岩魔二号
「うひょひょひょ……ぼくの造った巡廻用機械人間戦車だよ……地球の原始人どもをやっつけろ!!」
「グガガガ……ビィ~~!!」
紅羽と黄蝶と竜胆の前に現れた人間タンクが長い蛇腹腕を伸ばした。が、急にその動きを止めた。
「なんだぁ? どうした巡廻用機械人間戦車!!」
怪ロボットの身体が真ん中に筋が入り、火花がわきだし、真っ二つに裂けて左右に倒れていった。
その間から、青く光る刀をもった黒羽織の武士が現れる。
「松田のお兄ちゃん!!」
「無事だったか、黄蝶たちも……」
寺社方同心が莞爾とわらった。
「おのれ……原始人の新手か!?」
「頭蓋骨を叩き割ってやるっ!!」
岩石人間兵士たちが星球棍棒をふるって松田同心に殺到する。
白い煙がただよってきて、それを嗅いだ岩魔兵士が口を押える。
「うげっ……これはまさか……」
「ブリューレギだぁぁ!!」
岩石人間兵士たちが悶絶して、ゴロゴロと地面に倒れ伏し、向こう側から香炉入れを持った尼公が現れた。
「秋芳尼さま!!」
「どうやら……岩魔は抹香の香りが苦手のようですよ!」
秋芳尼の背後には小助をおんぶした弥市や捕らわれた人々もいる。
松田半九郎が警備ロボットを倒し、秋芳尼が無重力監獄に囚われた人間たちを解放したのだ。
小助は父・弥市に逢えた事が嬉しくて泣きじゃくり、父の背中で安心して眠ってしまったようだ。
「その人たちは?」
「無重力監獄に囚われた人々を助け出しました……竜胆と金剛の姿がないので心配しましたが……」
尼僧の前で、巫女忍者と鍛冶方忍者が片膝ついた。
「秋芳尼様まで助けにきていただいて、かたじけありませぬ……」
「面目ありませぬが、岩魔二号に石仮面で操られておりました……金剛、一生の不覚であります!」
「ともかく、無事で良かったですわ……」
ニコリと微笑む天摩忍群頭領。
「ちっともよくないよ!!! ぼくの砦をめちゃくちゃにしてからにぃ~~~!!」
岩魔二号が頭から湯気を出してわめいた。
抹香の匂いを嗅がないよう、観客席に反物質バリアを展開せ、伝声管で話している。
「ブリューレギがあるんじゃ、岩魔兵士が役に立たない……機械人間戦車ども、奴ら地球の妖霊退治人を倒せ!! 倒せったら、倒すんだ!!!」
十一台の機械人間タンクが蛇腹腕を振り上げ、人間たちに襲いかかる。
紅羽がからわらの若侍に振り返り、
「左七郎! 捕らわれた人たちを連れて、地上に逃せ!!」
「ああ、わかったぜ、紅羽……化け物相手じゃ、おいらの役回りはそんなところだからな……みんな、こっちだ!!」
左七郎が小助・弥市親子らを連れて、秋芳尼たちが来た通路へ先導していった。
「まあ……あの若衆侍はどなたですの?」
「左七郎といって、渡海屋一味の用心棒だったけど、改心して味方してくれています、秋芳尼さま」
「悪い子だけど、良い子になると思うのですよ!」
「まあ……そうなの?」
左七郎らの行く手に警備ロボットが追いすがろうとした。
「そうはさせぬ……天摩流氷術・花冷!」
巫女忍者がふるった薙刀の寒波が氷の結晶と化して怪ロボットたちを霜で覆い、氷漬け柱に変えた。
「グガガガ~~ギ~~ピ~~!!」
まずは不思議な魔法を使う天摩衆らを片付けるべきと判断した人間タンクたちは竜胆たちに集団で襲いかかる。
三台の巡廻用ロボットが胸のハッチを開いて超音波銃が迫り出した。
電磁波が発生し、慌てて避けるが、紅羽、黄蝶の体が麻痺する。
「なんだこれ……し・び・れ・るぅぅ……」
「動・け・な・の・で・すぅ……」
「おのれ、ガラクタ人形め!!」
金剛が特大金剛杵をふるって手前の怪ロボットに打ちかかるが、蛇腹鋏で応戦。
丁々発止の激闘が続く。その間に別の人間タンク二台の超音波銃が秋芳尼に電磁波を発射。
その前に竜胆と松田同心が立ち塞がって彼女を守った。
「秋芳尼さ・ま・に・無・礼・な……」
「ぐっ……しび・れ・るぅ……」
「みなさん!!」
「いいぞ、機械人間戦車たち! もっとやれぇぇ!!」
その時、人間戦車部隊の立つ土壌がグラグラと揺れ、前に倒れかかり、長い蛇腹腕で地面を押さえた。
地底から土砂が噴き上がり、巨大な泥人形が出現する。
「ばに゛ゃあ゛ぁぁぁ~~~!!」
「あ・れ・は……」
「小・頭・の!!」
「そうよ……新型瓦偶巨人乙型じゃい!!!」
身長20メートルの遮光器土偶型の巨人の膨れた腹が割れ、中から松影伴内が出てきた。
「なんだあれ!? 地球人の呪術師も機械人間を使うのか!?」
「機械人間じゃないわい! わしの神気術で造った瓦偶巨人じゃい!!」
「なんだかわからないけど、機械人間戦車たち、や~~っちまいな!!」
機械人間戦車たちが蛇腹腕を伸ばし、ハサミの蝶番から熱線銃を迫り出した。
白熱光が瓦偶巨人に一斉に放たれた。
「ばに゛ゃあ゛!!」
熱光線を物ともせず、瓦偶巨人乙型は手近の機械人間戦車をつかみ、別の人間タンクにぶつけ、爆炎をあげて破壊された。
その間に紅羽たちは秋芳尼の治療法術で血行を循環させて痺れを解いた。
「これで血のめぐりが良くなったはずですよ……」
「わ~~い……体が動くのですうぅ!!」
「重ね重ね、かたじけありませぬ、秋芳尼さま!!」
「よぉ~~し……小頭に続け! 天摩忍法・鬼火矢!!」
紅羽、竜胆、黄蝶、松田半九郎、金剛、イーマらの奮戦が続き、巡廻用ロボットたちが次々と撃破されていく。
その様子を見ていた岩魔二号は口に手をあて震えていた。
「ひええ……ぼくは頭脳労働専門だから、荒事は嫌いなんだよなあ……どうしようかなあ……逃げようっと!!」
岩魔二号が振り返って通路へ走りだす。
すると前方から巨大な星型正多面体の通信機が現れた。
「待てい……岩魔二号!!」
「ひょええええ!?」
「この岩魔砦での失敗の責任をどうするつもりだ……岩魔の鉄の掟を忘れたか……失敗を続けた者がどうなるか……消滅刑だぞ!!」
がたがたと震える岩魔二号が両ひざをついて、星型正多面体に両手を合わせる。
「うわ~~ん……今までの科学兵器の貢献で見逃してえぇ……岩魔一号!!」
「たしかに岩魔二号の遊星兵団の科学師長としての功績はかりしれない……だが、こたびの失敗はわしでも庇いきれぬ……」
「しょんなぁぁ……一緒に弁明してよぉぉ……」
「ならば……妖霊退治人を殲滅して、御慈悲を請うのだ、岩魔二号!」
「でも……ぼくって、荒事は嫌いなんだけどなあ……」
「忘れたか、岩魔二号……遊星兵団では、お前はわしに次ぐ妖力の持ち主であることを……百五十年前に前線で戦ったこを思い起こせ!!」
星型正多面体が赤く、妖しく光り輝き、それを見つめた岩魔二号の両眼も赤く燃え上がった。
「……そうだ……ぼくは遊星兵団の……第二の妖力の持ち主だった……」
「……その意気だ……健闘を祈るぞ……ガッシュ、ガラガラ!」
「ガッシュ、ガラガラぁぁ!!!」
ほとんどの機械人間戦車が破壊され、天摩衆は周囲を見回した。
「岩魔二号のやつ……逃げたか?」
「あの見えない壁を出している絡繰りを壊して、探すのじゃ」
とつぜん、観客席の透明障壁が消え、地下通路からゴロゴロと岩石球が転がってきた。
六人と一匹の前に飛んできて、丸い岩石から短い手足と頭が出てきた。
「このぼくをお探しかい? 原始人の諸君!!」
「……逃げずに、たった一人で出て来るとはいい度胸だな……岩魔二号」
「きみたちのせいでぼくの遊星兵団での立場がだだ下がりじゃないかぁ……きみたち原始人ごときが何十人いようと、ぼくにはかなわないよ~~だ!?」
丸い岩石の身体から短い手足と頭が引っ込み、岩石球は風船のように膨れ上がっていった。
岩石球は闘技場上空に浮かび上り、鋼材や岩壁を破壊して、さらに膨張していく。
五ツ首の怪竜神像も崩壊した。
「うわあああ……あいつ、あんなに大きくなれるのか!?」
「このままでは落盤で地底に生き埋めになるのじゃ!!」
「逃げろぉぉ!!」
瓦礫や岩塊が広場に落下していった。
巨大な岩石が天摩衆を押しつぶさんと落下してきた。
「きゃああああ!!」
「うわああああっ!!」
「ばに゛ゃあ゛ぁぁ!!」
瓦偶巨人乙型が両手をあげて落盤した岩石を押さえた。
「今のうちに逃げるんじゃい!!」
「ありがとう、小頭! 瓦偶巨人!!」
みなが通路へたどり着いたとき、瓦偶巨人は岩塊に押しつぶされ、元の土塊へと戻った。
「瓦偶巨人乙型が……」
「なに、わしがいる限り、また復活できるわい。それよりも今は地上へ逃げるんじゃい!!」
しかし、通路のあちこちでも落盤が始まり、鋼材や岩石が落ちてくる。
「みなさん……わたしについてきてください!!」
「おおっ……わかった、イーマ!」
金星犬イーマの先導で天摩衆らは通路へと駆ける。岩魔二号は直径100メートルもある巨大岩塊となり、広い地下闘技場が狭くなるほどの大きさとなる。
正面岩肌に筋が入り、眼を閉じ、膨らんだ鼻、牙が生えた口腔と、鬼のような形相の人面へと変化する。
「あれは……あたし達が明鐘岬沖の礒岩島だと思っていた……」
「空を飛ぶ人面岩が、岩魔二号の正体だったのですぅ!!!」
地底闘技場は崩壊し、岩塊が埋め尽くしていく。
このまま天摩衆は生き埋めになってしまうのか?




