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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第十二話 岩魔!外宇宙から来た妖怪
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怪ロボット襲来!

 ギャラララララ……


 地下洞窟の先から奇怪な音が聞こえてくる。


 秋芳尼と松田同心が前を見ると、九歳前後の少年が必死にこちらへ駆けてくるのが見えた。


 少年は二人に気がつき、


「か……怪物が来るよぉぉ!!」


「なに!?」


 洞窟奥から身の丈2メートルの巡廻用機械人間が出現した。


 楕円形の胴体に身長より長い蛇腹の腕が生え、脚部がキャタピラとなって洞窟を進んでくる。


 頭が肩にめりこみ、電子単眼が青く光っている。


「あれは……一体なんでしょう?」


「岩魔の絡繰からくり人形のようですね……」


 さきほど紅羽たちの前にいなかったのは、岩魔二号が観察するために停止していたのだ。


 奇怪な人間タンクは少年を追いかけてこちらに来る。


「助けてぇぇ……」


「待タヌカ……原始人ノコドモ!」


 蛇腹腕が少年のえり首をつかみかかるが、間一髪逃れた。


「こちらに来なさい!」


 比丘尼が男の子を手招きし、背中にかばった。


 松田同心が前に出て腰刀の柄をつかんで睨んだ。


 その眼力に、機械人間はキャタピラを止めて観察する。


「子どもをいじめるな、ガチャよろい!!」


 怪ロボットは松田同心と秋芳尼を見やり、


「ナンダオ前ラハ……作業用人間ハ、地上デ食事ヲシテイル時間ダゾ……作業用番号ヲ言エ!」


「番号? そんなものはないぞ……」


「ムムム……」


 巡廻用機械人間が松田と秋芳尼に電子単眼を向け、顔認証を検索。


「キサマラハ……岩魔砦ノ作業用人間ニ登録サレテイナイ……侵入者ダナ……捕エテ洗脳シテヤル……」


 怪ロボットの蛇腹の右腕が伸びて、二人を捕まえようとした。


「そうはさせん!!」


 松田が打刀を抜くと、青い刀身が宙を舞い、蛇腹の腕を叩き切った。


 ゴロリと鋏の右腕が転がり、切断面から火花が飛び散る。


「おおっ!! 鋼の腕が切れた……これが法術『刀神軒高』の力か……」


「抵抗スルカ!!」


 怪ロボットの胸部が開いて、超音波銃メーザー・ガンが迫り出した。


 これは電磁波を発生させ、超音波で秋芳尼と松田同心を痺れさせて捕獲し、作業用奴隷にするつもりだ。


 だが、超音波銃が発射する前に、剥きだしたになった機械部分に小柄こづかが刺さっていた。


 巡廻用機械人間のハッチから火花が飛び、上半身をグルグルと回転させ、狂ったように岩壁を蛇腹腕で叩く。


 精密機械ゆえ、小柄が大事な回路を破壊しただけで自動制御装置が壊れたのだ。


「グゴゴゴゴゴ……ビ~~ピ~~!!」


 人間タンクが左腕で秋芳尼と少年を叩きつけようとした。


 その前に影が割り込み、青藍の光条が走った。


「でえええええいっ!!」


「ビ~~ガガガガァ~~~!!!」


 巡廻用ロボットが袈裟掛けに斬られ、斜めにずれていき、火花が飛び散り、二つとなって停止した。


 少年が前に出て、拳を握って興奮した。


「す……凄い……あのお侍さま……鉄の化物を切っただ……」


「松田殿は一刀流の達人ですから……」


 松田半九郎は刀の青光を高揚した気分で、じっと見つめ、鞘に納めた。


「凄まじい威力です、刀神軒昂は……」


「ほほほ……あいにく時間が限られていますけどね」


「ところで、その少年は……なんという名前だい、坊や?」


 三白眼の武士が尋ねただけだが、少年は怯えて尼僧の背中に隠れた。


 怪ロボットの脅威から助かったが、まだパニック状態なのであろう。


「ひ、ひぃぃぃぃ……」


「あっ……怖かったか……弱ったなあ……」


 松田同心が頭をかいて、鳳空院住持に助け舟をこう。


「ほほほほほ……このお侍さまは怖い顔をしていますが、優しく、庶民の味方なのですよ……」


「それはないですよ、秋芳尼殿ぉ……いや、お任せします……」


「………………」


「坊やのお名前はなんというの? わたくしは、谷中鳳空院の住持で秋芳尼といいます。そして、この方は寺社奉行同心の松田半九郎殿です……わたくしたちは仲間が岩魔という妖怪にさらわれて、助けにきたのですよ」


「……おら……小助こすけっていうだ……おらの父ちゃんもさらわれたんだぁ……」


「まあ……お父様はなんというの?」


「……弥市やいちといって、昨日、金谷湊から親類を訪ねていく途中……夕暮れの山ン中の空で、ぴかぴか~~っと光るお化けが現れたんだ……漁船よりでっかくて、驚いただよ……父ちゃんは光物ひかりものといってただ……」


 光物とは、青魚や金属類などのことをいうが、この場合、流星や火球、稲妻などの光を放つ自然現象や、鬼火・人魂などの怪火現象のことをさす。


「光物? う~~む……神田に現れた岩魔の宇宙偵察艇にちがいない……」


「でっかい光物から虹みたいな光の帯がでて、父ちゃんにあたると、父ちゃんはふわふわと宙に浮かんで、光物に捕まっちまったんだ……おらは、泣いて追いかけたけど、消えてしまっただ……」


「まあ……可愛そうに……」


 尼僧が少年の頭をなでた。


「おらは泣きながら山小屋で泊まって、お天道さまが出てから、父ちゃんをさらった光物が消えた方角の山道をやってきただ……そしたら、ギヤマンみたいな木の生えた森があって……」


 小助少年は秋芳尼たちも辿り着いた広場に出て、作業をしている人夫に話を訊いたが、ぼんやりしていて容量をえない。


 だが、弥市と同じく光物に捕まってここで働かされている事がわかった。


 人夫が出入りする洞窟の奥には捕まって洗脳される前の人間が収容されていると聞き、一人で侵入したのだ。


「まあ……たった一人で岩魔のネグラに忍び込むとは……勇気のある坊やですねえ……」


「だって、父ちゃんはこの世に一人きりしかいないから……でも、あの鉄のお化けに見つかって追われただよ……お侍さま……さっきは助けていただいて、ありがとうございます……」


 ペコリとお辞儀をする小助少年に、松田同心も思わず微笑んだ。


「いや、いいのだ……我らも仲間を探しているのだ……一緒に牢獄から父上も助けよう」


「本当ですかぁ!? ありがとうございます!!! 船を造っている広場の奥に牢獄があるそうですだ!!」


「船だって?」


「あらまあ……」


 半信半疑であった秋芳尼と半九郎であったが、洞窟の奥にあるは建造中の巨大空中帆船ズー号を見て、さしもの尼僧と剣客同心も息を呑む。


「本当に船があるとは……岩魔はなんでこんな物を洞窟で造っているんだ?」


「それよりも、まずは竜胆たちを助けましょう……」


 空中帆船の足組や荷駄の向こうに洞窟の入り口があり、その先に不気味に輝く丸い硝子がらす製の金魚鉢のような巨大球体があった。


 その中に幾人かの気絶した人間が宙にふわふわと浮かんでいるのが見えた。


「あっ!! 父ちゃんだ!! 父ちゃんがいる!!」


「ガガガガガガ……ギィ~~ピィ~~」


「作業用奴隷ハココヘ入ルノヲ禁ジルッ!!」


 長い腕の人間タンクが二台、赤い電子単眼を光らせてこちらにやってきた。


「ただではすまぬか……秋芳尼殿、小助……後ろに下がって!!」


「はい!」


「お侍さま、がんばって!!!」


 松田が鞘から青藍色に輝く刀身を抜きだし、巡廻用機械人間に立ち向かっていった。


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