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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第十三話 激突!刺客軍団
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尼寺や朝な朝なに根深汁

 谷中やなか道灌山どうかんやまちかくの小高い山にある、こぢんまりとした尼寺。


 ここは言わずと知れた瑞雲山鳳空院ずいうんさんほうくういん


 鳳空院の朝の始まりは明け六ツ(午前六時)の鐘を突いて始まる。


 寺の者は境内を掃き清め、秋芳尼は本堂で勤行の観音経を読誦し、くノ一三人娘は裏庭で武道や忍術の稽古をする。


 そして、庫裡くり浅茅あさじのつくった精進料理の朝食を皆で食べる。


 膳のうえには麦の入った米飯に根深汁、たくあんに青菜のお浸しがある。


「おっ……今日も白ネギの根深汁だね……一句できた……尼寺や 朝な朝なに 根深汁、ってね」

「たまにはぜいたくにアサリやシジミをいれた味噌汁が食べたいですねえ……」


「ぜいたくをいうでない、二人とも……白ネギが入っているだけありがたいと思わぬか」


「いや、あたしは食膳にも、ささいな彩りの変化というものをだな……」


「ほほほほほ……同じような根深汁でも、浅茅が工夫をして変化をしてくれているのですよ」


「えっ、そうなんですか?」


出汁だしを変えたり、旬の野菜を入れたり、時には胡麻油を入れたり……やりくりをしながら工夫をしていてくれているのです……」


「そうだったのですかぁ……」


「ほかにもネギも切ったばかりだと、鼻にツ~~ンとくるほど辛く、こうしてグツグツ煮たものはとろりと甘く感じるものです」


「あっ……たしかにぃ……」


「浅茅さまの涙ぐましい心遣いなのじゃ……」


「おお……さすが、秋芳尼さまはネギの違いのわかる住持さまなのですぅ!」


「ほほほほほ……」


 住持の尼僧・秋芳尼、茶汲み娘の黄蝶、巫女剣士の竜胆、忍び剣士の紅羽が膳をかこんで朝食をとっていると、


 ――トン、テン、カン……トン、テン、カン……


 鳳空院境内の裏側にある炭焼き小屋から槌音つちおとが聞えてくる。


 天摩忍群の忍具武器鍛冶方の金剛が霊磁鉄で霊刀をつくっているのだ。


「金剛兄が新しい霊刀をつくっているのです……まだですかねえ……ワクワクするのです」


「ハシが止まっているぞ黄蝶……まだまだかかるって……」


「そうじゃな、まだ五、六日かかるであろう……」


「あの房総での出来事から三日も経ったのですねえ……」




 前回、金星王国から来た天狗犬イーマがのこした小型宇宙船の金属を元に、金剛が新しい霊刀武器である黄蝶の円月輪と竜胆の薙刀を作刀さくとうしているのだ。


 金剛と伴内は炭焼き小屋に隠された『天摩流たたら製鉄』の工房で白水干に侍烏帽子を身につけ、注連縄をはり、炭焼き小屋に祀るたたらの神『金屋子神かなやごかみ』と、忍術神にして天摩忍群の守り本尊である『摩利支天まりしてん』に祈祷の儀式を行った。


 原料である宇宙金属を天摩忍群総動員で霊力を注ぎ込み、『霊磁鉄れいじがね』に加工した。


 霊磁鉄は木炭を焼いて炉にくべ、低温燃焼で還元させ、純度の高い地鉄を、金剛と伴内が灼熱の炎が燃えあがる工房で、三日三晩不休で『たたら製鉄』の直接製鋼法で作り上げたのだ。


 天摩流鍛冶術は体力・精神力・集中力をつかう高度で過酷な作業であるのだ。




 そこへ、金剛と伴内に朝食を持っていった浅茅あさじが帰ってきた。


「ちょいと、あんた達……金剛が新しい武器をつくっているからといって、ただ、ぼ~~っと待っているだけじゃあ、いけないよ」


 浅茅は鳳空院門前の茶屋・松葉屋の女将おかみで、松影伴内の妻であり、天摩忍群くノ一達にとって、先輩格であり、女忍術の師匠であり、江戸の母的存在でもある。


「ん~~、そうだな、これを片付けたら、腹ごなしに組手でもするか?」


「そうじゃな……」


「黄蝶もするですぅ!」


「あらまあ……ほほほほほ……怪我をしないよう気を付けてね」


「はい、行ってきます、秋芳尼さま!」


 膳を片付け、本堂裏にある墓地の縁にある、森に囲まれた修行場で木刀、木薙刀、木輪などをもって武術稽古にやってきた。


 すると、浅茅もやって来て、


「よし、亭主は金剛を手伝っているから、今日はあたしが稽古をつけるよ」


「おお、久しぶりだな、浅茅様の稽古は」


「待て、その前にいう事があるじゃろう……」


 竜胆が紅羽と黄蝶を見やり、うなづいた二人は浅茅の前で頭をさげた。


「浅茅様……毎日、味噌汁に香の物に副菜と、工夫をしてもらってありがとうございます!」


「ありがとうございますなのです!」


「少ない予算での厨房のやりくり、感謝していますのじゃ」


「おおおっ……なんだい急に改まって……いいんだよ、そんなことは……」


 照れて右手をパタパタふっているが、浅茅も満更でないようだ。


「そうだねぇ……今日は天気もいいし、幻術特訓といこうか」


「幻術特訓?」


「天摩流幻術は神気を可視化させて見せる眩戯めくらましの術じゃな……」


「幻術なら、黄蝶が得意なのですぅ!」


 少女忍者が印を組み、お腹の臍下丹田から神気を発すると、全身が淡く優しい黄色い光が湧きだし、二匹の紋黄蝶もんきちょうが生じて宙を八の字に舞った。


「やるな、黄蝶……あたしだって!」


 紅羽が木刀を斜め左右に振ると、刀身から火の粉のごとき赤い神気がふくれあがり、桃色の躑躅つつじの花弁に変化して周囲に散った。


「ほほう、やるようだね…でも、それは幻術でも初級だよ。今回は上級の訓練をやってみようかね」


「上級幻術?」


「そうさ……まあ、まずはあたしがお手本を見せようかね……」


 浅茅がしゃがんで右手を地面に置いた。そして、緑色の神気を流し込む。


 すると、地面から若葉が芽を出し、ニュルニュルと伸び出した。あっという間に牡丹の花が咲いた。


「きれいなお花ですぅ……」


 浅茅が花を横から右手でふると、花の茎は幻燈の虚像のように姿が薄れ、手が何事もなく通過した。


「この花は幻だから、決して触ることはできない……だけど……」


 浅茅が懐から六方手裏剣を取り出し、花にむかって投げつけた。


 前のように手裏剣は茎で通過すると思いきや、カンッと硬い音をたててはね返した。


これには三女忍も「アアアアッ!?」と驚嘆した。


「幻の花が手裏剣をはね返したのですぅ!?」


「どうなっているんだ?」


「ぴえええっ!?」


 黄蝶と紅羽も花に手をかざすと触ることができた。


「まるで鉄の造花みたいだなあ……あっ!」


 花は陽炎のように姿が薄れ、朝の露のごとく消えてしまった。


 竜胆は眼を細め、人差し指を顎の先にのせ、


「ふ~~む……幻を一時的に実体化させたのですね?」


「まさかそんな莫迦な……」


「莫迦なじゃないよ……あんた達も今まで神気を実体化させた技を見たことがあるだろう?」


「えっ……神気をですか?」


「おおっ、そうだ! 小頭だ!!」


「ああっ!?  神気光明剣しんきこうみょうけんですね!」


 天魔忍群小頭の松影伴内は三鈷杵さんこしょという密教法具をつかって神気を物質化させて刃にすることができるのだ。


「そうさ、あんた達もそろそろこの術が使えるかと思ってね」


「よぉ~~し、ものは試しだ……やってみるか!」


 三女忍が右手を大地につけ神気を注入し、火炎つつじの花、竜胆はアジサイの花、黄蝶はフクジュソウの花を咲かせた。


 紅羽と竜胆はさっそく触ってみるが陽炎をつかむがごとく素通りする。


「う~~ん……そう簡単にはいかぬか……」


「やっぱり、難しいよ……」


「ぴええええっ!?」


「まさかっ!? 」


 黄蝶のつくったフクジュソウを紅羽と竜胆が触ってみると、柔らかい感触が伝わっきた。


「う~~む……鉄のように硬くはないが、実物の花のように触れることができるのじゃ……さすが黄蝶じゃ!」


「後光さす 黄蝶が家や 福寿草 ってとこだな。後光が見えるぞ黄蝶!!」


「えへへへへ……よくわからないけど、ありがとうなのですぅ!!」


「ほほぉぉ……幻術に関しては、三人の中では黄蝶が、一番見込みがあるようだね……黄蝶なら、高等幻術『楯羽蝶たてはちょう』ができるかもしれないよ!」


 浅茅が真剣な面持ちで黄蝶を見つめた。



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