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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第十二話 岩魔!外宇宙から来た妖怪
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地下闘技場

 天空帆船建造場の床に仕掛けられた陥穽おとしあなに落ちた紅羽たち。


 落し穴の底は急勾配の斜面となっており、三人と一匹は真っ暗な隧道とんねるの長いすべり台で地底奥底へとすべっていった。


 そして、前方で門扉がひらき、それを通り過ぎて広場に出た。


 そこは天井や壁に照明等があって昼間のように明るい。


 大空洞が広がり、直径200メートル、短径160メートルの楕円形で、地上まで吹き抜けで高さ150メートルある広場で、外壁には階段状の観客席があり、岩石人間兵士たち三十名ほどが観客席に座っていた。


 まるで古代ローマの円形闘技場コロッセオのようだ。


「うわっ……まぶしい!!」


「あいたたた……お尻の皮がむけちゃうよ……」


「ここは……どこでしょう」


「あれを見てください!!」


 金星犬イーマが指し示した先に、三階建ての館ほどもある巨大な像が見えた。


 五つの竜に似た怪生物の首が闘技場前面の地面からニョキリと生えていた巨大竜神像である。


「なんだこれは……首が五つもある竜の石像だ……」


「まるで『古事記』の八岐遠呂智やまたのおろちみたいだな!?」


「左七郎さんは、古事記を読んだことがあるのですか?」


「えへへへへ……おいらって、けっこう読書家なんよ……ガキの頃から絵草紙をよく読んでいてねえ……」


「顔に似合わん趣味だなぁ……」


「おめえ、一言多いなあ……」


「読書家なのは竜胆ちゃんと似ているですねえ……」


「それって、これから助けに行こうとしている仲間のことかい?」


「そうなのです……紅羽ちゃんと同い年の妖霊退治人で、もう一人は兄貴分の金剛兄なのですよ」


「そうだったのかぁ……」


 紅羽は怪神像をじっと見上げて観察し、


「ヤマタノオロチにしては、首がふたつばかり足りないけどなあ……」


 傍らに立つ金星犬がただならぬ表情で怪神像を凝視しているのに気がついた。


「これは……」


「知っているのか、イーマ!」


「はい……金星文明を破壊した遊星兵団の魔獣部隊の頭領格・五ツ首竜ネルガルの像です!!」


「なんだってぇぇ!?」


「うひょひょひょひょ……この像は石神五ツ首ネルガルといって、我ら遊星兵団の守護神でもあるのさ!」


「お前は岩魔二号!」


「よく来たねえ、妖霊退治人の諸君!!」



 いつの間にか観客席に岩魔二号の丸い体が見えた。


 伝声管のような器具の前でしきりにしゃべっていた。


「こいつめ……天摩忍法・火鼠!!」


 紅羽が比翼剣紅鳳をふるい、火炎弾を岩魔二号に撃ち込んだ。


 だが、透明な壁のようなものに当たり、炎熱が周囲に広がってしまった。


 広場と観客席を隔てる石壁の上に反物質バリアを展開しているのだ。


「おおっと、危ない、危ない……だけど威勢のいい闘士なのは素晴らしい! 見世物興業と実験台にはうってつけだよ!!」


「実験台だとぉ!?」


「そうさ……金星王国の軍隊と戦って、我が遊星兵団も数が激減してしまったからねえ……そこでぼくが新戦力を発明したのさ!!」


 岩魔二号の合図で岩石人間が銅鑼どらを叩くと、紅羽達が出てきた穴と反対側の門扉がひらかれる。


 闇の奥からガシャン、ガシャンと鋼のこすれるような音が聞えた。


 外に出て来たのは円筒状の胴体に、釣鐘型つりがねがた鉄兜てつかぶとがあり、その前面に赤く光る電子単眼があり、蛇腹のような手足がつき、手の形は矢床鋏やっとこばさみのような鉄の爪の重装甲兵士二体であった。


「なんだこりゃ……寸胴ずんどうの鎧をきた甲冑武者か?」


「これは人も岩魔も入っていない、絡繰からくり仕掛けの人形兵士さ……こいつを量産すれば地球の兵隊だって短時間で制圧できるはずなのさ!」


 そのとき、五ツ首の龍神像の眼が赤く光り、真ん中の龍の頭上の穴から大きな星型正多面体の通信機があらわれ、宙に浮いて青く輝きだした。


「……ようやく自動鋼鉄兵士が完成したか、岩魔二号!!」


「その声は……聞き覚えがあるのですぅ!!」


「神田の才槌長屋をメチャクチャにした岩魔一号だな!!」


「いかにも岩魔一号だ、妖霊退治人の諸君……長屋での破壊光線、軍船の破壊という危機を乗り越え、よくここまでやってきたものだな……地球の妖霊退治人というものを見直したぞ!!」


「また、上から目線の嫌な奴……出てきて直接勝負しろってんだ!!」


「あいにく、闘技場から遠く離れた場所でΩ(オメガ)作戦を準備中でな……きみたちの相手は岩魔二号にしてもらおう」


「ん? オメガ作戦って、なんですか?」


「この日本の島国を手に入れ、我ら岩魔の住みよい世界にする計画だよ……じきに身を持って体験することになるだろう……」


「でも、その前にこの闘技場で死んじゃうかもねえ……うひょひょひょひょ……やれ、自動鋼鉄兵士!!」


 銅鑼がボォ~~~ンと地下闘技場に鳴り響いた。


 岩魔二号の命令で、身の丈2メートルはある怪機械人間トラッシュキャン・マンがギリギリと両腕を上げ、ガシャンガシャンと歩いて三人と一匹に襲いかかってきた。


「ビーギガガガ……」


 観客席の岩石人間兵士たちが歓声をあげる。


「やれっ、やっちまえ、自動鋼鉄兵士!!」


「人間の呪術師なんかペシャンコにしてしまえ!!」


 左七郎が刀を抜いて青眼に構えた。


「くそっ……泰平の世に鎧武者と戦うはめになるとは思ってなかったぜ……」


「左七郎、お前は下がっていな……こいつらはあたし達じゃないと倒せない!」


「そうなのです……天摩流妖霊退治人にまかせるのですよ!!」


「けどよぉぉ……」


「まずは見ていてくださいなのです……天摩流風術・風頸掌ふうけいしょう!」


 黄蝶が両のてのひらを前に突きだし、神気を集める。 


 空気が渦を巻いて手に輪をつくり、空気が両掌に小さな玉となって圧縮された。

 

 風の圧縮気功弾が右の鋼鉄兵士の足の踵あたりに放たれた。

 

 重い胴体をもつ鋼鉄兵士はバランスを崩して前のめりに倒れた。


「黄蝶ちゃんの手からなんか透明な物が飛び出たぁぁ!!」


「足元を狙うとは考えたな黄蝶……次はあたしの番だ!! 天摩流火術・鬼火矢おにびや!」


 紅羽が比翼剣を両手に構えて交差させ、交点から炎の神気があふれ出し、炎の矢となって放たれた。


 火閃が走り、左側の鋼鉄兵士の頭部に命中。


 炎に包まれ、黒煙をあげて転倒した。


「やったか?」


 だが、倒れた二体の自動鋼鉄兵士は蛇腹の手をついて起き上がり、再び襲いかかってくる。


「ギガガガガガ……ビー!!」


「ビービーグゴゴゴゴッ!!」


 怒ったような怪機械人間は両手を振り上げ、鉄の爪を二女忍に打ちつけた。紅羽と黄蝶は後ろに飛び退く。


 右側の鋼鉄兵士の胸部が観音開きになって、光線砲が迫り出した。


 イーマがロボット兵士と黄蝶の間に割り込み、


「このままでは危ない……黄蝶様、わたしの背にのってください!!」


「イーマちゃん!!」


 黄蝶が白犬イーマの背中に乗り、首に両手を回して捕まった瞬間、イーマは右に走った。


 黄蝶がいた場所に白熱光線が照射され、煙をあげて焦土と化した。


 昭和のレトロ・ロボット玩具のようなユーモラスな姿形だが、恐るべき自動兵器人間である。


「ぴえええっ!! 危なかったですぅ!!」


 鋼鉄兵士はなおも胸部から白熱光線砲を黄蝶とイーマに向けて放った。


 イーマが駆け、その跡を熱線砲が追いかけ黒焦げをつくり出す。


 闘技場の外壁まで追い詰められた。


「おおッ!! 鋼鉄兵士がこっちに光線砲を向けたぞ!?」


「逃げろぉぉ!!」


 岩石人間兵士が慌てて避けるが、そこへ怪機械人間の熱線がイーマと黄蝶を襲う。


 熱線は反物質バリアの透明障壁に呑み込まれるように消滅した。


「この観客席は反物質バリアで覆われているから大丈夫だってのに……慌て者兵士どもめ……」




 一方、左側の鋼鉄兵士の胸部も観音開きで、その内部には三×三の小型ミサイル発射台であった。


 上部の一発のミサイルが発射され、煙の筋をひいて紅羽を襲う。


「これは焙烙火矢ほうろくひやみたいなものか? ならば……天摩流火術・火炎鷹かえんだか!!」


 紅羽の剣先から火焔の神気で形成された鷹が生じ、飛翔して猛禽のごとき素早さで敵ミサイルに命中し、空中爆発した。


「グギギギギ……ビービー!!」


 小型ミサイルを迎撃された怪機械人間は次々と胸部ミサイルを次々に発射させた。


 四方八方に曲線を描いて紅羽に襲いかかる。


屑鉄くずてつ兵士め……下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるってか……ならば火炎鷹連撃!!」


 比翼剣の交点から次々に火炎の猛禽が生み出され、敵ミサイルに襲いかかり、自爆した。


 後発の敵ミサイル二発が頭上を大きく曲線を描いて紅羽に襲いかかる。


 これを他の火炎鷹二羽が空中を反転し、追尾式ミサイルのように追いかけ、敵ミサイルを爆破した。


「ビーグガァァァァ!!」


 鋼鉄人間の背中のハッチが開き、ロケット噴射器が迫り出し、空中を飛んで紅羽に迫った。


 横を向いて飛ぶ怪ロボットは鉄の爪で紅羽の首をひねり切るつもりだ。


「なにっ!? 奴は空を飛ぶのか!!」


 超兵器で武装した二体の鋼鉄機械兵士に襲撃された紅羽たち……果たして打開策はあるのか!?



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