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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第十二話 岩魔!外宇宙から来た妖怪
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用心棒左七郎

 黄蝶は口をふさがれ、蔵の物陰に引っ張り込まれた。そうしたのは紅羽であった。


「ちょっ……急になにするですか、紅羽ちゃん!!」


っ!!」


 紅羽は黄蝶の手を引っ張り、慌てて塀の物陰に隠れた。


 落した木箱をかたづける人足たちの前に、人足頭が飛んできて、


「バカヤロウ! なにしてやがる!!」


「すいやせん!!」


 人足頭が激昂して、人足達は平謝りだ。


 塀の影で紅羽と黄蝶は低声こごえで、


(あの木箱には○に渡ノ字の紋が書いてあるぞ……渡海屋繁蔵の船だ)


(渡海屋繁蔵というと……昨日、黄蝶たちにちょっかいをかけてきた廻船問屋ですね!)


(ああ……あの水晶像の抜荷……抜荷買いの一味は渡海屋だったんだ!)


(たいへんなのです、松田のお兄ちゃんに知らせるのですよ!!)


(ああ、さっそく……)


 紅羽と黄蝶がきびすをかえして、松田に報告しようとしたとき、


「……余計なものを見たな……」


 声をかけたのは、渡の字を丸でかこんだ法被はっぴをはおり、赤銅色に日焼けした見覚えがある男たち。渡海屋の人足と水主たちが八名ほど。


「なんだか、見覚えのある奴だなあ……」


「げっ、お前たちは昨日の……」


 二人に痛い眼にあった渡海屋の手下、紋次と捨松である。


「お前たちは……昨日、神田であった渡海屋の水主だな……」


「木更津まで来て、渡海屋の船を探っていたところを見ると、やっぱり、お前達は町奉行所の手先か!!」


「あいにく、幕府おかみの手先じゃアないよ……あたし達は寺社奉行所に仕事をもらっている妖霊退治人さ!!」


「ヨウレイ……なんだそりゃ?」


 人足たちが訝しげな表情となる。


「あたたっ……まだあたし達を知らない奴がいるのかぁ……」


「なんでもいい……あれを見られたからには、簀巻きにしてふかのエサにしてくれる!!」


「へっ、昨日の仕返しだぜ!」


 紋次と捨松が魚杈やすという、棒の先端が鋭利な三又の金物がついた漁具でふたりに突きかった。


「懲りない奴らだなぁ……」


 紅羽が紋次の突き出した魚杈を、身をひねってかわし、棒の真ん中をにぎって紋次の右側に廻り込み、同じ向きをむいて、左肘の先で鳩尾みぞおちをついた。


「ぐはあぁぁぁ!!」


 男はくの字になって背後へ倒れ込んだ。黄蝶は捨松の繰り出した魚杈を、宙を飛んで避け、三又が積荷の木箱に突き刺さってしまった。


 捨松が慌てて引き抜こうとする、須臾しゅゆの間、黄蝶の踵落かかとおとしが男の頭に直撃し、昏倒してつっぷした。


「捨松、紋次!」


「こいつら、やりやがるな……」


 ぎょっと、たじろいた人足と水主たち。


「もう、おしまいなら、あたし達は帰るよ……」


 紅羽がニヤリとしたとき、顔に影がかかった。


 中空を見上げると、大きな投網とあみが娘剣客と少女忍者にふりかぶった。


 人足頭が、投網でふたりを捕えたのだ。


「ひひひひひ……一網打尽いちもうだじんとはこの事よ……」


 人足のひとりが薪ざっぽうで網にかかった紅羽の頭を叩いた。


 が、ガツンと乾いた音がする。


 妙に思ってよく見ると、それは紅羽と黄蝶ではなく、近くにあった捨て樽であった。


「なっ!! いつの間に……」


「これぞ、変わり身の術さ!!」


 渡海屋の人足たちの背後から紅羽が現れ、右手の太刀の峰が男たちの首筋や鳩尾などの急所を狙って昏倒させた。


「ぐえええっ!!」


「ぎゃん!!」


黄蝶がに帯から円月輪を取り出し、右手を旋回させて、人足の突き出すもりの柄を切り飛ばした。


「なんだとぉぉ!!」


 少女忍者は驚愕する人足に左手を向け、


「天摩流風術・風頸掌ふうけいしょう!」


 黄蝶が風を圧縮した気功弾をつぎつぎと打ち出し、急所にあたった手下たちは気絶していく。


「おいおい……ずいぶんとだらしねえなあ……」


 蔵の影から、「コッ……キン!」という妙な音がして、長崎ビードロを吹く、赤白市松模様の着物を羽織った、背の高い若侍が出てきた。


 ガラス製玩具を懐にしまい、打刀を抜いて右手一本でもち、紅羽へ向けた。


「おお、左七郎!!」


「こいつらをやっつけろ!!」


「うるせい!! 町人ごときが俺に指図するない!!」


「なんでもいい、用心棒らしく仕事をしろ!」


「わかっているよ!!」


 紅羽は青眼に構え、左七郎に対峙する。


 黄蝶は紅羽の背後に立ち、残りの人足たちは左七郎の背を遠巻きに見守る。


「またお前か……若造のくせに、ずいぶんと腕を買われているようだな……」


「ああ……これでもそれなりの腕はあるつもりだ……」


「まだ若いくせに悪党の片棒をかつぎやがって……抜荷は御法度だって知らないのか? 渡海屋は相当のわるだぞ」


「へん、幕府の決まり事なんざ知ったことか……渡海屋が悪なのは知っている……俺はその悪から用心棒代をせしめている……つまりは、悪の悪、大悪よ!!」


「なんだそりゃ……どうしようもない狂犬の悪若衆あくわかしゅめ……」


「てっ、おい……さっきから若造というが、お前たちも充分に若造だろうが!!」


 左七郎が右にじりじりと摺り足で動くと、つられて紅羽も紅凰を油断なく構え、じりじりと右に摺り足で進む。


 六尺ほどの遠間の間合いから、互いに隙をみて一足一刀の間合いに入り、先に相手へ攻撃をいれようと見計らっている。


「紅羽ちゃん、がんばってなのです!!」


「わかっているさ、黄蝶!」


「ちぇっ……可愛い女の子の声援つきとは、うらやましい野郎だぜ……」


「可愛いだなんて、そんなぁ……」


 黄蝶が両手を頬にあてて照れる。


「あっ、でも、紅羽ちゃんは野郎じゃなくて、女の子ですよ?」


「なんだってぇ!?」


 左七郎が思わず黄蝶に視線をむけた、わずかな隙。紅羽が右足を大きく前に踏み込んで、一気に進み出た。


 紅羽の踏み込み足に対して、左七郎は半身となって避けた。


 右手の刀の峰を紅羽の小手に叩きつけるが、紅羽は素早く背後に下がり、空振り。


 用心棒が右手をまっすぐ上にあげる奇妙な構えをとり、警戒した紅羽は太刀を青眼に構え迎撃態勢をとる。


 左七郎が右手剣を鷲のように鋭く打ち出した。


 美しい金属音がして、火花が散った。


「きゃん!!」


 黄蝶の悲鳴がして、紅羽が背後に四尺跳んで振り返ると、少女忍者が円月輪を落して、地面に崩れ落ちるところであった。


「黄蝶!!」


 彼女の周囲に人はいない。いや、足元になにか黒い影が踊った。


 それを視認したと同時に、女剣客の足首にチクリと痛みが走った。


「なんだっ!?」


 紅羽が左足を見ると、何か黒いひものようなものが巻きついていた。


 それは長さ六丈(約六メートル)もある黒革の鞭で、その先にがっちりした体躯の男がいた。


 視界が陽炎のようにぼやけ、意識が混濁していく。


「しまった……これは毒針……」


 女武芸者が地面に崩れ落ちる。


 黒塗りの鞭の先には微細な針が埋め込まれ、柄の仕掛けをひねると、眠り薬が塗られた毒針が突きだすのだ。


「ふふふふふ……ここで騒いでもらっては困るのでな……」


「……お前は…………」


 毒針革鞭を持っていた男は渡海屋繁蔵であった。


 紅羽が人事不省となって倒れ込む。



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