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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第十二話 岩魔!外宇宙から来た妖怪
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SF巨大妖物の島

 礒岩島の穴から、天水桶の幅ほどもある胴廻りに、人間をひと飲みに出来るほどの頭をもつ岩石大蛇が出現。


「ぴえええええっ!!」


「今度は蛇の岩魔かよ!!」


 赤い単眼がぬめ光り、蛇体をさらに伸ばして、口がクワッと開かれた。


 槍の穂先のような牙が並ぶ口の奥から、白いきりのようなものを結晶化した渡海屋一味に吹きかけた。


 水晶群像が不気味に輝くきりに包まれ、水晶がふるふると豆腐のように揺れた。


 潮解ちょうかい現象で結晶化人間は溶け崩れ、透明な液体養分となって岩蛇の口に吸引された。


「わあああああっ!? 渡海屋たちが……化け物蛇に喰われたぁぁ!?」


「ボケッとしていると、お前も喰われるぞ!!」


 紅羽が腰を抜かしそうな左七郎の背中を蹴り、悪童侍は礒岩の影に逃げ込む。


「そこの岩陰に隠れているのですぅ!!」


「はい……うぅぅぅ……情けないが、妖怪相手じゃ俺の刀も通じねえ……」


 怪蛇は長い胴をうねらせえ、紅羽たちに襲いかかった。


「どうするですか、紅羽ちゃん?」


「昨日の大海蛇より小ぶりの大蛇だ、怖るるに足りないって……例の手でいこう!」


「はいなのです!」


「さきほどの連繋ですね、了解しました!」


 紅羽が両刀を岩石大蛇にまっすぐ向け、刀身に赤い神気を凝縮させた。


「天摩流火術・火鼠連撃ひねずみれんげき!!」


 両手の太刀から火焔弾が次々と打ち出され、岩石大蛇の体に命中。


 すると、単眼岩蛇は穴の中に戻って身を隠した。


「岩穴に隠れるとはあっけない蛇岩魔だな……」


「紅羽さま……油断は禁物です。用心深いのかもしれませんよ?」


「……なるほど」


「でも、磯島の中にひっこんだら、倒すのが厄介なのですよ……」


「なに、穴の中に火炎を吹きこんでやるよ!」


 紅羽が岩穴に駆け寄ろうとしたとき、周囲に嫌な気配、妖気が幾重にも感じられた。


 三人と一匹がゆっくりと背後を振り向くと、他の岩穴から岩蛇が五匹這い出て、紅羽たちを凝視していた。


「いつの間に……」


「ぴえん……この島は岩魔の巣だったのですぅ……」


「うへえ……こんなに化け蛇がいたとはなア……くわばらくわばら……」


「左七郎さん、それは雷よけのおまじないなのですよ?」


「紅羽様……ここはいったん、船に隠れましょう! 身を隠しながら戦うのです!!」


「そうだな……奇襲戦は忍者の得意とするところだ! 黄蝶、あの術を……」


「あれですね……天摩忍法・胡蝶……」


 黄蝶が結印し、幻の蝶を生み出そうとしたとき、五匹の岩蛇が音もなく岩穴へ消えていった。


「蛇岩魔がみんな引っ込んだのですぅ!?」


「おおっ!! きっと、妖霊退治人の黄蝶ちゃんたちの気魄に押されて、巣へ逃げ帰ったに違いねえぜ!!」


 岩陰から左七郎が出てきて小躍りした。


「そんなわけないだろ……何かある!」


 紅羽がそういった途端、礒岩島が揺れ始めた。


 揺れはひどくなり、四名は近くの磯岩にしがみつく。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


「ぴええええ……地震ないですぅ!?」


「いえ……揺れているのはこの島だけのようです!!」


「なんだって? もしかして、ここは赤鱏あかえいの島か!?」


 赤鱏とは、『桃山人夜話』などに紹介されている、体長が三里(約12km)もある巨大なエイの話だ。


 漁師などが島と勘違いして上陸すると、巨大エイはいきなり沈んで海底に引き込まれてしまうという話である。


「まさかそんな……」


 礒岩島は波しぶきをあげて海面を上昇し続け、銀鮫丸とマキューラ号が海にずり落ちていった。


 磯岩の小島は氷山の一角であった。


 巨大な岩塊が海面から浮かび上がり、三倍の大きさの島となっていく。


「うわあぁぁぁぁぁ!!!」


「ぴえええええええっ!!」


「どしぇぇぇぇ!!」




 そのとき、磯岩島から六里(約二十四キロ)ほど離れた海上に目立つ朱塗りの小早こばやがこちらに向かって来るのが見えた。


 四十人の漕ぎ手が四十挺で力強く海を進む。


「むっ……小早を進めていた謎の海流がなくなりましたぞ? 早く進めるのはいいが、離岸流のように沖まで流されては大変だった……」


「それは良かった……俺は海の素人なので、なんの手助けもできず……」


「いえいえ……昨日はあなた達のお陰で大海蛇を倒し、天明丸を破船させずにすんだのですから、今度は我らが助ける番です!」


 舟には松田半九郎、松影伴内、秋芳尼の姿が見えた。


 舟を漕ぐのは船手組同心の木下の指揮で船手水主たちが必死に櫓を漕いでいる。


 松田半九郎から事情を聴いた船手組同心木下が、漕手こぎての有志をつどって、明鐘岬まで運んでくれたのだ。


 秋芳尼は船酔いがひどいので、伴内が催眠術で眠らせ、板子いたごの上で眠っている。


「木下さま、前方に怪しげな船が見えます!!」


「なに!? 渡海屋の千石船・銀鮫丸か……やや、もう一隻船が見える……あれは……異国船だ!?」


「異国船……さいきん日本近海に増えているのは本当だったのですね……しかし、日本の船と違いますなあ……帆など巨大な三角の折り紙のようだ……」


 そのとき、美貌の尼僧が板子から起き上がった。


 朦朧とした状態で、半眼の妖しい麗しさがあり、垣間見た船手水主たちが思わず息を呑む。


「おお、目覚めましたか、秋芳尼さま……銀鮫丸に追いついたようですわい!」


「船を止めて下さい! 大波が来ます!!」


「えええっ!?」


 前方に見えた銀鮫丸とマキューラ号が斜めに傾ぎ、海面うなもに横倒しとなり。


 船体は破壊孔を中心にへし折れ、崩壊し、海底に沈んでいく。


 その代わりに小さな岩礁のような小島が見る間に大きくなっていった。


「海から島が出てきた!?」


「まさか……海底火山か!?」


「早く船を岸へ!! 船手組の底力を出すときだ!!!」


 逞しい漕手たちが「おおうっ!!」と腕に力瘤をつくって櫓を漕ぐ。


 秋芳尼の声で我に返った漕手たちは房総半島沿岸へ向けて必死で漕ぎ始めた。


 その間にも小島は巨大な球体の岩塊となり、やがて空中へ浮上していく。


 巨大岩塊は直径100メートルもあるようで、総重量はかなりものだろう。


 その岩肌は、眼を閉じ、膨らんだ鼻、牙が生えた口腔と、鬼のような形相の人面に見える。


 それが遠近法を著しくおかしくさせる。


「莫迦な……あんな大きな岩島が空中へ……しかも、人の顔のようにも見える……」


「まるで悪夢を見ているようですわい……」


 松田半九郎と伴内が信じられぬ面持ちで宙を見上げ、秋芳尼はじっと人面岩を見つめていた。


「紅羽たちは……あの岩の上にいます……」


「ええええええっ!? 本当ですか秋芳尼殿……紅羽も黄蝶もイーマも無事なのですか?」


「ええ……彼等の神気を感じます……しかし、この先どうなるのか……」


 空中を浮遊する人面岩は高度300メートル付近で停止し、ゆっくりと房総半島の山脈に向けて移動していった。



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