岩魔零号大作戦
安房国の富山にそびえ立つ銀色の塔……岩魔の母艦下部の出入り口から岩魔兵士たちが飛び出し、入れ替わりに二体の岩魔兵士が一人の人間を連れて入った。
黄蝶が両手を縛られ、縄で引っ張られている。
出入り口を見張る岩魔兵士が誰何する。
「むっ……なんだそいつは!?」
大柄な岩石人間が敬礼をして、
「はっ……地球人の人質です……岩魔零号の命令で御前に連れて行きます」
「ぴえん……捕まっちゃったのですぅ……」
「ほう……そうか、御苦労!」
二体の岩魔と黄蝶は奥の廊下を歩き、角を折れ、他の岩石人間が見えなくなると、
「ここは無事に切り抜けたようです……黄蝶様、金剛様」
「良かったですぅ……肝が冷えたのですぅ……」
「ふうぅぅ……うまくいった」
大柄な岩魔が右手で頭部をパカッと開けると金剛の顔になった。
例のハリボテ岩魔で変装していたのだ。
もう一体の岩魔はイーマが変身した姿だ。
「金剛兄のハリボテが、意外とばれなかったですねえ……岩魔は眼が悪いのかもしれませんねえ……」
「いやいや、俺の岩魔化けの術が完璧だったのだぞ、黄蝶」
「あっ、別の岩魔兵士があっちから来るのですよ!」
イーマが慌てて金剛の頭部を元に戻した。
「ふぎゅうっ!」
「なんだ、そいつは?」
「はっ……岩魔零号の命令で連行していきます!」
「むっ……そうか……ん? お前……」
岩魔兵士がハリボテ変装した金剛に近づき、じぃ~~~っと、岩の顔を見つめる。
――ぴええっ!? やっぱり、ハリボテだって、ばれたのじゃないですか!?
「あのぅ……自分の顔が何か?」
金剛がいざという時のため、臍下丹田に神気を集め出した。
「おう……顔色が悪いぞ、お前……結晶をもっと食っておけ」
「はっ! お気遣いありがとうございます!!」
そういって、岩魔兵士は入口の方へ去っていった。黄蝶がペタリと座り込み。
「てっきりばれたと思ったのですぅ……緊張したのですぅ……」
「やはり、俺の作った岩魔化けの術は完璧だったなぁ……」
「あっ……あちらに良い物がありましたよ、黄蝶様!」
もう一体の岩魔の姿が銀色の液体金属に変わり、イナンナ女王の姿となった。
そして、壁際にある制御卓に触れ、ボタンをいじる。
その間に黄蝶は縄を外した。
「イナンナ女王さま、なんですかそれは?」
「岩魔の母艦の端末である……これで囚われの秋芳尼殿の現在位置がわかればいいのですが……おっ!!」
「見つかったのですか!?」
「母艦中央部の広間に地球人の人質が連れ込まれた履歴記録がある!」
制御卓から立体映像スクリーンが投影され、光獄球に包まれた尼僧と岩魔一号が廊下から部屋に進む姿が映った。
イナンナ女王が金属犬イーマの姿に変じて先に走った。
「こちらに来てください!」
「分かったのですぅ!!」
「何も犬の姿に……いや、そんな事を言っている場合じゃないな……急げ!!」
その頃、岩魔零号の間--
秋芳尼は襟元から小さな懐中鏡を取り出した。
手鏡が岩魔零号の結晶化光線を反射した。
とっさに身をかわした岩魔零号だが、冥界母神エレキシュガルの左手が水晶と化す。
「ぎゃああああっ!! な……なんだえ、それは……」
「これは金剛がつくった浄玻璃鏡の手鏡版です」
宇宙翼竜に化けた岩魔四号が連れ去った竜胆と金剛を、浄天眼の術で捜したときにつかった懐中鏡が、思わぬところで役にたった。
「おのれぇぇ……我に刃向うとは、度しがたい愚か者め!」
蛇体がうねり、口を大きく開いて秋芳尼に襲いかかった。
「そうはいきません……天摩流法術奥義・破妖浄化六角堂陣!!」
秋芳尼を中心に、床に光り輝く線が走り、二重の六角形の方陣が出現。
さらに方円にそって梵字が現れ、光り輝く。
光の六角方陣から光の鎖が出現して蛇女を縛り上げた。
「ぎゃうっ!! なんだこれは!?」
「悪しき妖怪を捕える法力の鎖です」
「おのれ……こんな呪術を仕えたのか!? さては……わざと捕まったのか!?」
鳳空院住持が数珠をもみ、摩利支天の陀羅尼の経文を一心にとなえる。
「ナモアラタンナ タラヤヤ タニヤタ アキャマシ マキャマシ アトマシ……」
さらに、方陣を基礎として霊妙なる光に包まれた半透明の小さな六角堂が出現。
半人半蛇の怪物の身体が光の粒子に包まれていく。
このまま浄化させるつもりだ。
「岩魔零号!」
石舞台の脇にある詰所に控えていた岩魔の側近たちが現れ、長槍で秋芳尼を串刺しにしようとした。
が、その前に五色の蝶が出現して視界を閉ざす。
「なんだ、この虫は!?」
「天摩流幻術・胡蝶群舞なのです!」
「黄蝶!!」
「秋芳尼さまを助けにきたのですぅ!!」
両手で印を結んだ黄蝶が臍下丹田にためた神気が生んだ幻の蝶群が岩魔の側近たちを混乱させた。
「おのれっ!」
岩魔兵士が長槍を黄蝶に向けて突進する。
が、その穂先が力強い手でつかまれた。
「妹弟子に何をする気だ!!」
「ぐわわぁぁぁ!!」
金剛が長槍を岩魔ごと持ち上げ、壁に叩きつけた。
「金剛!!」
他の岩魔の側近が位相光線銃を秋芳尼に向けて発射した。
「ガウウウウウッ!!」
白い犬が飛び出してきて岩魔兵士の銀の腕輪を噛んで押し倒して気絶させた。
それた光線銃が壁面に当たって穴を造り、内部の精密機械が爆発した。
広間の御簾や装飾品に火が広がる。
「御無事ですか、秋芳尼さま!!」
「イーマさん!! みな、よく来てくれました……このまま遊星兵団の黒幕である岩魔零号を封印させます!」
「おおっ……あれがにっくき岩魔の真の黒幕……」
「蛇女だったのですね……」
「冥界母神エレキシュガルというそうです」
「ぎゃああああっ!!」
蛇女の体が光の鎖に耐えきれず、岩の破片となって砕け散った。
本体である赤い輝石もひびが入って破砕する。
「やった!! イナンナ女王様……ついに、ついに……岩魔の長を……」
「良かったですねえ、イーマちゃん……」
黄蝶がイーマに抱きついて喜びを表す。
「秋芳尼様、早くこの母艦から逃れましょう……あちこち火を噴いてきましたぞ!!」
「そうですね……」
そのとき、何処からか声が響き渡った。
「のほほほほほほほ……」
「その笑い声は……岩魔零号ですわ!?」
「ぴえっ!! 倒したはずじゃあ……」
「そやつは我の影武者である岩魔九号だえ……我の力を分け与えた影武者を倒すとはの……」
「影武者ですって!?」
「地球の原始人風情にやすやすと真の姿を見せぬわ……のほほほほほほっ!」
本物の岩魔零号の声は消え去った。
「くっ……岩魔零号め……なんと卑劣な奴……」
岩魔の黒幕を探してどこかに駆けだそうとするイーマを黄蝶がなだめた。
「もうこの船はお終いです……早く逃げるのです、イーマちゃん!!」
「うっ……分かりました……私の背に乗ってください、黄蝶様!」
「秋芳尼様も俺の背中に!」
かくして火が広がり、連鎖爆発する廊下を金剛とイーマが走り、入ってきた出入り口から外に飛び出した。
黄蝶はふさふさのイーマの首筋につかまり、
「イーマちゃん、これからも一緒に妖霊退治の仕事をしようなのです」
「妖霊退治の仕事ですか……それもいいかもしれません……」
外に出ると、黄蝶たちは五ツ首竜ネルガルを倒したばかりの紅羽らと合流した。
「おおっ、秋芳尼さまを助け出したか!」
黄蝶がイーマの背から降り、
「はやく逃れるのですよ!」
「岩魔の母艦はもう駄目なようです……」
背後の出入り口から爆炎があがり、黒煙がわきあがる。
天摩衆たちは一目散に富山を駆けおりていった。




