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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第十二話 岩魔!外宇宙から来た妖怪
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脱出

「渡海屋め……あたし達を只の娘だと思って油断しているようだ……」


「でもでも……このままでは異国に売られちゃうですぅ……どうするですか?」


「なあに、天摩流忍者を舐めてもらっちゃ困るよ……いざという時のために、小頭に縄抜けの術を習ってあるさ」


「おお……さすがなのです!!」


 紅羽が右足の草鞋を脱いで足の指を動かし、左足を覆う脚絆きゃはんをゴソゴソとさせ、細い金属の棒を取り出した。


 そして、器用に金具の一端を口にくわえた。


「なんですか、それ?」


「ヤスリさ。これで縄を削ってとく。黄蝶、こっちに縛られた手を出しな」


「はいです!!」


 紅羽が身を屈めて黄蝶の縄を削りはじめた。


 しかし、実は初めての縄抜け術の実践で、なかなかうまくいかない……焦った紅羽はヤスリを落してしまった。


「くぅぅぅ……いらっとするなあ……」


 紅羽の様子を床に転がってふて寝していた左七郎がじっと見ていたが、


「……お前ら、この船室から出ても外は海だ……とても陸地までは泳いでいける距離じゃないぜ……」


「うるさいな……それより、お前、あたしたちが脱出するのを渡海屋に知らせるなよ!」


「……ああ、いわねえよ……それより、俺の名前は知ってんだろ? カワイコちゃんの名前はなんていうんだい?」


「あたしは紅羽だ」


「お前じゃねえよ、そっちの妙な二つ結びのカワイコちゃんだよ!」


「なっ!!」


「黄蝶というです……カワイコちゃんだなんてそんなぁ……」


「いやいや……俺はこれでも美人にはうるさいんだが、今まで見たなかでも一番かわいいぜ!」


「やだぁ……そんな事ないですよぉ……」


 真っ赤になって照れまくる黄蝶に対して紅羽は、


「おいっ!! うちの純情な黄蝶にコナをかけるんじゃないよ!」


「いいじゃないか、思ったことを言っただけじゃねえか!」


「二人ともぉ……黄蝶のために喧嘩しないで欲しいのですぅ……」


 その時、船室の明かり取りの窓が塞がり、日差しが消えた。


 妙に思った黄蝶が窓を見ると、そこから猫ほどの大きさのあるヤモリが顔を出した。


「ぴえええっ!!」


「どうした黄蝶? あわわわ……」


 窓から這い出してきた大きなヤモリは身体が水飴みずあめのように伸びて、銀色の粘液となり、床に粘塊が広がると、やがて白い犬の姿になった。


「イーマちゃんなのです!!」


「助けに参りました……黄蝶さま、紅羽さま……」


「なんだぁぁ!? ヤモリが犬になった……そして、犬がしゃべったぞ!?」


 眼を白黒させる左七郎。


 その間にも液体金属犬イーマは牙で紅羽と黄蝶の手を縛る縄を噛み切った。


「おおっ!! 助かったぞ、イーマ!!!」


「お役にたてて良かったです。それと黄蝶さま、忘れ物です」


 イーマの身体から円月輪がふたつ出てきた。


「ありがとうなのです、イーマちゃん!!」


 黄蝶が白い犬の首筋に抱きついて頭を撫でた。左七郎がうらやましそうに見ている。


「紅羽ちゃん、これからどうするですか?」


「まず、ここから出て、武器を取り戻そう……そして、小舟を奪って逃げる」


「おい……小舟は甲板にくくりつけているだ……渡海屋の手下に見つかっちまうぞ!?」


「あたし達を舐めてもらっちゃ困るねえ……人呼んで、妖霊退治人、天摩流の紅羽さんとはあたしのことさ!!」


「妖霊退治人だとぉぉ……なんだそれは?」


「たはっ……お前も知らないのか……天摩流の妖怪退治の御業みわざを見せてやるよ!!」


 そういって、紅羽は九字をきり、印を結んで臍下丹田に神気を集めた。


 扉の閂がある辺りに両手を当てた。


「天摩流火術・火鼠!!」


 紅羽は火焔玉を撃ち出さず、扉に高熱を直に当てた。


 ゴゴゴゴゴッと音がして丸く黒焦げの穴が開いた。


 木製の閂も焦げて床にガタリを落ちる。


「なんだぁぁ……木の扉が焼け焦げたぞ!?」


「おおっ……さすが、火術の紅羽ちゃんなのですぅ!!」


そろりと首を出すが、廊下には誰もいない。

「よし、行こう……」


 紅羽が廊下に飛び出すと、黄蝶とイーマも続く。


「待て、俺も連れていけ!! 手助けしてやる」


「左七郎さん……助けてくれるのですか?」


「ああ……船のことを知っている。助けになるはずだ」

「それじゃあ……」


 黄蝶が左七郎の縄をほどこうとすると、紅羽が止めた。


「駄目だ、黄蝶……こいつは渡海屋に気にいられている……あたし達の仲間になると見せかけて、後ろからバッサリ、ってのも考えられる」


「ぴええええっ!?」


「んな事はしねえよ!! 俺は渡海屋とは縁を切る……それに、第一、黄蝶ちゃんが異国人に売られるのだけは我慢できねえ!!!」


「左七郎さん……」


「ほだされるな、黄蝶!! こんな悪若衆あくわかしゅ、信じられん!!」


 悪若衆とは、今でいえば、不良少年のようなものだ。


「愛に目覚めた俺を信じられねえってか!!」


 憤懣ふんまんやるかたない左七郎であったが、ぷいっと背中を向け、床にゴロリと寝っころがった。


「まあ、それも仕方ねえ……さっきまで敵だったんだからな……行けよ……」


「………………」


 黄蝶がイーマから渡された円月輪を取り出し、左七郎の縄を切った。


「黄蝶!!」


「大丈夫ですよ、紅羽ちゃん……この人は根っからの悪人じゃないと思うです。紅羽ちゃんも、本当はそう思っているのでしょう?」


「……しゃあないなあ……」


 紅羽が息を吐いて許した。イーマは尻尾をふっている。左七郎はピョンと床から起き上がり、


「さすが、黄蝶ちゃん……俺の惚れこんだ女の子だぜ!!」


 手を握ろうとした左七郎から、ぴょいと身をひき、


「ただし、前を行くのです……妙な事をしたら、これでバッサリなのですよ」


 少女忍者は笑顔で円月輪を斜めに振る仕草をした。


「ありゃっ……可愛い顔して、容赦ようしゃがないのねえ!!」


「そうだ、うちの黄蝶を舐めるなよ!!」


「だが……そんなところも可愛いいぜ!!」


「ずんこけ~~~~!!」


 ともかく、紅羽が扉を開けて、外の様子をうかがう。


 すると、コツコツと廊下を歩く足音が聞えてきた……


「誰か、来たようだ……」



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