右腕がその分倍に伸びた。


 長く伸びた腕が大作の腹回りをぐるりと取り囲むと、ぎっちりと絞め上げた。さっきより力も倍になっている。


「うええぇぇっ!?」


 大作は三吉のふんどしを握って抱え上げ、砂場に転ばせてやろうとした。


 が、角大師のわらべは足に根が生えた切り株のようにビクともしない。


 やがてチビ介は大作を土俵の枠を越えて、河岸まで引っ張っていった。


 大作少年は顔を真っ赤にして奮闘していたが、腰を長い腕で締め上げられているので息が苦しくなり、顔色が青くなった。


 すると、長腕の怪少年は右手を放して、左腕を元に戻した。


 大作は独楽のように回転してバタリを倒れた。


「うぅ~~ん……」


「うぉーう!!」


 長腕の怪少年は奇声をあげ、両目が熾火おきびのように赤く燃え上がった。


 その姿が濃緑のぬめぬめとした皮膚に変色し、手足は細く、指の間に水かきがあり、背中に甲羅のようなものを背負い、大きな頭は御稚児おちごさんのようなオカッパ頭となった。


 頭頂部に皿のようなものが見え、口が尖がってクチバシのようになった妖怪の姿に変身した。


 緑肌の水怪は大作のふんどしをつかんで、水飛沫をあげて水辺に引きずり込んでしまった。 


 バシャアァァァ~~ン!!!


「わああああああっ!?」


「河童だぁぁぁぁ!!」


「大作ぅぅぅ!!」


 土手道を進む秋芳尼一行は、背後の河川敷から子供達のただ事ではない悲鳴を訊いて振り向く。


「なんでしょう!?」


「子供が川にはまったのか?」


「行ってみましょう!!」


 一行が土手を駆けおりて子供達から事情を聴いた。


「知らない子供が来て、角力をとっていたら、腕が倍に伸びたんだ!!」


「その子は河童が化けていたんだ!!」


「河童が大作を川に引きずり込んだんだ!!」


「うむ……たしかに河童のようじゃ……河童の腕は身体の中で左右一本につながっていて、片方を引っ込めると、片方が伸びるのじゃ!」


 子供が指差す方角、川面に飛沫を上げて上流へと泳いでいく河童の甲羅が見えた。


 気絶した大作のふんどしを左手で持って泳いで行く。


「河童め……巣に大作を持ち帰って血を吸う気だな!」


「いかん、すぐ助けねば!!」


 松田半九郎が帯を解いて羽織を脱ぎだした。


 衣服が塗れて水を吸うと重くなってかせとなり、水練上手な者でも溺れてしまうのだ。


「それじゃ遅いよ……あたし達にまかせて!」


 紅羽と竜胆と黄蝶が羽織の襟をつかんで一気に引っ張ると、羽織や袴が脱げて、裸になった。


 いや、胸にさらしをまき、腰にふんどしのような下着をつけていた。


「うわわっ……どうやって脱いだその着物!? ……というか、人前でなんという姿に!?」


「これは河童対策のため用意した天摩流水術の水泳着じゃ……松田殿、秋芳尼さまを頼みますぞ!」


 そういって、紅羽と竜胆は川に飛び込んだ。


 太刀と薙刀はさすがに持っていけず、口に苦無くないくわえていた。


 苦無とは、15~8センチほどの両刃の忍者道具であり、壁をよじ登る登攀具とうはんぐや、地面に穴を掘るスコップ、ナイフのように格闘に使うなど、用途が多岐に渡った。


 使い捨ての手裏剣とは違い、サバイバルナイフのようにしっかり作られた高価な道具であったという。


「おいおい……お前達……泳げるのか?」


 江戸時代の女性は水着も無く、水泳術を練習こともなく、ほとんどが泳げなかった。


 ただし、海女あまだけは例外で、海に潜って貝や海藻などを採取していた。


 ちなみに海女は世界的にみて、日本の北は久慈から房総半島・能登輪島・志摩半島・讃岐国・九州などと、韓国の済州島にしかいないようだ。


「松田殿、われらには天摩流水術というものがあるのですよ」


 水術とは水泳法のことで、水練・踏水術とうすいじゅつ泅水術しゅうすいじゅつともいう。


 江戸時代になってから武芸のひとつとして、水中での格闘、武器を使った戦闘、馬を御することが研究された。


 天摩流水術は豊後国臼杵藩に伝わる山内流水術と九州の海女の素潜り泳法などを参考にしたものである。


 山内流泳法の基本技は斜横泳法と立泳法である。


「なんと……」


 紅羽と竜胆は頭を正面に向け、身体を斜め横にし、両手を手繰手たぐりて、両足を三節扇足という斜横泳ぎで、抜き手をきって河童を追いかける。


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