太陽の怪物
「艇長……岩魔二十二号!」
「なんだ、レーダー係」
「ズー号の屋根から妙なものが!」
天空丸の矢倉の屋根が開き、パラボラアンテナのようなものが迫り出した。
人面岩の反重力を無効化した電磁波装置だ。
たちまち発射された魚雷が地面に向かって落ち出し、そればかりか包囲した遊星ボートの航空推進装置までもが停止し、次々と落下していく。
「莫迦なっ!! くそぉぉ……岩魔二号め、ホントに余計なものを発明しやがって!!」
発射された空中魚雷は地上につく前に、遊星ボートを巻きこんで爆発。
岩魔の空中戦闘部隊は全滅してしまった。
「おおっ……やったぞ! さすが天空丸だ!!」
「このまま岩魔の本拠地へ乗り込んでもよいくらいじゃ!」
黄蝶が眉をよせ、
「でも、竜胆ちゃん、本拠地はどこにあるですか?」
「おそらくは岩魔の遊星ボートが来た方角……南側の山脈にあるはずじゃ」
「おお……なるほどなのです」
「それに……おそらくこの鋸山に来てから頻発している大地の揺れ……その震源地に岩魔がいるはずである」
「地震の揺れの元に? するとさきほどの地震は岩魔の仕業なのか!?」
「おそらくは……」
イナンナ女王の推察に一同がゴクリと唾を飲む。
大地を揺らすとは、岩魔の恐るべき脅威を感じさせる。
「ともかく……あたし達は連戦連勝が続いている。この勢いで岩魔一号のいる遊星兵団をやっつけてやるか!」
「お待ちなさい、紅羽……敵はまだ大勢いるようです……入念な準備をしなくては……それに」
「それに?」
「まだお昼ご飯を食べてないでしょう?」
「あっ……そういえば……そう言われると急にお腹がすいてきたぁ……」
「黄蝶もですぅ……」
「ならば、どこか人里の近くに船を近づけましょう……」
「待ってください、イナンナ女王殿、秋芳尼殿……この宙に浮く絵は外の様子が映っているのですよね?」
松田半九郎がただならぬ様子でマルチディスプレイに人差し指を向けた。
「どったの、松田の旦那……あっ!?」
「これは……いったい、どういう事じゃ!?」
「眼の……錯覚でしょうか……それとも映像カラクリの故障?」
「いや、映写装置に狂いはないのである……」
マルチディスプレイには鋸山上空の空が見える。
たゆたう雲に、七月の強い日差しを思わせる太陽の光……それが右方と左方に。
「太陽が二つもあるのですよ!?」
左側にある太陽の表面に、突然ひび割れが生じはじめた。
太陽と思われた光り輝く物体の、表面すべてに亀裂が走り、破片が飛び散った。
そして偽物の太陽の中から巨大な龍が出現した。
五つの竜の長首に、巨大な胴体に太い四足が生え、長い尻尾、背中には蝙蝠のような翼あり、赤い鱗に覆われた巨大龍であった。
「ギャオオオオオオオオオ~~~ン!!」
鼓膜を振るわせるほどの大音声が響き渡る。
全長30メートルもある空中帆船・天空丸より大きく、長い首から長い尻尾を合わせると、体長は100メートルもあろうか。
「太陽から怪物が出て来たのですぅ!」
「……八岐遠呂智じゃなくて、イツマタノオロチってとこだな……」
「むぅ……地下闘技場にあった巨大な竜神像に似ておるのじゃ!」
イナンナ女王がいつになく緊張した表情で空飛ぶ竜を凝視する。
「あれは……遊星兵団の魔獣部隊の頭領格で、岩魔の守護神といわれる五ツ首竜ネルガルだっ!!」
「なんと……金星文明をメチャクチャにしたという怪物じゃな……」




