妖物変化陣
「ばに゛ゃあ゛ぁぁぁ!!」
地震爆弾を用意していた岩魔兵士たちが、粘土巨人の出現にどよめいた。
「なんだあれは!?」
「敵の呪術か!?」
「ともかく、倒せ!! 地震爆弾に近づけさせるな!!」
岩魔兵士たちが光線銃を粘土巨人に向けて発射し、幾筋の光線が瓦偶巨人乙型に命中して穴をあけるが、ものともせずに岩魔兵士を両手で薙ぎ払い、脚で踏んづけた。
岩魔の技術者が大型工作機械のロボットアームで粘土巨人に襲いかかり、力比べとなった。
「ばに゛ゃあ゛ぁぁぁ!!」
地底魚雷に地震爆弾をセットしていた作業員たちも粘土巨人に立ち向かっていく。
その隙に小屋の陰から紅羽、竜胆、半九郎が顔を出した。
まだ地底魚雷発射場に岩石人間技術者が七体残って作業をしていた。
「伴内殿が引き寄せてくれる今のうちだ!」
「わかっているよ、松田の旦那!」
三人は風呂敷包みから出した抹香を大きめの香炉にいれ、火打石でくべた。
シキミの香りが周囲に漂い始める。
「ぐわっ!? なんだこの匂いは……」
「しまった……これはブリューレギだ!!」
岩魔の技術者たちがバタバタと気絶し、三人は発射場に駆け寄る。
鉄組の櫓にある地底魚雷の蓋を開いて球形の地震爆弾を三人掛かりで持ち出した。
「地震爆弾とやらは、花火の三尺玉みたいだなぁ……」
「しかし、鉄で覆われているようじゃ……」
これが関東一円に超巨大地震を起こして、火山を誘発させる恐るべき兵器なのだ。
「くっ……重いのじゃ……」
「落とすなよ、竜胆……でも重いなぁ……いったん、地面におこうよ……」
「むっ、わかった……」
「ふぅぅ……とにかくこいつを何処かに隠すか……」
そのとき、白熱した光線がほとばしり、抹香をくべた香炉が蒸発してしまった。
「あっ……岩魔の弱点の抹香が……」
三人が振り返ると、森の木陰から青いマントを羽織った岩石人間が出てきた。
紅羽たちのように遊星ボート爆破前に脱出したのである。
「地震爆弾の発射を邪魔させんぞ!!」
「その声は岩魔一号か!?」
「生きていたのか……しつこい奴だなあ」
「ええい、肝心なときに邪魔しおって……」
三人が武器を構えて岩魔一号と対峙する。
「それはこっちの台詞だ……Ω作戦を最後まで邪魔しおって……貴様らも蒸発させてやる!」
岩魔一号が銀の腕輪を三人に向けて、原子破壊光線を発射しようとしたが、銀の腕輪は煙を出して動かない。
「くっ……落下の衝撃で故障したか……」
「手詰まりだな、岩魔一号……たった一人で俺達に立ち向かう気でござるか?」
「そうだよ……大人しく降伏しな!」
「ぎははははは……莫迦をいえ、ここは岩魔の本拠地だぞ!! 岩魔十二号、岩魔十三号、岩魔十四号!」
岩魔一号が右手をあげると、森の茂みから岩影が姿を現した。
「なんだこいつら!?」
「容易ならぬ殺気を持っているでござる……」
「この地球の原始人どもを倒せ!!」
「ははぁ!! 宇宙妖術・巨大蟻変化!!」
「宇宙妖術・髑髏蝸牛変化!」
「宇宙妖術・巨大蜻蛉変化!!」
岩魔兵士たちが次々と巨大な妖物に変形して三人に襲いかかる。
体長9メートルの巨大殺人蟻が「コロコロコロ……」と鳴き、六本の足をシャカシャカ動かして紅羽に襲いかかった。
大蟻が前肢の鉤爪で斬りかかり、紅羽の比翼剣が戞、戞とはね返す。
「アリンコの化け物がコオロギみたいに鳴くんじゃない!!」
「キシャ~~~~~!!」
怪物蟻が大顎を開いて白い液体を吐き出した。
紅羽が後方に飛んで避けると、彼女のいた地面が白煙を上げて溶け、大きな穴を穿つ。
蟻酸は腐食性の強酸で、その蒸気を浴びただけで皮膚は焼けただれ、失明してしまう。
「化けアリめ……あの酸に当たればお終いだ……ならば、天摩忍法・火焔つつじ!」
紅羽は太刀を八の字に乱舞させ、刀身から火の粉のごとき赤い神気がふくれあがり、桃色の躑躅花へと変化。
花弁が咲き乱れ、怪物蟻の複眼をおおった。
視界がふさがれ動揺する巨大蟻。
その隙に紅羽は怪物蟻の柱のような肢を潜り抜け、胴体下に潜りこんだ。
両手の二刀を外側に伸ばし、爪先立ちとなって、飛びあがる。
「天摩流双刀術・回転斬り!」
斜め横になった紅羽は、スケート選手のトリプルアクセルのように高速スピン。
怪物蟻のくびれた胴体を回転翼のように切断した。
「ギジャアァァ!!」
切断された巨大蟻は岩塊となって崩壊。
骸骨のような頭部をした巨大陸貝がヌメヌメとした巨体をうごめかして、ジグザグに走る竜胆を追いかける。。
「メギィィィ!!」
岩魔十三号の眼窩なら槍のような触角が飛び出して女忍者を串刺しにせんとするが、竜胆は横に飛んで避けた。
「でんでん虫の化け物くせになんと早い動きじゃ……しかし、そんな単純な攻撃などきかぬのじゃ」
反撃しようと薙刀を構えなおした。
が、足が動かない。
「これはっ!?」
竜胆が飛んだ先の地面には、すでに髑髏蝸牛が這ったあとがあり、その粘液が鳥黐のように足を釘付けにしたのだ。
「メギギギギィィィ!!」
嘲笑する岩魔十三号が、口からキチン質の恋矢は吐き出した。
四尺もある恋矢は巫女忍者を串刺しせんと迫る。
「やりおるな……天摩流薙刀術・水車!」
巫女忍者は薙刀を水車のように回転させて弾いた。
髑髏蝸牛はその口を開いて歯舌を蠢かした。
カタツムリの歯舌には一~二万本のヤスリ状の小さな歯が連なっていた。
歯舌が鞭のごとくのびて竜胆に迫る。
カタツムリはふだん、植物の葉などを食べるが、背中の巻貝の殻を形成するのに、炭酸カルシウムを摂取して殻に栄養を与える必要がある。
蝸牛がブロック塀のコンクリートなどにいるのは、実は歯舌でコンクリを削って食べているのである。
この歯舌に捕えらた人間はミンチの如くすりつぶされてしまうのである。
「天摩流薙刀術・竜哭清巌崩し!」
「メギャァァッ!!」
竜胆が操る薙刀が風車のごとく急回転をして、宇宙陸貝の上半身を切り裂いた。
髑髏蝸牛が切断面から岩石になって崩壊していく。
「ギャンマ~~~!」
翼開帳10メートルもある二対の翅を持つ巨大肉食蜻蛉が半九郎めがけて滑空してきた。
それは石炭紀の地球に棲息した巨大蜻蛉メガネウラに似た怪昆虫であった。
もっとも、メガネウラは翅の長さが最大30センチに対し、岩魔トンボは巨大過ぎるが。
寺社方同心の袖が強風でなびき、砂塵が視界をふさぐ。
「うっ……眼が……」
砂塵が宙に漂う中、半九郎が横に飛んで肉食蜻蛉の大顎から逃れた。
巨大な物体が後方に飛び去る空気の流れを感じた。
巨大蜻蛉の薄翅が森の木々に触れると、バタバタと倒木していった。
薄翅はカミソリのように鋭い刃なのだ。
――化けトンボは遠くまで飛んで、反転して再攻撃するはずだ……
半九郎は打刀を体の前に捧げるように垂直に立てた。
一刀流の『金剛刀』の構えである。半九郎の心は無想状態となり、刀身がアンテナとなって妖気を探る。
背後から不吉な気配を感じた。
「そこかっ!!」
寺社同心は真後ろへ半回転して妖気を斬った。
妖気の元はコの字に曲げたトンボの尻尾の先から飛び出た毒針で、尻尾の先端が切れて飛んだ。
日本で親しまれるトンボであるが、西洋においてトンボは尾に針がある不吉虫だと信じられてきた。
「ギャン!!」
岩魔十四号は気配を消し、空中停止飛行で近づいていたのだ。
巨大トンボは半九郎の頭上から六本の脚でカゴを組むようにしてわしづかみにした。
トンボはこうやって獲物を捕え、頭からかじって食べてしまうのだ。
砂塵がうすれ、肉食蜻蛉に捕まった寺社方同心の姿が白日にさらされた。
「しまった!?」
宇宙肉食蜻蛉が大顎をあけて半九郎の頭に迫る。
が、半九郎は怪昆虫に捕まる前に刀を頭上に掲げていた。
六本脚の真ん中の胴体を串刺しにする。
「ギャゴマァッ!!」
脚の籠から逃れた半九郎が大地に着地。
半死半生の岩魔十四号は空中を滑空して、遠くで反転して松田同心に最後の勝負を挑んできた。
半九郎は同田貫を青眼に構えた。
「トンボは前にしか進まず、決して退かないことから、戦国時代の武将は勝ち虫として兜や鎧などの装飾につかった……ならば俺も不退転の覚悟で応じよう!!」
カミソリの薄翅をもつ岩魔蜻蛉が侍の胴体を狙い、侍の剛刀が電光石火のごとく煌めく。
「霊剣・一刀両断!」
わずかの間、両者がすれ違った。
後方に飛び去った巨大トンボの体が二つに分かれて石化し、粉々に砕けた。
「ほう、やるな……」
岩魔一号が青いマントを翻して右手で合図すると、さらに森の茂みから尋常ではない妖気が幾つもはなたれた。
「だが、遊星兵団には屈強な岩魔兵士と、虎の子の魔獣部隊がいるのだ!!」
岩魔一号が右手を振ると、青マントが翻り、森の茂みから長槍や星型棍棒をにぎった岩石人間や、宇宙ヴェロキラプトル、恐鳥フォルスコラスが一斉に姿を現して、三人を取り囲む。
紅羽・竜胆・半九郎は互いに背中を合わせて対峙した。
「ぎょっ、まだこんなに伏兵がいたのか……」




