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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第十二話 岩魔!外宇宙から来た妖怪
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地震爆弾

 安房国の房総丘陵のひとつである富山とみさんは、房総を開拓した天富命あめのとみのみことに由来し、角のような峰が二つある双耳峰だ。


 天空丸は低視認技術ステルス機能で姿を消し、岩魔のレーダー網にも引っかからず全速力で航空していた。


 上空百メートルにはオシドリの大群がV字編隊をくんであちこち飛んでいるのが見えた。


「おお、速い、速い……もう富山に近づいてきた」


「さすが天空丸じゃ」


「あっ!!」


 空中帆船を操縦していたイナンナ女王が飛行艇を停止させた。


「どうしたのですか、イナンナ女王さま!?」


「はやく岩魔の本拠地に行かないといけないのに!!」


「……あれを見るのである!!」


 イナンナの指し示す先、空を飛ぶオシドリの大群が富山のある東の方角には見えない。


 よく見ると、オシドリの数羽が一定の空間にぶつかって落下しているのが見えた。


「なんだあれは!?」


「大空に見えない壁があるようじゃ……」


「鳥さんが可哀想なのですぅぅ!!」


 イナンナの姿をしたイーマが電子頭脳で仔細に検分し、


「どうやら……富山全体が透明な壁で包み込まれているようだ……」


「なんだってぇ!?」


 ここまで来て、天空丸は透明障壁により道を阻まれてしまった。




 富山の標高は北の金比羅峰が349メートル、南の観音峰が342メートル。


 岩魔一号に囚われた秋芳尼は光獄球ごと、遊星ボート操縦室の後方に置かれていた。


 前方の操縦室は馬蹄型に五人の操縦士が計器を見ていて、中央の高い座席に青マントの岩魔一号が座っていた。


 前方に広範囲ディスプレイがあり、富山上空が見える。


「あれは……あれが岩魔の本拠地……」


 富山北峰の裏側に、陽光を燦然さんぜんとはね返す銀色の塔が建っていた。


 いや、塔では無い、全長150メートル以上はあろうという巨大な宇宙航空母船がその正体であった。


「そうだ……我ら遊星兵団本隊が地球に乗り込むときに乗ってきた遊星航空母艦だ!」


「まるで天空にそびえ立つ塔ですわね……」


「ふふふふ……ついでに面白いものを見せてやろう」


 岩魔一号が指示して母艦の手前にある広場を映し出させた。


 直径三十メートル以上もある大穴が開いている。


「岩魔三号がマントルワームの姿で数ヶ月かけて開けた地の底、地下十五里(60km)のマントル層にまで達する大穴だ。地震爆弾をあの地底魚雷で送り込む」


 岩魔一号が指し示した方角に鉄組のやぐらで覆われた、流線形の巨大な地底魚雷が見えた。


「あれが地底で爆発すれば、大地震が起き、マグマが吹きだし、火山が活性化し、わが故郷であるゴルゴーン星雲第五遊星Γガンマと同じような硫化水素の大気が渦巻く毒煙どくえんの惑星となるのだ……」


「……あれが……」


 遊星ボートと呼ばれる怪円盤が近づき、母船中央部が円形にひらいて中に収納された。


 岩魔の母船内部の大広間に岩魔一号は光獄球に入れた秋芳尼を運び込んだ。


 天井まで二十メートルはあろうという広間で、前方に階段がしつらえた石舞台のようなものがあり、天井から半透明の御簾みすのようなものがかかっていた。


「ここは……」


「しっ! 岩魔のおさで、遊星兵団の支配者である岩魔零号の謁見の間だ」


 岩魔一号は左腕の銀輪をかかげ、光獄球を解除した。


 秋芳尼が袈裟から抹香の入った小袋を取り出すが、身体が動かない。


「なっ……」


「宇宙妖術・隠しかせ……おぬしの考えなど御見通しだ……危険物の岩魔零号の御前でブリューレギなどを持ち込むなど許さぬ……」


 秋芳尼のもった抹香の小袋は奪い盗られた。


「もう、お手上げですわ……」


 石舞台の横にある銅鐸どうたくがボォォォ~~~ンという音を上げた。


「……この銅鑼どらのような音は……明鐘岬の漁村で聞いた音ですわねえ……石神シャクジンを祀る音というわけですか……」


 石舞台の横にある出入り口から侍従らしき岩石人間が左右から出てきた。


「岩魔零号、御入来!」


 シュルシュルと音がして、御簾の向こうに人影が見えた。その影が中央部にある椅子に座る。


「御苦労であった……岩魔一号」


「いえ、これぐらい、朝飯前で……」


「のほほほほほほ……有能な奴よ……」




 富山手前の上空では天空丸が立ち往生していた。イナンナ女王が謎の透明障壁を分析すると、


「うむ……おそらく天空丸の襲撃を警戒して、山全体を磁力線の防御網でおおっていたのであろう……」


 左七郎が働く温泉宿で訊いた富山に現れた妖怪・塗壁の正体は岩魔の磁力網であったのだ。


「どうすればいいのですか?」


「内部に入って磁力線を発している装置を破壊するか、磁力線を無効化する電波を探すなどの方法がある……」


 イナンナ女王の本体であるイーマが超電子頭脳で計算した。


「あの妖術・楯無しを無効化した傘みたいなのは?」


「あれは反物質バリア専用で、磁力網には……いや、反物質バリアを展開させれば、磁力網をくぐることができるはず!」


「それだ!!」


「しかし……磁力網が破られれば、敵に侵入がばれてしまう……」


「仕方ないよ……秋芳尼様と日本の命運がかかっているんだ!」


「紅羽のいう通りじゃい……本当は明日、わしと金剛で山に偵察に行こうと思っとったが、時間がない……イナンナ殿、ここは特攻もやむなしじゃい!」


「む……承知した!!」


 天空丸が低視認機能を解除し、反物質バリアを展開した。


 丸い透明障壁に囲まれた空中帆船が磁力網を対消滅させ、その隙間から天空丸は富山に侵入した。




 岩魔の航空母艦の大広間に、ジャンジャンジャン……という警戒音が響いた。そして出入り口から岩魔の伝令兵がやってきた。


「なにごとだ!?」


「岩魔一号、磁力線が破壊され、西の方角から未確認飛行物体アンノウンがやってきます」


「なに……さては、天空丸だな……岩魔三号や岩魔十号め、しくじりおって……岩魔零号、失礼いたします!!」


「うむ……羽虫どもを蹴散らしてこい……ガッシュガラガラ!」


「ガッシュガラガラ!!」


 遊星兵団の総司令官が去り、秋芳尼が取り残された。


「妖霊退治人とかいう呪術師の長……秋芳尼よ、特別にわが姿を見せよう……」


 御簾が上に引かれた。


「あっ!?」


 そこにはゴツゴツとした岩肌の岩石人間ではなく、黄金の長い髪の毛に青白い肌と青い瞳をもつ女性がいた。


「初めて逢うな……秋芳尼とやら……我の名は岩魔零号……岩魔一族の支配者である」


「あなたが岩魔の長……その姿は異国の人間の姿を借りたものですか?」


「のほほほほほ……この姿は金星王国アフロディーテ大陸にある地下帝国の支配者、ウェヌス女帝の姿だえ」



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