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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第二話 妖刃!鎌鼬斬り
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人と妖怪と……

 鎌鼬三兄弟は絵馬を持参して越後の風妖怪の国へ戻ることになった。


「そうか、もう……故郷クニに帰るのじゃな……」


「江戸見物でもしていけば良いのに……」


 竜胆と紅羽が寂しげに言うが、又一郎と又二郎はかぶりを振る。


「へい、一刻もはやく風神大王・窮奇様に報告するだわや~~」


「いひひ……日の本各地に散って、鎌之助を探している他の風妖怪を戻さねえと……」


「家族が首を長くして待っているだわや……」

 彼等には彼等の事情があるのだ。


「「竜胆の姐御、紅羽の姐御あねご、ありがとうございやした!」」


「……おいおい、だから姐御はよせと……」

「いいじゃないの、竜胆……妖怪渡世人なんだから」


 紅羽が竜胆の腰をつついてからかうが、竜胆はフン! とそっぽを向く。


「黄蝶ちゃん……今回はありがとう。お礼にこれを……」


 越中富山の薬売りの姿となった又三郎が貝殻に入った膏薬すべてを手渡す。


「これは、越後国に生える薬草に霊力を練り込んだ秘薬ですね……いいのですか?」


「妖怪退治人なら怪我をすることもあるでしょ……そのとき、お使いください」


「ありがとうですぅ……大切に使わせてもらうのです」


 かくて鎌鼬三兄弟はふたたび旋風と化して夜の江戸を北へ――越後国へむけて飛んで行った。あとには三人の妖怪退治人がいるばかり。


 十番町の破壊された建物の木材や、漆喰、瓦などが飛散して無残な状況だが、亡くなった者はいなかった。

 黄蝶が名残惜しげに小さくなっていく旋風を見つめている。その小さな肩を竜胆の手がそえた。


「黄蝶……もしや、おぬし。又三郎に……」

「えぇぇぇぇぇ!? 竜胆ちゃん、なんの事ですか!!」

 耳朶じだまで赤くなった黄蝶が竜胆に振り返る。


「だから……」


「本当になんでもないのですぅぅぅ!」


「んんんんん……なになに? どうした? あたしも仲間にいれてよぉぉぉぉぉ!」


 意味ありげな黄蝶と竜胆の会話に、紅羽が割り込んでくる。


「紅羽ちゃんまで……なんでもないですってばぁぁぁ……」


 三人が騒いでいるなか、北の空に青い光が閃いた。


「なんだ? 稲妻か?」


「いや、違うようじゃ……」


「あれを見るです!!!」


 黄蝶が指さす方角を見れば、遠くに鎌鼬兄弟のつむじ風見え、それに青く光る糸のようなものが地面とつながっていた。鎌鼬の旋風は回転を止めて、地面に小さなものが落下していく。


「又三郎さん!!!」


 妖怪退治人たちは顔を見合わせ、鎌鼬兄弟の落下した地点目指して早駆けした。

 鎌鼬兄弟の落下地点は空き地となった屋敷跡で、枯草のなかにボロボロの廃屋が見える。そこに大柄な山伏がいて、手に光るものを持っていた。それは光り輝く縄で、その先には鎌鼬三兄弟が雁字搦がんじがらめに捕縛されていた。


「あれは……轟竜坊か!」


「ぶるぁあああああ……妖怪退治人の小娘どもか? ……ひっく」


 酔いつぶれて暗闇坂でひっくり返ったはずの轟竜坊は半鐘の音を聞いて巨大カマキリ騒動を知り、ここまで駆けつけたのだ。


「妖気を感じて見上げれば、怪しいつむじ風が飛び去るではないか……あおの大蟷螂妖怪が逃げるとみて、我が輩がこの『妖縛条ようばくじょう』で捕えたんじゃい……ひっく」


「おいっ、山伏! 放すだわや!」


 又一郎と又二郎が縄から抜け出ようとするが動けない。


「無駄じゃ無駄じゃ、鎌鼬ども! この妖縛条は悪霊妖怪を封じ込め、妖力を無効にする力を持つ。ひっく……それにしても、大蟷螂の正体がこんな小さな鎌鼬どもだったとはな……」


「山伏さん……我々の話を聞いてくださいっちゃ……」


「聞く耳なぞないわい! なにか術をかける気であろうて……」


 又三郎が平和的に交渉するが、轟竜坊はかたくなだった。


「轟竜坊さん! その鎌鼬さん達は巨大カマキリさんとは別人……じゃなくて、別妖怪ですぅ!」


「そうだそうだ! 黄蝶姐さんのいうとおりだわや!」


 黄蝶が必死に羽黒山伏に訴え、又二郎もわめく。


「なんじゃとぉぉぉ? 見よ、この鎌鼬の背中に背負った絵馬を……カマキリの絵じゃ! あの巨大カマキリに化ける憑代よりしろに違いないわい!」


「違うのですぅぅぅ! 鎌鼬さん達ははるばる越後国から悪いカマキリさんを捕まえるために江戸までやってきたのですぅ」


「はぁぁぁぁぁン? 妖怪なんぞのいう事を信じるのか貴様は? 貴様は人間より妖怪の味方か!」


 轟竜坊は怖ろしい形相になって、錫杖をかまえ、小柄な黄蝶をにらみつける。思わず後じさりする黄蝶。


(ぴえ~~ん……怖い顔ですぅぅぅ……でもでも、このままじゃ……)


 黄蝶の右肩に温かい手が触れた、紅羽だ。左肩にも手が触れる、竜胆だ。


(紅羽ちゃん……竜胆ちゃん……)


 二人のぬくもりが黄蝶に勇気を与えた。


「人間にだって悪い人もいれば、良い人もいるですぅ……妖怪にだって悪い妖怪もいれば、良い妖怪だっているのですぅ!」


「むぅぅぅぅ……確かに人間にも善人悪人はあるが……妖怪すべてが邪悪な存在ではないというのか……」


 轟竜坊が口をへの字に曲げて難しい顔になる。


「それでも鎌鼬さんたちを解放しないと、黄蝶も黙ってないですぅぅぅ!」


 黄蝶が円月輪を取り出して両手に構えた。


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